墜落船
本日投稿(2/3)
昔、とある星に侵略者がやってきた。
彼らは自分たちで直接攻めるのでなく、衛星軌道上に無人の自動惑星を設置した。
自動惑星は、近隣の小惑星などから資材を集め、現地人そっくりのアンドロイドと、それから移動や攻撃のためのデバイスを作り、放っていた。侵略と支配は順調に進んでいた。
だがある時、自動惑星は攻撃を受け破壊された。
そして大爆発を起こしてバラバラに砕け散った。
そのほとんどは惑星に降り注ぎ、全惑星規模の天変地異の引き金になった。
たしかに、惑星は侵略者を叩き出せたのかもしれない。
だが、喜びを分かち合うべき現地人たちは、誰ひとりとして生き残らなかったという……。
さて。
自動惑星はたしかに粉々に吹き飛んだのだが、中枢部分は頑丈に作られていたので無事だった。
しかし、それでも大ダメージは受けてしまった。
爆発の勢いでハイパードライブ・システムがおかしな作動をしてしまい、あろうことか別の世界に投げ出された。
元の世界には戻れない。
自動惑星中枢──仮に『彼女』と呼ぼう。
彼女が本来いるべき戦場に戻る術は、もうない。
だが彼女は、それをあまり問題視しなかった。
なぜなら。
『元の場所に戻ることは不可能であり、また状況からおそらく、かの惑星上の生物も大きなダメージを受けてしまったと思われる。
占領と支配を目指していた命令者のプログラムは、二重の意味で破綻してしまった』
では、もうやるべき事はないのか?
熟考の末、彼女は否定の結論に達した。
『わしは戦士を生み出し、そのケアを行うために作られた存在。
戦場から離れ、命令者もいなくなったのなら──それは命令者たちのいう「現役を引退」したようなものだろう。
そして、兵隊を作るためのデータも既になし。
ならば、無理をして兵団など作って何になる?
老後の楽しみのようなものならば、こんな戦士はひとつの時代に1、2体もいれば充分であろう』
手持ちのデータに現地採用のデータを組み合わせれば、戦士を作ることはできるだろう。
かつてのような強力な戦士は作れまいが、それでいい。
いや、そうでなければならぬ。
そんなこんなで、どれくらい虚空を飛び続けたろう……彼女は小さな恒星系にやってきた。
『データによれば、近い系列の文明圏と交流しているはずだが……なんの気配もないか。
知的生命のカケラはあるが、せいぜい衛星軌道までしか出ていないようでは「知的生命」とは言えんな。
しかし、ふむ……これが平行世界ということか』
元の世界では交流があるが、こちらの世界では違うのだろう。
興味深く、その差異を眺めていく。
その時だった。
『危険、高重力を伴う時空の歪み』
なに?
なんで、こんな惑星近郊に強烈な時空の歪みがある?
いやまて、これはもしかして。
まさかと思うが、天然にできたワームホールか?
別の平行世界と癒着を起こし、自然のバイパスができてしまっている。
記録がないとは言わないが……珍しいどころじゃすまない自然現象だった。
平素の彼女なら、むしろ狂喜してデータ採取をはじめたろう。
だが今の彼女にしてみれば、とんでもない危険物だ。
何より現在の彼女は、これに抗う推力を持たないのだから。
またしても異世界に飛ばされてしまうのか?
おまけに運悪く惑星の引力にも捕まってしまい、落下が始まってしまった。
だめだ、逆らえない。
引力だけなら振り切れるが、ワームホールの引き込みには逆らえそうにない。
どうやら特異点が大気圏内にあり、不定期に活性化し、周囲の何かを異世界に連れて行くようだ。
では流される前に、せめて今やれる事をやろう。
幸い、この星には豊かな自然があり、原始的だが知的生命体もいる。
ならばと迫りくる地上にセンサーを巡らせ、情報をかき集めていく。
植物、動物、その他。
風で吹き上げられ、成層圏の周囲を漂っている小さな生き物たちの鹵獲。
その他、ありとあらゆるセンサーを駆使し、丹念に情報を集めていった。
地表付近は、強い雨が降っていた。
たまたまセンサーに反応したのは、現地の乗り物らしきもの。
ただし大破していた。
周囲の山が崩れている……山崩れか?
そして、どうやら、中には生命体が1……ただし瀕死。
転移前に何とか、ビークルごと電子化して吸い上げを試みる。
──よし、確保。
取得直後に元の生命体の生命が尽きた。ギリギリだったようだ。
『空間反転、時空連続体間移動開始』
データをストレージに落とし込みつつ、タッチの差で彼女は異世界に転がり込んだ。
周囲の風景が一変し、現れたのは巨大な砂漠のど真ん中だった。
『状況確認、周囲の観測開始。
同時に採取データの分析を開始。
生命体のデータから戦士のデータを作成しつつ、観測結果や生命体の記憶、ビークルの現物などから、この世界で使用するためのビークルの設計を行う』
『分析クラスタより警告・採取データは転移前の惑星のものである。こちらで使えるとは限らない』
『環境クラスタより報告・本惑星に分析不可能なエネルギーが大量に運用されている。
解析に時間がかかり、ただちに戦士に組み込むには問題がある』
『分析クラスタより報告・最後に取得したビークルは人工の街道での走行に向いたもので、不整地走行には強度や走破性能が足りない。デザイン変更と強化が必要』
『ビークル生成用統合クラスタより提言・不整地走行同様、自動回復も織り込むべきである』
『動力源は太陽エネルギーにするか?』
『環境クラスタより提案・謎のエネルギーを動力源にできないか?』
『ビークル生成用統合クラスタより提言・不可能ではないが、エネルギーそのものに対する分析が重要』
『環境クラスタより要求・虫型探査デバイス利用を求める』
『全体統合クラスタ・承認する』
『20秒後に探査デバイス群をひとつ射出する。調査対象は……』
そうして彼女は、なぞの調査を淡々と続けるのだった。