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深炎の舞姫  作者: 鳴砂(なりすな)
第五章
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魔神の骨と戦火の少女22

 天女の泉から少し離れた所で四人は立ち止まった。腐葉土の地面は少し柔らかな弾力を足に返してくる。辺りに草は無かったが、幹の太い木々に囲まれており、魔術師団が捜索に来てもすぐに身を隠せられそうだ。


 ユイナは恐る恐るアレスやザイの顔色をうかがう。信じていた男の子がスパイだと知らされたショックか、二人ともしばらく険しい顔をしていた。腕組みをしたザイは猜疑の目をペントに向けて沈黙し、必然的にアレスが口を開くこととなる。


「いろいろ聞きたい事はあるが、俺達の計画が知られているという事は、調べたことはすでに報告してしまったんだな?」

「……うん」

「それで、ペントは俺達の何を調べたんだ?」

「僕が調べたのはアレス達の隠れ家と、戦力だよ。見張りはいつどこに立っていて何人いるのかとか、子供達の事とか……」

「まさか、魔神の骨を燃やそうとしていることも報告したのか?」

「……報告されていると思う」

「されていると思う?」


 アレスが眉をひそめ、言葉の真意を確かめようとしていると、


「誰にスパイを頼まれた。首謀者は誰だ」


 ザイがきつい口調で問い詰めた。


「正直に答えてあげて」


 ペントを促すように言う。


「ヘルステッド教官だよ」


 聞いたことのない名にユイナとザイは眉根を寄せる。


「……やはりか」


 アレスは知っているようだった。


「誰だ? そのヘルなんとか教官は」

「俺がいた部隊の教官であり、指揮官だった。感情があるのかわからない無機質な男だ。だが、その魔術と体術を組み合わせた戦い方はシルバートでも随一だろう。もちろん、ラインハルトともつながりがある。情報が伝わっていると考えるべきだろう」

「しかし、その教官にどうやって報告した? 俺達のところに居て接点がないだろ。考えられるとしてもラインハルトがメリル王女の城に来た時ぐらいだが、ヘルなんとからしき人物はいなかっただろ。接触の機会はなかったはずだ」

「そうじゃないよ。岩山のアジトにいる時、シルバートの特殊部隊に襲われた事があったよね」

「ペントが私を助けようとして魔力中毒にかかった時?」


 苦い気持ちで聞いた。


「そう。その時に、あの人達の伝書鳩を拾っていたんだ。その伝書鳩を飛ばして王都に手紙を送ったんだ。たぶん、その情報が伝わってラインハルト侯爵がオルモーラに来たんだと思う」

「馬鹿な」


 ザイは言った。


「ラインハルトが俺らの居場所や戦力を知ったとして、なぜ独りで来た? 大軍を動かすのに時間がかかるから、単独で監視に来たのか? おかしいじゃないか。侯爵の立場ならすぐにでも相応の戦力を用意して攻めてこられたはずだ」

「オルモーラに兵を動かせばウィンスターが黙ってはいない。今のオルモーラはウィンスター領だぞ」

「それぐらいわかってる。だとしたら、俺達の作戦を止めるために国境に兵を配置しているのか?」

「……いや、そうとも限らない。無許可でオルモーラに魔術師を忍び込ませていたぐらいだ。どこに軍隊を動かしているのか決めつけるのは命取りになる」

「おいおい、それを言い出したらキリがないぞ」

「分かっている。魔術師が動いている以上、迷っている時間はないはずだ。それに先行してラインがオルモーラに来たのも気になる」

「ただの物見遊山だったりしてな」

「そんなはずないよ。一度だけ作戦の時にラインハルトを見たことあるけど、息抜きをするような人には見えなかった」


 茶化すザイに、ペントは真剣な顔をして言った。ユイナがラインハルトと出会った時は、踊りを褒められて酌までさせられたが、ペントから見た作戦中の彼には遊びはなかったのかもしれない。


「その情報も俺らを混乱させるための罠ってことも考えられるぞ」

「そんなわけないじゃないですか!」


 あんまりな言葉にユイナが食ってかかると、ザイは、落ち着けと両手で制する。


「冗談だ、じょうだん。そんなに噛み付くなよ」

「じょ、冗談でも言っていい事と悪い事があります」

「二人とも静かに、狙われているのを忘れるな」


 狼の声で(いさ)められると、凄みが五割増しになる。怒っていなくても怒っているように聞こえる声だから仕方ない。


「ご、ごめんなさい」

「お、おう。……だけどよ、アレスもユイナも、スパイだった人間を信じるのはどうかと思うぞ。もう少し疑ってかからないと、痛い目に遭うのは自分だ」

「確かにそうだな」


 アレスは言い、ペントから得た情報を吟味するように低く(うな)る。

 それからしばらくして思い出したように顔を上げる。


「ひとつ気になることがある。俺達の計画を報告したのかと聞いた時、ペントは『報告されていると思う』と言った。そういう言葉は、自分がその件に触れていない場合に使うものだ。それはつまり、ペント以外にスパイがいて、俺達の事をラインハルトに報告したかもしれないという事か?」


 ペントは「うん」と首を縦に動かして言う。


「その人はオルモーラの研究所で助手をしていた――」

「しゃべり過ぎたな。二重スパイ」


 いるはずのない人間の声に驚愕し、ペントの背後へと視線を向ける。どこから現れたのか、オルモーラ研究所で助手をしていたサントが刃物を振り上げていた。


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