なんじゃこりゃあ!
朝。
めざめると、俺は大変なことになっていた。
いや、お元気な息子さんの事ではなくて。
「……」
「な……!?」
なんか目覚めると、裸の美少女が抱きついて寝てたでござる……んなアホな。
なんじゃこの、安物の青年漫画みたいな展開(偏見)は!?
「え、あ、あれ?」
状況にも驚いたけど、すぐに気づいたことがあった。
……あー俺、まだ夢見てるのかね?
いや、だってさ。
さっきまで、夢の中──そうそう、夢の中でキャンプしてて、そこで話してた女の子とそっくりなんだよ。
まぁ、なぜか髪だけは見事な銀髪だけどさ。
「……と、とりあえず」
ヒーター入れよう。
車中泊する時に窓に目隠しをするんだけど、これは断熱の意味もある。
それをしてない明け方の車内は冷え切っていて、裸の女の子が布団も何もなく寝てていい気温じゃない。
とりあえず、抱きつかれたまま、俺自身の機能を使ってキーをオンにする。
あ、ちなみに俺のエブリイは本来、昔ながらのエンジンキーを差し込むエントリー方式なんだよね。
だけど俺の身体はアンドロイドだし、エブリイもEV化されてるだろ?
するとだな、俺本人が認証システムになってて、俺が「始動」と思うだけでスタンバイ状態に切り替わるんだよねこれが。
……まぁ便利なもんだ。
「……ん」
で、その音と風の音に反応したのか、女の子が目覚めた。
「あ……おはほうほはいはふ……」
「おう、おはよう。さっそくで悪いが、何か着れ」
「はーい……お願いします」
「……は?」
そういって渡されたのは、なんかヒモと、申し訳みたいな布のついた何か。
「おい」
「はい、どんなポーズしますか?」
「そうじゃねえよ、なんで俺が着せる前提なんだ?」
「はい、お館様が、その方がハチ様は喜ぶと」
「……おい、ツッコミどころが多すぎて頭が変になりそうなんだが。
とりあえず、それは下着……なのかもしれないが、ウチじゃあそれは使えない」
「使えない?」
「あのな」
俺はためいきをついた。
「とりあえず確認するが、君はマザーが作った子だよね?俺の旅の相棒として」
「うん、アイリス」
ああうん、やっぱりそれ名乗るのね。
夢の中で俺がつけた名前、そのまんまなのね。
「あーうん、よくわかった。何がなんだかさっぱりだけど、今やるべき事は理解できた。
まぁ、とりあえずよろしくなアイリス」
「うん!ハチ様!」
様て……これもあとで訂正させよう。
「さっそくなんだが、これは下着じゃない。使い物にならないぞ」
「どうして?」
コテンと首をかしげてきた……可愛いって以外に表現がみつからないくらいに可愛い。
だから俺は、ためいきをついた。
「俺たちは移動中、座席に座りっぱなしなんだ。
するとだな、素肌がむきだしだと、蒸れたりこすれたりして、よくないんだ。
ちゃんとお尻を守る下着じゃないとダメなんだよ」
「……?」
だめだ、通じてない。
「とりあえず、ほかに下着は?あと服は?」
「?」
だめだこれ。
「ああもう、俺が女物なんて持ってるわけねえだろ……ちょっと待ちなさい。
マザー、おいマザー!」
『なんだい、うるさいねえ……徹夜の年寄りを叩き起こすのはよしとくれ』
「こいつの服はねえのかっつってんだよ!
まともな服、まともな服だぞ!」
とりあえず、マザーに服を出させた。
なんか、20世紀に作られた宇宙活劇作品に出てきそうな、着込むのでなく吹き付ける系の、ぴっちりスーツ。
これ本当に服なの?って感じだけど、まぁいいか。
体型も何もかもよく見えて、なんか全裸とは別の意味でエッチな気もするけど、とりあえず置いとこう。
「で?なんで、こんな下着もどき一枚しか作ってないんだ?」
つーかこれ、エロ下着ってやつだろ?現実に見るのは初めてだけどさ。
だがそんな事より、乗車時に履くには不適当だ。
だいたい、うちは作業服が似合いそうな軽の箱バンだぞ。TPOにあわせんかい。
『あんたの趣味にあわせたんだがね?』
「ひとの妄想をいちいち現実にするなよ、実用的な服にしてくれ」
『いひひ、そうかい、悪かったねえ。
けどまぁ、まじめな話をするなら、地球式の繊維の服は作成に時間がかかるのさ。
下着一枚だけなのはつまり、そういう理由さね。
これは冗談でもなんでもない、間に合ってないのさ』
なんだそれ。
「一晩で女の子作れるのに、服は作れないのか?」
『見たこともない異星人の服を、しかも必要な知識がまったくない、あんたの記憶だけを頼りにゼロから作るんだよ?
