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悪役令嬢は召された彼を還せない  作者: 宇和マチカ


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対決せよ乙女

お読み頂き有り難う御座います。

「それで、どーやってえーと、取り敢えず悪い人をザマアしたらいいんだろーね」

「……ザマア?ですか」

「野良ブスにしてはいい提案です。ピンチに対抗する為には徹底的に仕返しをした方がいーですね。ゆくゆくは明るい人生になりそーで良いと思いますよ」


 ………そう仰られる三和さんの目は、実に澄んでおられました。し、仕返しを勧められるお顔では無いですね。場違いな程に爽やかです。いえ、気候はいいのですが。太陽の光がこの中庭に差し込んで、グラジオラスの赤を凝縮するように照らしています。

 確かに悔しい思いを致しました。ですが、この世界は現実的で御座いますし、私はこの状況をひっくり返せるチートを持ってはおりません。

 悲しいことに………チートの無い悪役令嬢……少数派でしょうね。属したく無いですが、それが今の私なので、どうしようもありません。一朝一夕でチートが授かる訳も有りませんし。うう、突然神様が枕元に立たれませんかねえ……。


「で、ですが。本やゲームでは無いんですよ。私には何の力も有りません

 2か3か4なら有り余る権力が有るんでしょうが、私は単なる女子高生です」

「おおお!! 実は魔法が使えたりしない?」

「で、出来ません」

「人体発火とか良さそーですね。怪奇現象ならアシが付かねーでしょうし」

「出来ませんから! 凡人です」


 魔法が使えたりしたら……素敵ですね。

 ええ勿論、現実なので絵空事です。

 チート………見目はまあ、良い方だとは思いますが……チートと言えるならば、それだけです。それに目の前のおふたかたも見目は素敵ですから特に目立つ訳でも御座いませんね。

