ヒロインは攻略対象との出会いに失敗したそうです
お読み頂き有難う御座います。
苦難にあえぐ孤高のヒロインの受難回を囲む会と化しておりますね。
「ピンチだよ……琴子&ミズハちゃん……」
「どっかのチェーン店みたいに呼ぶな野良ブス」
三和さんは本日も絶好調で、轟さんに対しての扱いが酷いです。
そして私とコンビ扱いされるのは宜しいんでしょうか。
本日は昼休み、校舎の片隅……日当たりが良くてお花が綺麗な一角なのに、何故か人が訪れないという……こう、無理のある『おあつらえ向き』な場所で御座います。
何でも此方で『サポートキャラに相談』が発生する場所だそうで。
地味に前回も同じ場所でした。何故か何方かがお世話されているのか、前回とは違うお花が咲いておりますね。
こんな素敵な場所なのに、何方も来られないそうです。これもゲーム補正なのでしょうか。
「攻略対象とドッキドキ☆出会いイベントが起きないんだよ……」
轟さんがげっそりとお話をされたのは、5月も半ばで御座いました。
ドッキドキ出会い……?攻略対象との出会いイベント……ですよね?
……遅くは無いでしょうか。
シリーズで考えると、どう考えても出会いイベントは4月からせめて5月序盤でしょう。
「でもお前、ついこの間三年の瓦版屋にニアミスしたって聞きましたよ。蕁麻疹出されて吐かれた大騒ぎを引き起こしたって」
「ええ!?」
ニアミスって、ちょっと顔を見せた解釈で宜しいんでしょうね。
……それでどうしてそんな事態に!?普通、ヒロインと攻略対象の出会いって……そんな嫌悪らしき反応から始まるパターンは少ないように思います。
「吐かれては無いよ!!皆大好き攻略対象が人前でそんな失態を犯しちゃいかんでしょ!!」
「あの轟さん、攻略対象も人ですので、体調が悪い時も有るでしょう」
「お前のツッコミもフワフワですよ、ミズハ?」
「そ、そうでしょうか。的を外していたでしょうか。恥ずかしいです」
「何そのツラ、もっと見せろこっち向け」
「ええ!?」
何故お顔を近付けられるんですか!?初対面から三和さん、近すぎやしませんか!?
うう、空色の目が近いです!!ドキドキします!!
「傷心のヒロイン☆な私の前でイチャつかんといてえええええん!!」
「い、イチャ!?」
「あー煩い野良ブス。ササっと言え」
三和さんは何時もの通りサラッと流されていますね。
……うう、ひとりでアワアワして恥ずかしいです。
「お姉のせいだよおおおお!!お姉が浅茅センパイに悪夢なトラウマをビッシリ植え付けたんだよおおお!!それで私、お姉と同じ顔を目撃するなり泡拭いちゃってえええ!」
「「ああ……」」
そっくりでしたものね。成る程、轟さんのお顔がトラウマを引き起こしてしまったのでしょう。しかもつい三和さんとハモッてしまいました。こんな事って有るんですね……。
いえ、そうではなく。
「ああじゃないよおおお!!顔見られるなり泡拭かれて蕁麻疹を起こされ失神されるって、私可哀想えーーん!!だともいえないこの状況!!」
「奴のトラウマ知ってて、近づくお前がどうかと思いますよ」
「移動教室の時に偶々出会うってイベントだから、しゃーないっすよ!!
後、お姉と私は顔は一緒でも滅茶苦茶違うからそのオーラを感じ取ってくれるかな!!本家本元のヒロインには何か特別が待っている!?と期待を込めて!!」
「初対面で、見てくれ以外の何が分かるってんですかね」
……さ、散々な言われようです。ですが、確かに初対面では見た目以外で何かを判断するのは難しいでしょう……。不思議な力が有って、その力に魅かれるのが切っ掛け……みたいな夢と魔法のファンタジー世界では御座いませんし。
「それを……シンバル大名の佐簗くんが見ててよお!!ドン引きだったの!!」
「ダブルパンチじゃないですか、面白れー」
「オマケに次の日ィ!!メアリちゃんの身に!!」
「未だ有んのかよ。いー加減飽きんですけど」
三和さんは……何時見てもサポートキャラでいらっしゃいますのに、ふてぶてしくていらっしゃいますね……。物事に動じておられないのはいい事なんでしょうが。
「次の日、校内新聞に『浅茅和による轟さんに対するお詫び&近寄らないで欲しい願い』が載ってたんだ。
懇切丁寧なトラウマ理由も詳細で、お詫びも丁寧で……完膚無き迄に、私は沈んだね、敗者にさ……」
……。
……………。
ど、どう言う事でしょう。
浅茅先輩が、新聞に……轟さんとの出会い……?を載せた!?
どうしてそのような事に!?
