五感にノイズが入り混じる
お読み頂き有難う御座います。
琴子がミズハに壁ドン中で御座います。
「………答えろよ、ミズハ」
コレは……漫画やゲームやアニメで御用達、壁ドン!?
い、意外と圧迫感が有るものですね。身長が近いので其処迄怖くは……いえ、怖いです。
大迫力です。恐ろしいです。遠目でパッと見、繊細で可憐な美少女っぽいですのに!!
「あの、お声がとっても地声……いえ、低いですよ!?あっ、男子生徒だとバレや致しませんか!?それは宜しくないのでは!?」
何故そんなにお怒りか分かりませんから、必死で状況改善を試みたい所です!!
が、誰も居ないのに全く抑止力にならないのに何言ってんだって言葉しか出ませんね!!私は本当に土壇場に弱いですね!!悪役令嬢の筈ですのに!!
「安心しろよ。このウザイ学園の中では俺が大股で座ろーが、地声で喋ろうが女子更衣室で着替えようがバレねーんですよ」
………。
……!?
い、今!!今、とんでもない事を言われませんでした!?
女子、更衣室!?着替え!?
男子生徒が……!?
ああでも、確かに女装しているとそう言う事になりますよね!?
「それこそ何故です!?」
「さあね。これぞ噂の強制力!?って野良ブスが意味不明宣ってましたけど」
三和さんは顔に掛かる髪の毛を鬱陶しそうに掻き上げて首を傾げました。制服から覗く首筋と喉仏が見えて、何だか……ドギマギします。思わず下を向いてしまいました。
………女子生徒にしか見えないのに、ふとした拍子に男子生徒だと分かって……な、何だか変です。私。
「心配しなくても、俺にはクラスの女子が認識出来ないんで痴漢扱いは止めてくださいね」
「認識、出来ない?とは?」
「何でか分かりませんけど、この学園に来てから俺の目がおかしいんですよ」
目が?
ちらっと上を向くと、三和さんは右の下瞼をべ、と引っ張りました。空色の目が私を射抜いています。
……繊細で綺麗なお顔ですね、本当に。何処かで、見た事が有るのに思い出せません。
「此処に来てから身内やお前等以外の女にノイズが掛かってます。所謂のっぺらぼうみたいに見えるんです」
「……!?の、のっぺらぼう!?」
「言っときますが、病院にちゃんと掛かったら目も脳も正常。精神疾患の方も疑いましたけど、そっちは元々イカレてるでしょうしね」
「……そんな」
「この『ゲーム』とやらのせいで俺にも色々伸し掛かってるんですよ」
……そんな馬鹿な、と言いたい所ですが、三和さんの顔は怖い位に真剣でした。
彼の強い視線に晒されて、口の中が乾いていく気が致します。
「お前は鮮明に見えますけど」
「……」
「ま。多分……あの野良ブスが男を期間内に作れば良いんですよね。それで、俺も解放される」
「……そう、なのでしょうか」
「そうでないとやってらんねーんですよ。で、話を戻しますけど」
先程少し逸らされた三和さんの目がまた私を射抜きました。
……うう!!
「こここ好みも何も!バカ大王って誰ですか!?」
「エシロカゼミツのエロバカ大王ですよ」
「家代君!?一番後ろの席の!?吃驚するくらい接点が無いんですが!!」
「思いっきり……を揉まれてたでしょうが」
え、何故かよく聞こえないですけど、とんでもないこと言われてません!?
も、揉まれ……!?
何処を!?いや何処でも問題ですけど!!
どうしてこんな時が凍りついたような事を言われるんでしょうか!?しかも此方は往来ですのに!!
「そんな痴漢行為はされてません!!とんでもなく違います!!」
「嘘つけ!渡り廊下でくっついてだろ!」
くっつく!?同級生男子と!?そんな行為は全くした事がないんですが!!
寧ろ今の三和さんとの距離の方が近過ぎますし!!
