箱
つこさん。様(https://mypage.syosetu.com/1539309/)主催の作者人狼で投稿した作品になりますので、参加された作者様のメタ的な内容が含まれる事があります。
主催者様をご存知ない方は、先に主催者様の短編等をご覧頂きますと、コンセプトをご理解いただけるかと思います。
いつも持ってる小さな箱。
中には色鮮やかなたくさんの箱。
黄緑の箱。彼の言葉が詰まった箱。
最近の言葉は見たくない。
ちょっと昔の言葉。
「レストラン、予約しといた」
もう少し前の言葉。
「あのマグカップの写真、さすがに恥ずかしくないか?」
もっと前の言葉。
「温泉、すごい良かったな。年寄りくさいかと思ってたけど、仲のいい夫婦って感じでてたよな」
ずっと昔の言葉。
まだ残ってた、大切な言葉。
「なあ、俺たち付き合わないか?」
さらに昔の言葉。
「魚好きなんだって? 変わってんな。まあ、俺も水族館好きなんだけどさ。だからさ、今度一緒に行こうぜ。」
一番昔の言葉。
「アキトです。よろしく」
全部まとめて捨てた。
水色の箱。わたしの想いが詰まった箱。
「もう誰の気持ちも、行方不明だよ」
……捨てた。
「最近ちょっと不安に思う」
……捨てた。
「わたし、幸せって何か分かったかもしれない」
……捨てた。
「とっても嬉しいことがあった。こんなことってあるんだ」
…………捨てた。
「これって、デート、なのかなぁ」
……捨てた。
「友達の輪がまた広がった。楽しくなりそう」
……捨てた。
カメラの箱。ふたりが、詰まった箱。
#1y
お台場のレストラン。記念のケーキ。
#10m
色違いの二つのマグカップ。
#6m
温泉。海辺の風景。浴衣のふたり。
#3m
テーマパーク。マスコットと写るわたし。
#水族館
水族館。ペンギン。わたし。
#BBQ
集合写真。わたし、彼、みんな。
箱ごと、全部捨てた。
これで、終わり。
小さな箱が震える。
何度も。何度も。
手に取ると、画面には黄緑の箱。
「大丈夫? 話聞くよ?」
「電話していい?」
「おーい、今からそっち行くぞ」
ドンドンドン。乱暴にたたかれる玄関。
開けるといつもの彼女。
「ま、とりあえず飲もうや。ほら、電気ブラン持ってきてやったぞ」
「うにさーん! 私ね、私ね、もう全部捨てたの」
「はいはい、スマホみてりゃわかるって。表面上全部捨てたって、心の中にはまだ残ってんでしょ? こいつ飲んで全部吐き出しちゃいな」
「飲んで吐けだなんて、うにさん下品だわ」
「憎まれ口叩いてる暇があったらコップ持ってきて。乾杯といこうや」
「いつもより口調が漢気に溢れてるけどもう酔ってるの?」
「ネットじゃ猫被ってるだけだから。はい、かんぱーい!」
彼女が連絡をくれるから、この小さな箱だけは捨てられそうにない。
つこさん。様が失恋してポエムを書く、という設定で、作者誤認を狙った作品です。
つこさん。様以外がつこさん。様の作品だと投票されてたので、大成功です!
なお、一部ご意見頂いた点を修正しております。