秘密の共有
お読み頂き有り難う御座います。
サポートキャラの口が悪いです。
「あの、それで、ですね……。私に何の御用でお連れになったんでしょうか?」
「嫌ですね。そーんなの、ミズハとお喋りしてお茶したかったに決まってますよ」
はううっ!?
パチッて!パチパチッて!!2回も!!
星やハートが飛んでいそうな、私のか弱い心臓を射抜くとても魅力的なウィンクをされてしまいました!!
ってそうではなく!!
い、射抜かれてたまりますか!!ウィンクもですが、な、名前!!耳がおかしくなってなければ、よ、呼び捨てをされましたよね!?
「ああああの、何故呼び捨てを!?」
「じゃあ俺の呼び名は三和さんでいいですよ」
「あ、はい……」
「はーい言質取った。素直で品行方正で従者属性ってガセか嘘だろと思ってましたが、有ってるとは。恐ろしく単純なんですね」
「!!!」
や、やっぱりこの人、かなり性格がお悪いのでは有りませんか!?私なんて足元にも及ばない程に!!
「それにしても……元々の『悪役令嬢』はかなり悪辣で陰険な女だって野良ブスが言ってましたけどね。遠目のお前は……実に見た目詐欺で見掛け倒し」
紅茶を優雅に口に運ばれながら、散々なコメントを頂きました。
「そ、そう言われましても。
そもそもゲームをやっていないのでどう悪辣なのかも分かってませんし……」
「ふーん、そーですかやってねーの。だから苛め方も分からないって?」
「いえ、そもそも苛める気は更々御座いません」
先程も申し上げましたけど、スルーされておりますね。そもそも無益な争いはしたく御座いませんし、若君のお世話と学業で手一杯の私には物理的に無理です。
「何で?あの野良ブスと不倶戴天の関係なんですよね?お前が憎んで、野良ブスが被害に遭う側。
野良ブスはそー言ってましたよ?」
げ、ゲーム的にはそうなんでしょうが。そんな小首を可愛らしく傾げられても困ります。
「そ、そもそも憎むようなことをされていませんし」
「ついさっきお前を見棄てて俺に売った女ですよ?時間にして、26分前」
ポケットから懐中時計を出して、時間を確認されてしまいました。
……意外と細かい事に拘られるんですね。そしてかなり綺麗な凝った時計ですね。
金色でとてもキラキラして、黄色い石が文字盤にちりばめられています。まさか本物のゴールドや宝石では無いでしょうが……目の前にまでキラキラと星が散るような、眩い時計です。
あ、……このカラーリングって、3のショーン王子様みたいですね。優しくて爽やかな正統派王子様は結構好きだったんですよ。
成程、ちょっとそう思うとときめきますね。前世を思い出しつつ、思わず時計に見とれていると、パチン、と音が鳴りました。
文字盤が見えなくなっています。蓋が閉じられたようでした。
「無機物に見過ぎ見惚れすぎ」
「……す、すみません。綺麗だったので」
「お前のお仕え先の方がゴーカでしょうに」
「いえ、どちらかというとワビサビに拘ってらっしゃるので、色彩は地味な方かと……」
「あっそ」
あ、時計を仕舞い込まれてしまいました。もう少し見ていたかったのですが。
残念がる私に、三和琴子はまた小首を傾げました。
「で?見棄てられたミズハは野良ブスを怨む権利がありますよね。でなきゃ俺に詰問されることも拉致される無かったですし」
拉致の自覚がお有りだったんですね。いえ、無自覚の方が罪深いとはいえ、自覚が有ってもお悪いですね。
ですがまあ、仰ることは解ります。まさか巻き込まれた上逃亡されるとは思ってもみませんでした。
「その……同じ立場でしたら、私もそうするかもしれません」
「あんな人権無視非道女の野良ブスの立場に立って考えなくてもいーんですけどね」
「さ……散々ですね」
「えー此処まで言っても気付いてません?俺、あの野良ブスが大っ嫌いなんですよ」
「そ、それは目撃しましたが……」
寧ろ好きだから苛めたいなんて告白されても非常に困ります。
「でも俺と野良ブスが共謀してお前をハメる為かもしれないですよね」
「……そうなんですか?」
「単純ですね……。大丈夫かお前」
……せ、性格がお悪いです!!