「あっ、一昨日ぶつかられた事ですか!?」
「アイツ滅茶苦茶汚え手ェ眺めてニヤニヤしてた!」
「手を眺めてニヤニヤ!?それは気持ち悪いですが、本当に!?
そもそも本当に私なんですか!?他の女子では!?」
「ストーカーに慣れてない、危機感はない………本気でお嬢かお前」
「身分がお嬢では御座いません!!」
「あー、『悪役令嬢』っつー区分分け?カテゴリ?なんだっけ。どーでもいーですけど」
く、苦しい。狭い。圧迫感ではなく、本当にくっつかれて圧迫されております!!
え、何で寄って来てるんですか?どうして私三和さんと壁にサンドされて、挟まれてるんでしょう!?
「危機意識を持てよ、ミズハ」
「いや、三和さんこそ何をしているんですか!?
職責?は悪役令嬢、いえ令嬢ではありませんね!?ですけど何もしてませんよ!!私をどうしたいんですか!?」
「手出してえんですよ!」
「手!?暴力を!?」
「くっそ、全く……いこと出来ねえのかよ!?本気で強制力とやらが働いてんのかよ……何が乙女ゲームだ野良ブスがあ!!……くび……られる体勢だっつーのに!!んで……ゲーじゃねえんだ!生……しかよ野良ブスふざけんな!!」
???
三和さんの言葉に……ザラザラ?ガサガサ?と言う音が混じっていますね。聞き間違いじゃないようです。
どうしてこの至近距離で声が……掠れる?いえ、違います。ノイズ音です。
何故、この至近距離で三和琴子の声にノイズが掛かるんでしょう。周りにスピーカーが有るとか?いえ、有りません。どう言う事でしょう。
で、ではなく!!とんでもないこと言われてません!?
そして轟さんへの酷い罵詈雑言が絶好調ですね……。
……いえ、そっちではなく。
「私……首を狙われている!?殺人宣告ですか!?」
「はあ!?違えんですけど!!お前都合のいいこと聞こえない難聴か!?」
「聴力は問題ない筈です!!只、何故か、ノイズが掛かるんです!!」
三和さんは空色の瞳を見開いて、私を見つめて来られました。
……ほ、本当なんです!!
「ノイズ!?その………を………て、………言わせてって此処まで言っても!?」
「あの、その……全く」
超難解穴埋めクイズかってくらい解りません。
そして私はクイズが苦手です。若君はお得意なんですが。
「マジかよ………。おい、ミズハ」
「はい」
「ゲームとやら、何時終わるか知ってます?」
「え、ええと、多分………3月序盤だと思います」
恋愛が成功なら、ええと、ホワイトデーで告白されるんでした……よね?2はそうでした。恐らく、流れの本流である1作目?の今回もその筈です。そこはきっと大事な根幹ですよね?
幾らリメイク版でも延期も短縮もされないですよね?轟さんの方がお詳しいんでしょうけど、あまり積極的にお会いしたくない気が致します。
「後10ヶ月もあんのかよふざけんな!!」
「ひえ!?」
私から離れた三和さんは壁を蹴られました。
って……!?
け、結構この方、本当にバイオレンスですね!!血の気が多いのは……お話の仕方で何となく感じ取ってはいましたが!!こ、怖いですよ!!
「その間何しろってんだ!?ああ!?健全なおデートかよ!?」
「デート?三和さん、何方かとデートしたいんですか?」
「あ?………それは聞こえたのか?」
「はい?」
「デート、は聞こえたんだな?じゃあ………行くぞ!!」
「何処ですか?」
「ざけんなよ!!………だよ!!」
「………あの、申し訳ありません。ノイズが凄いんですが」
三和さんは愕然としたお顔をされています。恐らく、私も同じような表情をしているんでしょう。
ですが、何故なんでしょう。何故、三和さんの言葉にノイズが?
今迄そんな事……全く無かったのに、です。
何故、今になって、突然……。
「此れもゲーム補正なんでしょうか!?」
「俺は知らねーよ」
そ、それはそうでしょうけれど!!
