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深炎の舞姫  作者: 鳴砂(なりすな)
第五章
85/87

魔神の骨と戦火の少女29

 ***


 ザイはアレスの消えていった方角をじっと見据えていた。その右足首は蒼く腫れ上がり、棍棒を杖代わりにしていないと立っていられないほどだ。

 本当は俺がカトレア達を救いに行きたいが、この足では無理がある。


「カトレア、無事だよな……」


 天女をその身に宿したほどの舞姫だ。こんな所で死ぬわけがない。きっと、天女が護ってくれているに決まっている。それに、年上の俺を年上とも思わないガキ(ども)も、生意気にもケロッとしてるんだぜ。生意気なやつほど戦場では生き残っているというからな。きっとそうだ。好きでもなんでもないけどよ、居なくなったら居なくなったでさみしいからな。

 棍棒を杖代わりに潮風が来るほうへと歩き、海辺に隠した小舟を探す。ラインハルトの魔毒を浴び過ぎたせいで体が痺れてきた。水筒に残っていた泉の水を飲み干して痺れを抑え込む。

 小舟には先客がいた。テンマとメリル王女だ。王女はまだ意識を失っているのか、ぐったりとしたままだ。


「ラインハルトを倒したのか?」


 テンマが聞いてきた。


「あんな化け物、倒せるわけないだろ。……クソッ、魔毒を浴び過ぎてやばいかもしれない」


 ザイの言葉に、テンマは怪訝な顔をした。


「どうしてそう思う? 肌の黒ずみは見当たらないぞ」

「体が腐り始めたのか、変なにおいがする」

「失敬な。それは私の汗であろう」


 ザイは眉を持ち上げ、恐る恐るテンマに鼻を近づける。


「お前、汗臭いぞ」

「だからそうだと言っている。言っておくが、あれだけの距離を走らされたら誰だってにおうものだ」


 言われてみれば、テンマはメリル王女とともにシルバート王城へ向かったはずだ。


「……まさか、王都から走ってきたのか」

「むろんだ」


 当然のようにうなずくテンマに、うげぇ、と変人でも見る様な目をした。馬を走らせても数日はかかる距離だ。おそらく鳥よりも早く突っ走ってきたに違いない。


「異常だな……」つぶやく。


 魔神骨を使用して平気な顔をしていたラインハルトや、魔獣を呼び出すメリル王女もそうだが、アレスの周りには異常な奴らが集まっている。

 あ、俺は常識人だけどな、と内心で訂正する。


「それより、そんな臭いで王女様の傍にいてもいいのか? 目を覚ましたらまたいろいろと騒ぎ始めるぞ。どこかで汗を洗い流して来いよ。俺は王女様の小言なんて聞きたくないからな。耳がキンキンするんだ」

「いいではないか。小言を聞けている間は、少なくとも生きているということだ」

「……そんな実感ならほしくないぜ」


 辟易しながら漏らすと、フッ、とテンマが笑った。


「いや、笑ってないで水浴びでもしてこいっての」

「これ以上動きたくなかったのだが」


 テンマは重い腰を上げて小舟を降りる。それから、遠い空に目を向けた。木々のせいで全容は見えないが、未だに青い空を包み隠すように炎が上がっている。


「あれは、デルボの炎か?」

「……そうらしいな」


 悪魔のような炎から目を背けたまま、かすれた声を出すことしかできなかった。


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