先にパンツ一枚できただけでも上出来だろ』
あー……まぁ、使われている技術はともかく、縫う部分も少なけりゃあ布地の面積も小さいもんな。
「この子も戦士なのか?」
『おかしなことではないだろ?
たいてい、探索任務は2体、もしくは3体でやらせるもんさ。
一体だと非常時にとれる対応が限られるからネ』
「あ、たしかに」
地球にもツーマンセルみたいな考え方があるが、マザーの文明でも同じらしいな。
『現地の文明レベルによっては恋人や夫婦って設定も普通にあるし、男女ペアも珍しくないよ。
ついでに言うと、あんたたちは元々ペアにする前提で作ってあるから、相性もいいはずさ。ま、好きにおし』
好きにおしって……。
だが、その事はあとでどうにかするとして、言うべき事があった。
「とりあえず、俺の記憶から、地球式の下着を10セットほどほしい……もう作ってるなら、できれば急いでくれ。
それから、作業服もほしい。ないなら追加で頼む」
『ん?今の服だとダメなのかい?』
「地球式の車に乗るんだから、地球式の服装がいいんだよ」
正直、よくわからない服の利用は慎重にいきたい。
当たり前だが、日本の軽自動車は宇宙人の服装なんて想定してないんだから……してないですよね、メーカーのみなさん?
肌に密着する謎素材のぴっちりスーツ……隣町に行くには問題なくても、千キロ走ったら思わぬ不具合が出るかもしれん。
そう、ハッキリとマザーに言ったら。
『……そうかい、それじゃあできるだけ急ぐよ』
そういって、マザーはなぜか優しげな顔になったのだった。
「ところで呼び名なんだが」
「なんですか?ハチ様」
「そのハチ様ってのはやめてくれる?あと敬語もいらないから」
「……わかった、ご主人様」
「悪化した!?」
様づけとか、さすがに勘弁してほしい。
もちろん、ご主人様とかはもっとごめんだ。
「じゃあ、だんなさま」
「何が『じゃあ』なんだよ。
ご主人様とかだんな様とか、俺は奴隷商人か何かか?」
昔みたアニメで、人身売買と間違えて保護した女の子型ロボットに、ご主人様呼ばわりされて困惑する主人公の話があったっけ。
今、彼の気持ちがすごくよくわかるわ。
「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「んー……見た目で言えば大人同士だからな。名字で呼び合うのは?」
「みょうじ?」
「名字を知らないのか……要するに家名だな」
「みょうじ、ないよ?」
う。
自分を指さして「名字がない」と言い切るアイリス……そりゃそうか。
「ハチでいい、呼び捨てで」
「むう……お兄ちゃんは?」
「やめてくれ、鳥肌がたつ」
「え、なんで?」
仕方ない、俺は説明した。
「小さい頃、歳の近い親戚が昔いてな、なかば実の姉みたいな感じだったんだ。
そしたら、いつもはお姉ちゃん風ふかしまくるくせに、都合の悪い時には突然『おにいちゃあん♪』って楽しげに呼んで態度が豹変するんだ」
「あらら」
「『おにいちゃあん♪』が出る時は基本、ろくでもない時なんだよな……。
もう当人はいないけど、今でもトラウマなんだ。悪いけど兄呼ばわりは勘弁してくれ」
これは本当の話だったりする。
そしたら、なぜかアイリスは笑顔になって、きっぱりと言い切った。
「じゃあパパ!」
「はぁ!?」
さすがの俺も絶句した。
ぱ、パパ?
ちょっとまて勘弁してくれ。
「いやいやいやいや、俺はまだそんな歳……いや歳かもしれないけど、パパは勘弁してくれよ!」
「なんで?」
だから、なんで心底不思議そうに首をコテンと傾けるのかねキミは。
「アイリスとパパ、親子くらい歳が違うよ?」
「アイリス」
「なに?」
「自分を名前で呼ばない。ちゃんと『わたし』と一人称を使いなさい」
「はぁい」
なんで残念そうなのかね?
