何かみつけた?
普通、異世界に行く物語といえば騎乗動物だったり徒歩、あるいは辻馬車のようなもので旅するのかもしれない。
だけど、俺に託された旅は遠く、道のりは長い。
よくわからない国々がひしめく、日本人どころか地球人すらいない世界を、しかも大陸をいくつも越えて、はるかな旅をしなくちゃならないわけで。
しかも、悪意ある追跡者がくるかもしれない。
ならば。
とにかく今は、テンポよく旅を進めたいんだよね。
昼間、砂漠のハイウェイ。
今日も今日とて、俺は南にむけて愛車を走らせていた。
日本ならかろうじてセンターラインがありそうな広さだけど、妙にきれいな道。
砂漠の大地を地平の彼方まで続いていて、俺はその上を走り続けている。
それにしても。
「……はぁ、さすがに砂漠も見飽きてきたわ……これが何日だっけ?」
さすがに日本の高速みたいに飛ばせないし、夜間は走ってないし無理もしてない。
一応、ナビによると、残り1000kmくらいで砂漠を出そうなんだけど、それでもシャリアーゼまでは1500kmはあるだろう。
しかし。
「ここまでお気楽なのは、車内風景のせいでもあるよな」
なんせ内装は、乗り慣れた愛車そのものだからね。
これのせいで、どこかまだ「日本のまま」な気分が抜けないんだろう。
ハハハ……まぁ、さすがに襲撃されて怪我でもさせられたら、さすがに印象かわるだろうけどね。
俺はドライブ好きの家に生まれ、子供の頃は家族でしょっちゅうおでかけしてた。
大人になり、一人暮らしするようになってからは、ひとりででかけた。
そんな俺なんで、こうして運転してるってのは日常の風景なんだよ。
そして今、運転している俺の愛車……いや、正しくは生前の愛車そのまんまなわけだろ?
計器類とかインテリアとか、目に飛び込んでくる映像的には、ほとんど元のまま。
貼り付けたシールや細かい汚れまで記憶そのまま。
なんとも芸の細かいこった。
だがもちろん、窓の外の景色は大砂漠なわけで。
中と外のギャップ、すげえよな。
この中央大陸の砂漠は、たまに岩ばかりのとこもあるけど、多くの場所は砂ばかりらしい。
どういうことかというと、日本人が砂漠と聞いて連想する、見渡す限りの砂の砂漠そのままなんだよ。
その中に、まるで雲海に浮かぶように敷設され、続いている広く長い舗装道路。
まわりが砂だらけなのに砂に埋もれず、また年月の中、逆に侵食されもしていない。
きわめて自然に、そして、とんでもなく不自然。
まぁあれだ……ほっといても砂に埋もれたり荒廃しない仕掛けがあって、まだ生きてるんだろう。
俺にはよくわからないが。
(マザーの話だと、よくわからないエネルギーみたいなものが道を埋もれさせないようにしてるんだっけ?)
超技術の塊であるマザーすら、よくわからない技術。
いやほんと、たしかに「進化しすぎた技術は魔法と区別がつかない」そのものだよな。
しかも、この星には本物の『魔法』すらもあるらしいので、さらに話がややこしい。
ほんとにこれ、マザーの力で解析しきれるもんなんかね?
「……」
窓の外は、ぎらつく灼熱の太陽。
そして、地平の彼方まで続く、とんでもない大砂漠。
「見慣れたっちゃ見慣れたけど……すげえもんはすげえよな」
これで月夜にラクダでも歩いていたら、車止めて写真撮りまくるわ絶対。
少なくとも、俺みたいな日本のサンデードライバーが愛車の車窓から見る光景じゃないよな。
だけど、そんなスゲー風景が映っているのは、まぎれもない愛車からの景色。
そんで、見てるのは俺だけ。
ん?
なんか今、カーナビの画面の隅で何か動いたぞ。
裏でマザーが何かしたかな?
俺はナビのメニューボタンを押して、出てきた電話マークをつっついた。
日本と違う呼び出し音がして、そして向こうが出た。
映像に、今やすっかり見慣れた老婆の映像が出てきた。
「マザー」
『おや、どうしたね?』
「それは俺のセリフだ。
よくわからないけど、俺を呼び出そうとしていたんじゃないか?」
『どうやってそれを感知したのかね……まったく人間ってのは。
ま、それはいい。たしかに呼び出そうとしていたからね。
実は試験用の船の製作がおわったんで、本番の輸送船を作るんだよ。
ついては完成予想図をみせて、あんたに意見をもらおうと思ってね』
「お、新型つくるの?」
『新型というより改造品だけどね、何しろ未知の分野だからねえ』
そういうことか。
「まあわかった、俺が見ていいもんなら見るぜ」
『悪いねえ』
ちょっと説明しよう。
実はマザー、なんでもできるみたいなイメージがあるんだが、とんでもない欠点をもつ事がわかった。
つまり、工業デザインってやつが全然ダメなんである。
センスがないというより、何かこう根本的にズレてる。
微妙に洗練されてないというか、アレな意味で昭和的というか。
それを一度、がっつり指摘したら、なんか前にも言われた事があるらしくて。
それから「ちょっと見ておくれ」と意見を求められるようになったってわけ。
まったく、王道ヒロインのメシマズみたいな、変な属性もってるよなぁ。
でもまぁ、そういう人間くささが彼女に、いわゆる「マザーコンピュータっぽさ」を感じさせないんだろうな。
さて。
「うお、なんじゃこりゃあ!」
『試験機のひとつさね。
あんたを運び、なおかつ大型動物にも対応できる護衛艦を作ってみたんだけど……どうかね?』
「いや、どうかねって」
なんだこの、昔の戦艦大和っぽい船?
よく大和の映像に使われる横からとられた写真だけど、あの白黒写真を選んだ人は天才だと思う。
実にかっこいいもんな。
で、あきらかにそのシルエットを元にしたんだろうなーってデザインではあるんだけど……。
「なんでまた、こんなごつい船を?
いや、試作品だし、大きい船の方が安全とかなのかもだけどさ」
『そりゃあ、対人目的さね』
「対人?」
『まず、この手の船は威圧感があるから抑止力に使える。
次に、本物の古い戦艦と違っても見た目だけで、中身はあくまで実験船でしかない。
最後に、船体には現時点で判明している、例のエネルギーやそれによる現象を防ぐ仕掛けをしてある。
つまり、戦いにならなかったとしても、魔法とやらでこの船は沈められないのさ』
「おー」
もう、そんなとこまで研究進んだのか!
「ん?」
よくみると……なんだこれ、艦の後ろに巨大な出っ張りがあるぞ。
まるでフェリーの車両積み込み部みたいだが……でも、妙にでかいな。
「なにあれ?」
『ああ、上陸用舟艇ゲートだネ』
「……なにそれ?」
『なにいってんだい。
あんたの車を船に積むとして、どうやって積んだりおろしたりするんだい?
特に東大陸の向こうは、どうなってるのか全然わからないんだよ?』
「……たしかに」
なるほど、そのための上陸用の船か。
『いちいち積み替えなんてやってたら危険だからね。その船ごと本体に収容して、それから乗り降りするのさ』
「なるほど!」
よく考えてんだなぁ。
そんな会話をしていたら、唐突にマザーがムッと眉を寄せた。
なんだ?
「どうした?」
『それがね……ここから遠くないところで、誰かが殺されたようだよ』
「……なんだって?」
どういうことだそれ?