 ………やはりどれだけ考えても異才も頭脳明晰も御座いませんので、変な計画を立てて頂いても困ります。

 本当に役立たない身ですね……。悔しいです。


 それに、先程轟さんが仰られた通り、此処に通えるのも何時までになるのか。父に逆らったのですから、何時、授業料の支払いを止められてもおかしくはないでしょう。


「……それに、その、ザマアをする時間も余り有りません。母の、その、離婚手続きが済めば、引っ越しをすることになるでしょうね」

「うおおおお!?」

「……詳しくは事務局で調べなきゃでしょうけど、授業料の支払いって学期末でしょうね。てことは、長くとも夏休み迄か……」

「冷静過ぎじゃん琴子お!!」

「煩えーな、野良ブス。お前が指摘したんでしょ」

「アウアウオウオウ……」


 轟さんのロックミュージシャンの様な嘆きは有り難いのですが、気を抜くと笑ってしまいそうになり、つい下を向いてしまいました。

 うう、無表情を作れる力が欲しいですね。直ぐ顔に出てしまいますので、困ります。


「時間が限られてます。先ずは下っ端から攻めましょう」

「下っ端から……と言いますと?」

「不破ヒモトですよ。ほら、知ってる限りの情報を吐け、ミズハ」

「ヒモトのですか……」

「手段がないなら下っ端から崩す。そして真の牙城を壊す。常識です」


 ………三和さんはどのような人生を送ってこられたんでしょう。

 やはり好まぬ異性装を無理矢理送る生活がストレスだったのでしょうか。


「ヒモトは………父方の従弟です。父の妹の息子に当たります。本名は坂木ヒモトですね」

「あれ? でもアイツ、不破って名乗ってましたよ? 詐称?」

「ええと、元々叔父さん……坂木さんは山茶花坂のお家にお勤めだった関係で叔母さんと結婚されたそうなんです。職種は料理人さんでして」

「そういやさ、叔母さんとコンタクト取れないのかな?味方になってくれそうに無いかな!? 大人の味方大事だよ」

「ええと、叔母はヒモトが6歳の時に亡くなりました」


 そういえばあの時位からでしょうか。ヒモトが山葵様のお世話係になって……何を言っても諦めたような、斜に構えた感じになったのは。

 山葵様には感情を露にしている様なので、積極的にコンタクトを取りませんでしたね……。そもそも自分の事と若君のお世話で手一杯でした。

 ………もう少し家族として接するべきだったのでしょう。私を即座に犯人にしてしまう程に、こんなに恨まれてしまう前に。


「………やはりか、そう言う感じなのかあ。悲しい過去を持っててもさ、人をいびっちゃいかんのに」

「偽善者の役立たねえ感想どーも。突っつけそうな弱点以外はどうでもいいです」

「琴子は時々さあ! ヤバイ悪の施政者みたいなオーラでぶった斬るよね! 怖いよ!!」


 確かにこう、偉いオーラと言いますか。何となく三和さんは高貴なオーラを偶に漂わせられる事が有りますね。時々怯えてしまうのは私が根っからの庶民だからでしょうか。


「同情して奴が悔いてミズハの親父をギャフンと言わせるなら、役にも立つでしょーが、お前とチビヤカラは拗れてるんですよね」

「ここ1年位は、喋ってもおりませんね……。

 同じような立場なのですから、歩み寄るべきでした。今更ですね」

「取り敢えず考え付くチビヤカラの心情としては……簡単な所で男尊女卑。女だからって見下されたことは?」

「……女の癖に、と悪態を吐かれた事は有りますね。小さい時ですが」


 その時は叔父さんに怒られて不貞腐れていました。あの頃は今よりマトモに会話しておりましたね。


「ほー。じゃあ、定石でお前が跡継ぎの山茶花坂兄君を担当してるのを嫉妬ギラギラ浴びたことは?」

「能力も無い癖に何でお前が、と言われた事は有ります」


 ………凄いです、三和さん。言われて始めて思い出しました。

 私が気にしないで過ごしてきた事の中に、恨まれる要素は有ったんですね……。


「………凄いや琴子。何なのその山茶花坂のお家を見てきたような当て具合。実はサイコメトラーなサイキックなの?」

「サイコメトラーなら、一々確認しねーよ」

「そ、そっか。実は近未来な超能力合戦が起こるのかと慌てちゃったよ。ヒロインとして何か新たな能力が目覚めるのかと。

 あっ、サイキックヒロインなら目茶苦茶お役立ちだね!!」

「要らねー心配ですね。喉から手でも生やしてろ」

「最早サイキックじゃないし、見た目恐ろしいお化け系能力は遠慮したいかな!!」


 世界観が変わるのは、怖そうですね……。


「恨んだ奴をハメたい。世界の共通認識ですね」

「でもさ、女の子なのはミズハちゃんのせいでもないし、坊ったんのお世話係なのってお父さんの強制なの?」

「ええと、私がやりたいと言った覚えは有りませんね……。

 気が付いたら侍従でしたし、父の命令に従っていました」

「ヒデエじゃん!何でミズハちゃんが恨まれるのさ!?」

「降って湧いたラッキーに甘んじて努力もしてないって認識なんじゃないですか?

 母親も亡くし、自分と関白で一杯一杯だから、望んでも居ない立場だと慮ることも無かったんでしょ。歪み合わねえよう大人のフォローも無かった」

「………いや、同じような立場なのに何でなのさ……。

 考えてみりゃさ、無理矢理やらされたミズハちゃん達子供よりも、ちゃんと責任感の有る大人が面倒見た方が絶対良いよね」


 ………そう断じられてしまうと、………私達の立場は実に不安定なものだったようです。


「まあ、使用人が我慢すりゃいーっていう前時代的なやり口は、誰も幸せにしてねーってことですね」

「……坊っちゃんとお世話係さんって、パターンは色々有るけど乙女ゲーでよくある設定なんだよね。でも、そりゃ色々無理が立ちはだかるし歪んで来るんだ……」

「私は、疑問を持ったことが有りませんでした……」

「毒父親ですね。それを許してる周りの大人も……山茶花の兄弟の親も虐待案件です。

 ミズハのおかーさんが足掻いても壊せないくらい頑強なのが、また更に最悪です」


 …………改めて言われるとずしっと、心に響きました。

 父を貶されるのはもう当然だと思っているようで何とも無かったのですが、山茶花坂の御当主夫妻の事を言われると……可愛がって頂いたのに、しっくりと来るのです。

 確かにあの方々は可愛がってくださるだけで、私が父に叱責されていても真剣に庇って頂いた事は有りません。

 ヒモトも同様でしょう。


「同族嫌悪、なのでしょうか。ヒモトは」

「いや、$#@=-って感じかな……」

「またノイズですか。お前、電波妨害出来そうですね」

「うう、ノイジーマイノリティやりたくないよう……」

「チビヤカラを殴って吐けば良いんですけどね」

「えっ!?」

「………琴子、暴力はダメだよ。退学になっちゃう。いや、元々のシナリオ由来ならぶん殴っていい件だけど」

「元々の……ですか?」


 私の性格が変わるような事を、ヒモトが……。

 悪寒が背筋を走りました。一体、何を……されるのでしょうか。本来は、私は、その立場で……。


「怯えなくていーです。ミズハを襲わせたりはしません」

「で、ですが……」

「手段なら有ります。今の話を聞いて確信しましたし」

「ええ!?琴子スゲー! 何か対策を立ててたの!?」

「お前は何か考え付けよ。知恵がある割りに役立たねえノイズ製造機」

「それを仰られるなら、自分のことですのに私の方が何も出来ません」

「うう、ミズハちゃん優しす! 琴子マジ痛いし!!」


 ああ、手を握ってこられた轟さんの手を思いっきり叩かれました………。


「野良ブス、ミズハの役に立ちたいんですか?」

「モチのロンだよ!!」

「じゃあ、役に立って貰いましょう。敵が女を下に見ているなら、最底辺の女に」

「さ、最底辺?え、それこの私、メアリちゃんのこと!? 酷くね?

 ………ど、どゆこと?」


 スマホより少し厚い機械をポケットから出された三和さんの、にこりと爽やかな微笑みに……場違いながらにドキドキしてしまいました。




対決させられるのは乙女ことヒロイン、轟メアリだそうです。

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