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悪役令嬢は召された彼を還せない  作者: 宇和マチカ


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22/35

気が緩んだ時に忍び寄り

お読み頂き有難う御座います。

メアリは主人公特権で逃げ切ったようですね。

「はひ、ふぎぃ、はひああ」

「と、轟さん、大丈夫ですか!?」


 山葵様と別れた後、轟さんが見つかりました。

 どうやら下足箱に張り付いて、ヒモトを遣り過ごしたようです。

 見たところ、お怪我はされていないようでした。

 ただ、制服がヨレヨレしています。 

 うう、大丈夫なのでしょうか。


「あのこ、あし、はや……ぐへはあ!」

「やりますね、チビヤカラ。 野良ブスを此処まで追い込むだなんて。 

 野良ブス、その汚い喘ぎも許します」


 私はよろける轟さんを慌てて支えました。

 茶色とピンクの髪から、キャンディのような甘くて可愛らしい匂いがしますね。流石乙女ゲームのヒロインです。


「でも、ぐへえ。一体お姉は何をさせたの……か、聞けなかった」

「使えねーな」

「此方は山葵様から当時のご事情を伺えました」

「時間、稼ぎには……」

「ええ、なりましたよ。轟さんのお陰です」

「ひょ、よかった……」


  花壇の縁に腰掛けようとされたのか、轟さんがしゃがみ込まれました。

 ヒモトを撒くのにどれだけ必死で走られたのか。本当に申し訳ない事です。

 私は慌てて、花壇に垂れていた水滴をハンカチで拭きました。


「あ、そこ、湿ってますよ。お待ちください」

「ふげえ……めっちゃレディースアンドジェントルメン……」

「それ、紳士淑女の皆さんって意味だろうが」

「ふへ、つい。ありがとねミズハちゃん」


  声も枯らしておられるのが申し訳ない事です。そう言えば、荷物に水筒を入れていました。母が麦茶を沸かしてくれたのを入れてくれた筈です。


「宜しければ裏庭に戻って、私の水筒のお茶をお召し上がりください……」

「野良ブスの荷物は裏庭ですから、戻ればいーんです。でもまあ、飲まない方がいーかも」

「どうしてですか?」


  もしかして、轟さんは麦茶はお嫌いだったのでしょうか?

 どうしましょう。ジュースでも今から買いに走りましょうか。ですが、流石に校外に出ると、授業放棄がバレてしまいます。


「何か仕込まれてるかも。荷物を置きっぱにしなきゃ良かったですね」

「其処まで考える!?ガッコだよ!?て言うか通学鞄持って走れないよ!幾ら走れるヒロインメアリちゃんでも無理!!」

「敵の居る学校で安全安心が守られてんです?危機感を持て野良ブス。異物混入無くてもぶちまけられてるかもですよ。典型的なイジメの手段です」


  ……その可能性を考えておりませんでした。た、確かにヒモトには物凄く敵意を向けられておりますし、平和ボケしすぎだったようです。


「状況から鑑みるに、ちょくちょく怪人電波お姉は学校に潜り込んでるみたいですしね」

「マジか!?

