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深炎の舞姫  作者: 鳴砂(なりすな)
第五章
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魔神の骨と戦火の少女7

 髪を振り乱し、恨みのこもった目をするカーマルがアレス達に連れ出され、子供たちがユイナの周りに駆け寄ってきた。自分はみんなに心配されているのだと思うと、空っぽになっていた心が熱い涙で満たされた。

 部屋の隅に投げ捨てられていたペンダントを受け取り、痺れる体を毛布で隠したままカトレアが右脇を、反対側をコルフェと名乗る同年代の少女に支えられて自分に割り当てられた部屋の前まで戻った。廊下に心配顔の子供たちを残し、カトレアと二人だけで部屋に入った。


 カトレアが暖炉の火を()き、お湯にぬらしたタオルで体を丁寧に拭いてくれた。恥ずかしいので本当は自分でやりたかったが、体の痺れは一日の疲れとともに残っている。

 長い一日だった。カーマルに捕まっているところをアレス達に助けられたり、ラインハルト侯爵が突然に訪問してきて隠れたり、子供たちと仲直りのフォークダンスを輪になって踊ったり……。カトレアと危険な剣舞を共演したのが遠い昔のように思える。

 新しい服に袖を通しながら感慨や感傷にひたっていると、カトレアが言った。


「あとでヨセフにお礼を言っておくのよ」

「どうしてですか?」


 ユイナはルームメイトの名が出てきたことに小首をかしげた。

 助けに来てくれたのは彼だけではないからだ。廊下に集まってくれている子供たちだって助けに来てくれた。それなのにヨセフの名が特別に出されるのが不思議に思えた。


「貴女の制服を見つけて異変に気づいたのは彼なのよ」


 そう言ってドアを開けて子供たちを招き入れる。部屋に入ってきた少年少女は周りに集まってきてユイナを心配し、カーマルの暴挙を口々に許せないといった。そこにヨセフはいた。彼は遠巻きで安堵しつつもどこか淋しげな顔をしていた。

 それから夜も深まり、カトレアは子供たちをそれぞれの部屋へと帰らせた。カトレアも出て行き、部屋にはユイナ、ペント、ヨセフの三人が残された。

 ユイナはベッドに腰かけ、ヨセフはどこか落ち着かない様子で暖炉の前にかがみ、火を強くするために新しい薪を入れていた。ユイナは痺れる唇を動かして、彼に声をかける。


「カトレアさんから聞きました。私の制服を見つけて異変を察知してくれたのはヨセフなんですってね。……駆け付けてくれて、ありがとう。うれしかった。自分は独りじゃないんだって思えて」


 感謝の言葉に彼は泣きそうな顔をしていた。それから目に浮かんだ涙を拭い、「ペント、薪がなくなったから貰ってきてもらえないか」と言った。


「わかった。もらってくるね」


 そう言って部屋を出ていくペントを見送り、ヨセフは暖炉の火に話しかけるように口を開いた。


「シルバートに帰ってしまうって、本当ですか」

「……、本当です」

「家族が待っているんですよね」

「はい」


 ヨセフが立ち上がり、振り返った。


「行かないでください。好きなんです」


 あまりに唐突だったので理解が追いつかない。


「すき……?」


 声にしてから『好き』の文字が頭に浮かんだ。顔が熱くなる。

 返す言葉を探しても、見つけたと思った瞬間に泡となって消えていく。しかし、彼のほうは心を決めているのか、決死の覚悟で見つめる。


「君のことが好きなんです。だから僕たちと一緒に来てください」

「好きって、どうして? 私は貴方に何もしていません。好かれるような事は何も」

「傍にいるだけで僕はうれしいんです。君のことを考えると夜も眠れなくなります。君を近くで見ていると、抱き締めたくなってしまうんです。本当は君がスパイだと疑われていた時から君の味方になりたいと思っていたのに、勇気を出せずにいました。でも、君が舞踊劇を成功させるために一生懸命練習する姿を見ているうちに、今のままじゃいけないと思ったのです。ぼ、僕はアレスやザイのように強くはないし、魔術も使えません。でも、君への気持ちなら誰にも負けません。本当です。死に物狂いになって、君を守りたいんです」


 今まで聞いたこともないほど恥ずかしくあけすけな言葉に、ユイナは麻酔の痺れなど吹き飛ぶほどの痺れに打たれた。


「まさか貴方の気持ちは……」


『それ』を言葉にするべきか迷った。しかし、思い切って聞いてみる。


「恋、ですか?」


 彼は目を瞬かせてユイナを見詰め、うつむきながらも力強くうなずいた。間違いようのない肯定。彼の気持ちが恋なのだと知り、同時に自分がその恋の対象であることに焦りを覚えた。

 胸がざわめく。好かれる嬉しさがあり、好かれる自信のなさが彼の好意への恐れともなる。第一、彼に何と返事をすればいいのだろう。自分の気持ちもよくわからないのに、彼を喜ばせることも悲しませることもできない。それに、どんな返事をしても何かがガラリと色を変えてしまうようで恐ろしくもあった。返事一つで自分の人生が大きく変わってしまうようで答えを出せない。


「そんな……急に言われても、わたし困ります……」

「急でなかったら、いつならいいんですか……! 君はシルバートに帰ってしまうのでしょう……! 僕は今、答えが欲しいんです。君が首を縦に振ってくれるのなら、僕は仲間と別れて君と一緒にシルバートへ戻ります」

「……そ、そんなこと言われても……」


 ヨセフが悪い人間ではないのは分かる。

 本当に私を想ってくれている。

 しかし、カーマルにあんな事をされた後だ。そういった男に対する恐怖もある。

 それに、今は銀髪の彼で胸がいっぱいなのだ。ヨセフの期待に応えられる自信がない……。


「ただいまー」


 何も言えずにいると、ペントが戻ってきた。

 気まずい空気が流れる。ヨセフは平生を装って顔を逸らし、ユイナは布団を頭から被った。胸の鼓動がバクバクとして破裂しそうだった。


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