「はー、こんな単純かつ脆弱神経な奴だとはねえ。焚きつけてプライドへし折って激怒させて本性剥き出しにさせて野良ブスを地獄に叩き込んでやる計画が台無しじゃ無いですか」
「地獄!?そ、そもそも何故そんなに恨んでらっしゃるんですか」
「お前話聞いてました?俺の貴重な俺の為の俺が使うべき時間が奪われてるんですよ?あの野良ブスの為に」
「え、ええと……つまり、三和さんは轟さんをサポートされるのがお嫌、なんですよね」
「たりめーだろ」
……口調迄荒くなっていらしたんですが。
美形さんで儚い微笑みなのに……その口調が合わなくて怖すぎます恐ろしすぎます。
「俺にはやんなきゃならないことがあるんですよ、ミズハ。なのにあの野良ブスは勉強は一夜漬けの底辺、友人関係はあの変なハイテンション加減で人見知りな不審者加減で壊滅的、顔は田舎者、体は上から陥没、寸胴、棒っ切れ」
主人公への物凄い酷評が私の横で紡がれていきます。
ちょっと思い出しましたが……あれ?雑誌では……轟さんは中の上位の容姿と評されていたんでは無かったでしょうか?
あの情報って……ゲームの中では大体の人がそう認識してますよって情報、でしたよね?
三和琴子の認識は物凄く違うようです………。
「あの野良ブスの何処に男が惚れる要素が?仮に奴に命を救われても、やっと認識されてマイナススタート出来るレベルですよ」
そ、其処まで貶しますか。
寧ろこのひとが何故悪役令嬢では無いんでしょうってぐらい罵っておられますよ。
間違いなくミスキャストです。中の人の交代をお申し出したい……いえ、今から取り換え人生は困りますね。第一、若君と死ぬ程相性もお悪そうです。
「聞いてます?ミズハ」
「き、聞いております」
聞いているので、この狼狽えぶりなのを………分かって貰えていないのでしょうか。
「俺の事可哀想だと思いません?あの色気を自ら世界の果てに置いて来た野良ブスと付き合わざるを得ない羽目に陥った俺を」
「と、轟さんの気性と三和さんが合わないことはよく、分かりました」
「好みにも合わねーわあんな野良ブス」
もぐ、とワッフルの最後の欠片を飲み込んだ三和琴子は微笑みました。
その時、リリリリ、と黒電話の音がしました。
「あ」
若君からです。お、お珍しい。私に掛けてこられるなんて……お使い物でしょうか。
「何?デート中は電源オフにしといてくださいよ、ミズハ」
「デデデ!?」
はあ!?女子生徒とでもデート!?デートに該当しませんよね!?と、言いたかったのですが驚きすぎて口が回りませんでした。
「今日は付き合ってくださって有り難う御座います、ミズハ。ヒミツを暴いちゃったから、俺のとっておきのヒミツを教えてあげちゃいますね」
「いいいいりま!?」
ブンブンと首を振っているにも関わらず、三和琴子は可愛らしい鳥の置物で押さえられた伝票を取って、私の耳元に口を寄せました。
ふわり、とハーブでしょうか?青い爽やかな草のような、いい匂いがします。
「俺、こんな格好をベタでクズい理由でさせられてますが……れっきとした男子生徒です」
取れない黒電話のスマホ設定音が鳴り響く中、三和琴子の、低い声の囁きは…………周りの音が一瞬で消し飛ばしました。
何と仰いました?
だんしせいと。その音を漢字に直すと男子生徒。
…………男性!?
「告白しちゃいましたね、恥ずかしいな」
ならば、恥ずかしそうに………仰ってください。
私に向けられたのは、今までの暴言を紡いでいるのに儚げな表情は消え……春の空色の瞳が傲岸不遜な、微笑みが、一瞬……。
そんな馬鹿な。
三和琴子はサポートキャラですよ?女の子の。女子生徒の!!
男子生徒なんですか!?
え、女装!?何故!?どうして!?本当に!?何故こんなに心臓の動悸が激しく!?
思いもよらぬ情報にポカンとする私を残し、三和琴子は身軽に去って行きました。
衝撃から抜けられず、暫く固まっていた私は………。
「お茶代を………返さなければならないんですか!?」
その事実に気付き、ガックリし、若君への返事が遅れ………父に叱責を受ける羽目になるのでした。
サポートキャラは勝手に秘密をミズハに押し付けて帰ってしまいましたね。