 昨今のガッコは侵入者に厳しめじゃないの?」


  来賓の方々は、事務所に寄らなければならなかったり致ししますものね。部外者が彷徨いていれば……分かるような気もしますが。


「見つけ次第撃ち殺してくれるマシンガン装備の警備員とかいねーですしね。卒業生なら間取りも隙間も知ってるでしょうし」

「そんな殺伐としたホラーゲームみたいな乙女ゲの舞台なガッコは怖いよ!!」

「煩えな。大体好みやら嗜好やら暗記してる初対面の方がホラーですよ」


  た、確かに。我が身に置き換えてよく考えてみれば怖いですね。


「えっ、大王の家代くんがモブバの親牛の脛齧りバーガーのCセット(飲み物は野菜サイダー)が好きとかそう言うの!?」

「お前アイツと仲良くもねーだろ。キメエです」

「何ちゅう悲劇的な!!」


 ああ、ええと、モブバーガーでしたっけ。

 何故かメニューが斜め上のセンスですよね。何方が付けられたのでしょう。


「大体、好きなもん位仲良くなってから聞けばいー話です。あ、ミズハ。俺は林檎が好きですから」

「そ、そうですか。承りました」


  えっと、何かお礼にご用意しろと言うことですね。林檎……特に料理の腕も御座いませんが、お礼のお菓子を買いに行きたいですね。

 あ、久しぶりに買い物……。一体何時ぶりでしょう。

 ああ、考えるだけでも楽しそうです。


「ハイハイミズハちゃん!私こと轟メアリはロリポップキャンディとかのデカめお菓子がお好みです!!」

「まあ、お可愛らしいですね」

「縁日のデカイ飴で乳歯折った過去の持ち主の癖に、しつこいですよね」

「か、齧られたんですか」


  あの大きい飴は、口に入れるのも結構大変だと思うのですが。

 今は……縁日に行ったことが無いので、前世の知識でしょうね。

 思えば、そんな些細なイベントもしたことがなかったのです。私だけではなく、若様も、山葵様も、ヒモトも。


「後、この野良ブスは、骨付き肉をこいつの飼い犬と同じ不細工なツラで齧るのが好みですよ」


 さ、流石に飼い犬と同じご飯は……いえ、知らないだけでそれが愛犬家のトレンドなんでしょうか。

 そして、顎がとても丈夫なんですね、轟さん……。


「語弊が有りすぎじゃね!?後、ウチのミニチュアブルテリアのしろくろは可愛いからね!!」

「まあ、お名前はしろくろちゃんですか。お可愛らしいですね」

「でしょ!?」

「野良ブスをナメて言うこと聞かねえしろくろの話はどーでもいーです」


 そして私達は職員室に向かい、遅れたことを謝罪致しました。


「裏門で待ち合わせしてた不破さんの周りに不審者が彷徨いていて、隠れて遠回りしたら遅れました」

「不審者!?」


 ふ、不審者……。まさか、ヒモトを不審者に仕立て上げるのでしょうか!?後でつつかれないよう、名前を出さずにそれらしく……。

 モノは言いようなのですね。凄いです、三和さん。

 あっという間に先生方を丸め込まれてしまいました。


「ホラ、ミズハ。朝、家にも『正体不明』の奴がドアをガンガン叩いてきたんでしょ。先生に報告しないと」

「あ、ハイ」


 父の事まで利用なさる気のようですね……。あ、あくどいのですが……否定も出来ません。

 私は母の家で被害に遭ったこと、警察に相談したことを先生に報告致しました。


「大変だったな、不破。しかし、轟と三和に助けて貰えて良かったな。此方から警察にも巡回をお願いしておくからな。可愛いんだから気を付けなさい」

「先生、不破さんが不審者につけ回されるのは不破さんのせいじゃありません」

「そうだったな、すまん」


 私達は解放され、授業へと向かいました。


「ミズハちゃん、新しいスマホ買って貰うの?DOKIN入れようよー」

「はい、入れたら使い方を教えてくださいね」

「ウザかったら即ブロックすりゃいーですよ」

「琴子ガチヒドス」

「夜中に、耳の長さが左右違うキモいウサギぬいぐるみ画像送られる実害を受けますからね」

「マスコットキャラを作ろうと思ったんだよおおお!!きっと上達してみせんだからああ!!」


 あ、流石にこれは先生に叱られました。


 ですが、新鮮です。

 友達と笑うってこんなに楽しかったのですね。

 若様のお側に居るのが苦痛な訳ではなかったのですが、それでも……同じ学校の中なのに、違う世界に居るようでした。



 昼食は何時ものように、静かに教室内で済ませました。クラスメイト達は何時ものように遠ざかったままです。


 若様がたや、ヒモトも教室には来ず、平穏な授業が終わり、そして、放課後。

 母からメールが届いている事に気がつきました。

 約束通り、裏門に迎えに来てくれるようです。

 手を掛けさせてしまい、申し訳無いのですが……、少し怖いのでホッとしました。


 下足箱で靴を履き替え、裏門へと向かいました。

 若葉の緑が綺麗で……少し木が繁っていますね。


「何も無くて本当に良かったな……」

「もーお、何か無くちゃ困るんだよねー。ホント仕事してよ」


 私は、どうして油断してしまったのでしょう。

 轟さんが仰っていたじゃないですか。


『エミリ卒業生だから、服ぐらい持ってるし!』


 咄嗟に顔近くに煌めいた……金属を避けるので精一杯で。

 最後に見たのは、制服に身を包んだ毛先に向かってピンクから茶色グラデーション髪の、轟エミリと植え込みを囲う煉瓦……。



 そして、気を失う直前に聞こえた、耳元でザクザクという音でした。





報告したのに、警備がなってなかったですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良家の子女が通うのに部外者が侵入、危険人物を把握してない学校はダメですね。報告があったその日に対応できていない。
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