旅立ち
「ねぇユイ姉さん。僕もみんなと一緒に行っていいのかな」
自分に割り当てられた寝具を整えていると、沈黙を守っていたペントが話しかけてきた。ユイナは思った事を答える。
「アレスがいいと言ってるんだから、いいんじゃない? それに、船はもう港を離れちゃったよ?」
ユイナは船室の丸い窓から外の景色に目をやる。窓から見える景色は碧い海原と青い空ばかりだ。
「そうなんだけどね。またみんなと一緒にいられるのが信じられなくて」
「そうだね」
ペントの言葉に同意する。
「私も想像していなかったな。こうやって海を渡ることになるなんて」
その時、部屋の扉がノックされた。ユイナは船乗りが散らかした床に足場を探して移動し、扉を開ける。そこには白い帽子を携えたカトレアが立っていた。
「すごい部屋ね」と苦笑する。
「これ、ユイナの帽子ではないの?」
差し出される帽子には見覚えがあった。
「あ、そうです。舞姫学校の大先輩にもらった帽子なんです。なくしたと思っていました。どこにあったんですか?」
「荷物にまぎれていたのよ」
「そうですか、届けてもらってありがとうございます」
ユイナは鍔の広い帽子を受け取り、それを頭に被せ、くるりと回って見せる。
「どうです? 似合いますか?」
カトレアはほほ笑んで言った。
「ええ、よく似合っているわ」
「まぶしい」
甲板へと出てきたユイナは、陽射しに目を細めた。船乗り達が働き、子供達が遊ぶ甲板は、昼下がりの穏やかな光に包まれている。風もそよそよとして気持ちいい。
ユイナは船の手すりにつかまり、帽子のツバを持ち上げて海洋を見渡す。
生まれ育ったシルバートの大地は、かなり遠く離れてしまっていた。
その大地に住むガモルド男爵や、アリエッタ、それに親友のティニーは元気にしているだろうかと考えると、少し淋しくもあった。
アレス達についてきた事を許してもらえるかわからないが、心の中でそっと謝る。
ごめんなさい。汚名を晴らすために必ず戻ってきます。どうかそれまでお元気で。
「おーい。突っ立ってないで来いよ」
ザイが呼んでいる。
振り返ると、アレスが大きな机を甲板に置いているところだった。
カトレアと少女が純白のテーブルクロスをかけ、子供達が食器を持ってくる。
追手もなくひと段落したので、遅くなったが昼食会を開こうというのだ。
ペントが傍に来て、一緒に甲板の食卓へ向かい、子供達と一緒に食事の用意をする。
いつもは気難しい顔をしているアレスも、なんだか幸せそうにほほ笑んでいた。
――今の私達には途方もなく広い未来が待っている。
それが青い海やどこまでも透き通る青空のように晴れやかな未来であるといい。
ユイナは心の底からそう願った。
深炎の舞姫・第一部(初恋)完
『深炎の舞姫』を書き終えて
『深炎の舞姫』をお読みいただき、ありがとうございます。
今作は『初恋』をテーマにしました。人それぞれ初恋の形は違うと思います。それなら、男を好きにならないと思っていた少女が恋に落ちたらどうなるのだろう、と思ったのがきっかけでした。
実は私、中1までまったく恋を知りませんでした。男子女子で分かれるのが当然だったので、手をつなぐとか考えたこともありませんでした。
ところが中学校生活の初日でした。隣に座った女子と話が盛り上がり、好きになっていました。
授業中、ずっと隣が気になるわけです。しかも、席替えをしてもなぜか隣や同じ班にいて、さらには部活(卓球部でした)の時は体育館の横で彼女がフルートを吹いていました。
かなりおとなしい性格だった私は、この気持ちを伝える勇気を持っていませんでした。彼女が美人で明るくて非情にモテたのも原因かもしれません。
何か一つでも強いところを見せたくて、校内で卓球では誰にも負けないほどに強くなっていったのも、彼女のおかげだと思います。
甘酸っぱい思い出です。
そして、体育祭の最後にあるフォークダンスで、初めて彼女と手をつなぐことになるのです。
どんなに美人のお姉さんと手をつなごうと、彼女の手ほどあたたかくてドキドキするような人はいませんでした。本当に心臓が爆発しそうだったのを覚えています。
これも一つの恋ではないでしょうか。
苦しくて、嬉しくて、ドキドキして、不安で、、、きっと良い結末ばかりではないと思います。
ですが、そういった恋が、私が経験したように人を大きくしていくのではないでしょうか。
ユイナの恋は始まったばかり。あたたかく見守っていただければ幸いです。
それでは、深炎の舞姫2(2020年9月5日連載開始)でまたお目にかかれたらと思います。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。
鳴砂
追記
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