もしかして、『ゲームが終わるまで』ずっとこのままなんでしょうか。
ふ、不便です!!もしかして、三和さんとの会話だけなんでしょうか?それとも他の方とも!?
「……へ行くって、ホント聞こえないんですか!?」
「全く分かりません」
「R18的な言語に被せ音的な感じじゃねーんですよね?今言ったの健全だしな!!」
……え、まさか先程のノイズの中にそんな言語を混ぜてらっしゃったんでしょうか。
何故私に……何の為なんでしょう。三和さんの考えが全く分かりません……。いえ、他の方の考えも分かった例は無いのですけれど。
「あああ腹立つ!!じゃ、モブバ行くぞ!!」
「もぶば?」
「そこは聞こえてんのか!?」
「は、はひ。でも、もぶば?って何ですか?」
言い難いですね!!
で、ですが、もしかしてお洒落で海外発なコーヒーチェーン、異世界バージョンでしょうか。
この若君にお仕えせよ人生なので、買い食いや寄り道には全く縁が有りませんでした。
若君は要領よく抜け出しておられるみたいで、お土産を偶に頂いたりします。
「は?知らねーのモブバーガーだよ!!ウゼーくらい流れてるCM知らねーんです!?正直お前みたいなキンキラな女連れてくとかガチで浮くけど、それもいい!」
「へええええ!?あのカフェでなく!?」
「………何お前、またあそこに行きたいんですか?俺と?」
「は……」
え、いや。ううん?ど、どうでしょう。
行きたい………?と言われると?でも、悪い気はしない、でしょうか?
髪の毛のロールは崩されましたけど、触られて嫌な感じはしませんでしたし。
……どうしてなんでしょう。あの時も今現在も、三和さんに結構恐怖を抱いている筈ですのに。
「ふっうううううん。そっかそーか、でもあそこは3月まで我慢な」
「えっ!?」
何故3月なのでしょう。何か有るのでしょうか。
「モブバも悪くねーですよ。荒波藻屑バーガーとか社会の歯車ポテトとか旨いし、この前冷たい世間シェイクのフェア始まったし」
え、悪くない………?えっと、何がでしょう?
しかも行く気が潰えそうなメニューのお名前の数々ですし、……独特で御座いますね。
何だかとても不景気そうです。一体何方の趣味で名付けられているのでしょう。
「後、野良ブスが言ってたけど、メアミって女が利用してるらしいですよ」
「ええ!?め、メアミと仰いました!?」
何ですって!?め、メアミ!?
メアミと言えば、2の主人公の子では無いですか!!実在していたんですか!?
と言う事は、もしかしてクロスオーバーが発生しているのでしょうか……!?そうですね、舞台は一緒……かどうかは分かりませんけれど、同じような設定の筈です。学園の名前も一緒ですし。何故か女神像は御座いませんが。
どのようにクロスオーバーしているのか分かりませんが、とても気になります!!
「メアミ……轟メアミ!?轟メアミも居るんですか!?」
「いや知らねーですけど、興味出たんなら行きますよね」
「………行きます参りますお供させて下さい」
2のヒロイン、実に目撃したいです!!どんな可愛らしい方なんでしょう!!
2の事なら結構覚えておりますし!!いえ、今の私には全く生かしようが無いですけれど!
ですが、知っている分野がお近くに有るのなら見てみたいのが人情で御座います!!
「喰い付きスゲーな。まーいーや。よきに計らってやるぞ」
余りにも必死だった私に、くすっと笑った顔が……何方かに似ています。
ちらりと過った、影は……誰だったんでしょう。
あ、それよりも……。
「本日も若君に連絡をしないといけません」
「お前、自由が全然ねーんですね」
「学校では若君のご希望で離れて行動させて頂いておりますが、従者で御座いますので」
その割にはこの頃、よく若君のお傍から離れておりますね。
……不思議です。三和さんは怖い方なのに、です。
三和琴子は結構アグレッシブですね。