「年の差だけど……そりゃまぁ、今日生まれたてのアイリスからしたら、そうなるかもしれないな。
けど、自分の外見が子供じゃない事を考慮してくれよ、な?
あ、そうだ。
女の子に尋ねることじゃないが、悪いけど答えてくれ。歳はいくつ?」
「ん、6時間と32分」
うわお、そうきたか。
SFでよくある、アンドロイドのお約束すぎる返答に思わず笑いそうになった。
いやいや、俺が求めていたのはそんなリアルSF展開じゃねえよ!
「肉体ができてからの時間じゃなくてさ。
中のひと、つまり、おまえという心が生まれてからの時間を聞いてるんだよ」
ここまでの会話の感じ、ちょっと幼いが、それでも普通の人間とほとんど違和感がない。
ということは成熟してるって事だろ?
心と記憶の関係は、プログラムと参照データのように簡単なものではない。
たしかに、殺された女の子の記憶は反映してるんだろうけど、生まれたばかりの心に他人の記憶を突っ込んで、いきなり人格まで大人になるとは俺には到底思えない。
ならば、アイリスにはアイリスの、元になった人格があるんじゃないか?
そう思って尋ねてみたが。
「んー……そういうのはないよ」
「え、ないのか?」
「成熟度を問うなら、アイ……わたしのメインシステムは、仮想に作られた町で18年ほど過ごしたよ。
あの子の記憶を情報として与えられてね」
「え、仮想?」
「うんそう……まぁ、外と中は時間経過が違うけどね」
ああ、なるほど仮想空間で育てられたのか……むう、どんな世界だったんだろ?
「あれ?パパ、おぼえてないの?
最後のキャンプの日、パパもきたでしょ?」
「キャンプって……あの夢ん中のキャンプ場か?」
「そだよ」
「夢だと思ってた……」
「それで間違ってないよ。夢と同じ原理で認識させたんだもの」
「ほう」
そんな技術があるのか……なるほど。
「あれは、わたしが育った世界に、本当にあるキャンプ場だよ。
そして、あのキャンプ場こそが、こちらの世界に移動するためのポイントにもなってたの」
「……」
「わたしはあの日、最後の準備を終えて町から移動してきたの。
そして、キャンプしてるパパに会って……ああ、このひとなんだって思ったよ」
「……そうだったのか」
じゃあ、あの本格的な装いもガチだったのか。
へえ……。
「うん、ありがとねパパ」
「いやいや、まぁそれはいいんだが……ん?それは何に対する礼なんだ?」
「パパの事は、あっちで勉強してたけど不安だったんだよ……うまくやれるかなって。
記憶はみせてもらってたし、どういうひとかは理解したつもりだったけど。
だから、会ってとても安心して、それで管理棟で移動の手続きをしたの。
……あ、すもあと名前、ありがとうパパ!」
「おう」
そうか、そうだったのか。
つまり、あのキャンプ場はただの夢じゃなくて。
あれはアイリスの育てられた仮想世界の一部で、そこで俺たちの顔合わせが行われたってことなのか。
で、あそこからこの子は自分の育った世界から別れて、最後に今の、この身体に入れられたと?
なるほどなぁ。
「そうか、わかった。遠いところ、俺なんかのためによくきてくれた。
改めてよろしくな、アイリス」
「うんパパ!」
「……なぁ、そのパパだけは何とかならないか?
俺、一応だけどおじさんな歳だし、なんか親子というより、あやしい関係と思われるんじゃないかと」
「それでパパ、さっそくなんだけど」
「……訂正する気ないのね?」
「なあにパパ?」
「あーいや、なんでもない」
「……(あやしいもなにも、パパはわたしのだし)」
「ん、どうした?」
「なんでもないよ?」
「そっか?」
「うん」
昔みたアニメ:
たぶん覚えていらっしゃる方はほとんどおられないと思いますけど「ご主人様呼び」を訂正させる場面は、1980年代の『超時空世紀オーガス』ってアニメのいちシーンのオマージュです。
興味があれば、ぜひ一度みてみてください。




