サポートキャラは脅しにかかる
お読み頂き有り難う御座います。
「さあて、諸悪の根元の一端が捕まりましたし、めでたく痛め付けて尋問出来ますね」
こ、怖いです。……何故その儚げで繊細なお顔で、そのような恐ろしい言動が似合われるのでしょう。正直私なんかよりも悪役の素質がおありでは……。
いえ、そうではなくて!
そろそろと足を引かないで欲しいです!!この方、本当に口も容赦がありませんが足癖もお悪いですよね。
ああ、山葵様がビビっておられます。
「あ、あの、三和さん。暴力はいけません」
「はい思い出せ?泣くほどのトラウマに繋がる諸悪の根元の一端、濡れ衣を着せた奴。復唱しますか?」
「……っ」
そ、そうなのですけれど。
ですが、状況を鑑みるに……山葵様は捲き込まれただけのような気が致します。
この方は、そんなに悪い方では無いと……思うのです。
「昨晩、ミズハがどんな目に遭ったかご存知ですよね?実の父親に理由も聞かず冤罪で詰られたんです」
「そ、それは」
「何で冤罪を着せたんですか?」
「ミズハが帰ってないって、知らなかった!!」
「取り敢えず、状況を詳しく調べてください。スマホに録音します。大容量SDカード買ったんで」
ろ、録音!?会話を録音するんですか!?何の……って、そうですよね。後でしらばっくれたら困りますね。
ええと、いつの間に……。
いえ、でも私が気付くべきだったんですよね。全く考え付きもしませんでした。一応、悪役令嬢の筈なのですが……私は本当に抜けています。少しは何とかこう、チートが無いのでしょうか。
「えっと、あの三和さん」
「SDカード代はお母さんの慰謝料に上乗せしといてくださいな」
「あ、あの、はい」
「み、ミズハ……。何者なんだ、この女子」
「ああん?不本意ですが三和琴子と名乗ってますけど?」
「名乗ってますって……偽名なのか?」
あ!た、確かに。
三和さんのお名前が偽名なのか考えもしませんでした。そうですよね、男子なんですもの。
彼が『三和琴子』で居るのが、もう私には当たり前で……。
お名前が他にある……のですね。
一体どんなお名前なのでしょう。少し、いえかなり気になります。
いけませんね、呼ばせて貰える訳では無いのに興味を持つなんて……。
「山茶花坂弟君に関係はねーですね」
「か、関係はないけど」
「余計なことはいーから、質問に答えてください。お前は昨日の事を証言してください。何を見て何があったのか」
「な、何で……」
「お前、冤罪掛けといて何故も何でもへったくれも有ります?」
三和さんの言葉に、何を思われたのでしょう。
山葵様は青褪めた泣きそうなお顔で、私の顔をじっと見つめられました。
……暫く遠目にしかお会いしていませんが、山葵様は背が伸びられました。兄である若君に……薄い黄色の目がよく似ておられます。場違いですが、この胸を過る寂寥感は何故でしょう。
先程、若君と別れたばかりですのに。
「……昨日、夕方。親が仕事で出ていってから、庭にいたんだ」
「お庭に、ですか?」
基本、山葵様は若様と同様インドアな御気性の筈ですが、お庭に居られたとは?
お珍しいことです。
「体力テストの為に、キャッチボールをしようってヒモトが言い出したんだ。そんなに直ぐ効果は出ないと思ったけど、最近ヒモトがイライラしてたから。僕で良ければストレス解消に付き合おうと思って」
随分気を遣ってらっしゃったんですね。ヒモトがお気遣いすべきですのに。
それなのに、ヒモトは……。
「ヒモトが山葵様にそのような申し出を……申し訳有りません山葵様」
「主従逆転ってヤツですね。何がチビヤカラ……坂木ヒモトをイラつかせてたんでしょう」
「それは……」
山葵様は言いづらそうに口ごもり、私の方を向かれました。
まさか、私が原因なのですか?
ヒモトに関わるのが最低限……いえ、最近はそれすらもせず家族として何もしなかったから?
「私が何かしたのですね」
「何か、と言うか、ヒモトの問題だからミズハが悪くない。逆恨みなんだ、と後で思った時は手遅れだった」
山葵様の顔が泣きそうに歪んでおられました。
そうです、元々この方はそんなに気が強い方ではなくて……ヒモトの方が昔は乱暴で怒られて……ああそうです。堂々としろと山葵様は叱られていて……。
本来の気性を押さえ付けられては、歪みます。
だから、最近の言動は……何処かちぐはぐだったのでしょうか。
「まあその辺りの事情はどーでもいーです。昨日何時頃に壺が割られたんですか?」
「えっと、蔵の方からゴソゴソ音が聞こえたってヒモトが言ったから……時計は見てない」
「使えねーですね」
うう、三和さんの発言が容赦なくてアワアワします。
「だ、だってキャッチボールしてたんだ。時計なんか外すに決まってる」
「ですがおかしな話ですね」
「え?」
「ミズハ、お前は蔵の存在知ってました?」
「あ、はい。前は通った事が有ります」
「位置は?」
蔵の位置、ですか。
えっと、確か……。
私は小さい時から住む、山茶花坂の家の間取りを思い出しました。
敷地は大きいですが、建物の数はそんなに沢山御座いません。
玄関から少し離れた所にご家族がお住まいの母屋、お仕えする者やその家族が住まう離れ。
そして……今回問題の、伝来の宝物が入る大きな蔵や、食料や生活用品を保管する倉庫が建つ裏口近く。
「裏口から少し入って、低い植え込みの道を通った所だった筈です」
「そもそも、キャッチボールしてたのは何処なんです?」
「蔵の前で」
確かにあそこの前は更地になっていますね。荷物の搬入も多いので、植木も無かった筈です。
人が居なければキャッチボールが可能でしょう。ただ、用事が無ければ近寄らない場所でもあります。全く近寄る者が居ない訳では有りませんが。
「蔵って窓とか無いんですか?」
「有るけど……」
「ええと、2階に明かり取りの窓がありましたね。何せ古くから有るものだそうで、監視カメラを付ける時も揉めたとか……」
「新しいものは欲しがるけど、放置して貯めてばっか。蔵もボロいけど、古いものを修理したりとかは……親が面倒がるんだ」
「成る程、然るべき処置を取らないで事が起きたら大騒ぎ。勝手ですね」
「……」
そう言えば山葵様の仰った通り、御当主夫妻の買い物は華やかですが、飽きられるのも早かったですね……。
一応、蔵の虫干しはされていたようなのですが、私は大事なものだからと関わることは有りませんでした。
「そもそもチビヤカラは、態々人が行かない離れた蔵の前でキャッチボールしようとどーして提案したんです?」
「あそこは、壊れそうな植木もないしってヒモトが」
「お前んちお金持ちでしょ。蔵なんて壊しちゃいけねーものだらけなんじゃねーんですか?長年住んでるミズハも入っちゃいけねーレベルのもんが」
顔を強張らせる山葵様に、三和さんは嘲るように言われました。
「何故チビヤカラはお前んちの使用人?召し使い?でいーんですかね。何故、そいつが、そんな所に誘導するんです?」
あ、そうです。
本来は……壊してはいけないものが沢山有る倉庫。そんな所にキャッチボールをしに誘うヒモト。
三和さんに指摘されるまで、全く違和感を感じませんでした。
「まるで、直ぐ何か起こったか気付く現場に態々引っ張っていったみたいですね」
「!!?そんな、え!?」
「何ですか山茶花坂弟君。お前、自分の手下が怪しいと思わなかったんですか?」
「そ、そんな。ヒモトが!?まさかヒモトが割ったのか?」
ああ、驚かれて幼く見える黄色の目が、若様によく似ておられます。
「……あの、ミズハ」
「は、はい」
「言い訳になっちゃうけど、本当にゴメン。僕はミズハを陥れる気なんて、全然なかったんだ。でもオロオロ迷ってるうちにヒモトの説明でドンドン話が進んでいって……兄ちゃんにも怒られた」
若君が……。
「軟弱な坊っちゃんですねえ。甘やかすなミズハ」
「わっ!?」
俯かれた山葵様の背中を撫でようとすると、思い切り引っ張られました。
「やっぱり……」
「な、何がやっぱりなんです!?山葵様、変な誤解をなさっておられません!?」
ああでも、勝手に人様の性別をバラすなんて出来ませんし!!
距離感が悪いんですか!?三和さん、何だかんだで近いですし!!
「じゃあ、野良ブス回収に行きますか」
「あ、あ!そ、そうですよね、轟さんのご無事が!!」
一番大変な事を押し付けておいて、すっかり忘れてしまっていました。
……一体何とお詫びしたらいいのでしょう。
「ちょ、ちょっと待って」
山葵様にお辞儀をし、三和さんと轟さんを探しに立ち去ろうとした時、震えるように絞り出されたお声が掛かりました。
「僕は……どうすれば。いや、ヒモトが何かしたなら僕の責任でもあるし、協力させて欲しい!」
「山葵様……」
「要りませんよ、何の役に立つんです?」
「な、何の役にって……」
三和さんの厳しいお言葉に……山葵様が涙目になってしまわれました。
「お荷物ヘタレは野良ブスだけで充分です」
「わ、山葵様はお荷物でもヘタレでも有りませんよ!?」
「成程、そのお人好し加減が搾取されてきた訳ですね」
「さ、搾取!?」
「まあ、山茶花坂弟君。汚名返上か罪滅ぼしか知りませんが、ミズハの役に立ちたいならご自身でどうぞ」
「いえそんな、私ごときの役立てるなんて」
「ミズハ」
何も言い返せない山葵様が歯痒くて、戻ろうとする私の髪の毛をゆるく、引っ張られました。
三和さんの仕業でした。
「……」
「正直、此処で甘い顔すると成長しませんよ」
……ご事情を話してくださって、謝ってくださった山葵様を巻き込むつもりは、有りませんのに。
サポートキャラ三和琴子、ヒロインも攻略対象も脅します。