「何それマジウケる。瓦版屋マジ瓦版屋じゃねーですか」
「ええと?こ、校内新聞に……!?流石新聞部……いえ、放送委員長では無かったでしょうか」
「あのムッツリ野郎は顔が広いんですって。頼んだんでしょ、野良ブスと顔合わすとぶっ倒れるから」
「それにしても酷くねっすか!?お陰で全校生徒にお姉の悪行が知れ渡って、その妹の私も悪人とは言わんけど触ったらヤバイ存在扱い!
今や全校生徒から薄っすら遠巻きだよ!?至る所でヒソヒソコソコソだよ!?孤高のヒロイン、此処に爆誕!!しちゃったんだよ!?」
「お前の性格自体が、他の生徒を寄せ付けてねーでしょうが」
「それでもでがすよ!!試合はこれからだ!と思っていた所だったのに!!」
轟さんはお気の毒なほどに涙目でした。
確かに、全校生徒向けの校内新聞に載せるなんて……デリカシーが無いにも程が御座います。
轟さんにお詫びするなら、それこそお手紙を下足箱に忍ばせるなり何なりすれば宜しかったのに……。
……それはそれで誤解を生むでしょうか。
大体下足箱にお手紙って、すわラブレターか?と言うテンプレも御座いますね。何方かに目撃されたら余計に浅茅先輩にとって好ましからざる展開になったかもしれません。
「あの……僭越ながら、私は遠巻きに致しませんし、三和さんも居られますし」
「ああッミズハたん!!何故ミズハたんが攻略対象じゃ無かったの!?最早優しいミズハたんと友情エンド目指したい今日この頃!!痛っ!!!痛い痛い痛----い!!止めて琴子!!抓らないでギャーーーン!!」
何故か三和さんが轟さんの腕を抓りあげています。御止め……したい所ですが、これもじゃれ合い……で宜しいんですよね。決して三和さんの雄弁な眼差しが恐ろしい訳では御座いません。……すみません、轟さん。
しかし、……友情エンド、ですか。
悪役令嬢との友情エンドは……4のフォーナとフィオールは姉妹ですから、仲良し姉妹エンドですか?は皆無でした。
ヒロインは、悪役令嬢相容れないまま……。どのシリーズも同じです。
エンディング後には、お互いに距離を保つままなら宜しいでしょう。ですが、更なる争いに発展しかねない……。そんなフラグも、今から考えれば御座いましたね。特に3と4は本気で殺しに掛かって来る悪役令嬢達で御座いましたし。
……そうじゃなくて良かったです。いえ、未だ轟さんと確固たる友情を築いてはおりませんが。実はちょっと不安で御座います。
「じゃあ、校内新聞読まなさそうなバカ大王にターゲットを絞ればいーんじゃないです?」
「それが……此処来る迄に校内新聞読んでバカ騒ぎしてるの見てさ。ヤベーな!ダチなら面白そーだけど、其処迄嫌われるってヤベーな!!ってえええええ!!」
……浅茅先輩の業は深いですね……。
いえ、元を正せば轟さんのお姉さんの所業が悪いのでしょうが……それでも轟さん自身が何か彼に悪い事を為さった訳では御座いません。全校生徒に知れ渡り、轟さんを孤独に追い詰めるような真似を為さるなんて許される行為では御座いません。
「あの、此れは苛め行為では無いでしょうか」
「はえ?」
「ミズハ?」
「轟さん、抗議を致しましょう。幾ら最高学年で轟さんのお姉さんに酷い事をされて皆さんの前で醜態を晒したからと言って、これはいけません。何もされていない轟さんに対する一方的な暴力です」
……?
おふたりがお珍しくもぽかんとされていますね。
……そ、そのように見つめられるような変な事を申し上げました?差し出がましかったでしょうか。
「……み、ミズハちゃんが義憤に燃えている……」
「変わった『悪役令嬢』ですねえ」
「ヤバい、ヤバいよヒロインの立場がガラガラ崩れ気味だよ!!恐ろしい子っ!!」
「えっ!?私何か不調法を致しましたか!?」
「野良ブスなんて放っておきゃ良いんですよ。ぼっち歴長いんですから、遠巻きシカト位何とも無いですよ」
「いやいやいやん!!我傷つきやすいヒロインぞ!?シカトもぼっちも普通に傷付くよ酷いよ琴子!!」
「ですが……」
「まー、確かに浅茅先輩は酷いわなあ」
……!?い、今吃驚し過ぎてつい肩が跳ねましたよ!
突然耳元で、聞き慣れた声が致しました。
……?聞き慣れた声?何方で……。
「ウオオオオオジャマッもが!?」
「近えーんですけどね、山茶花坂兄くん」
……お二方の反応を見ると、振り向かなくても分かりました。
「若君……?」
何故、此方に。
此処には誰も立ち入らないと……いう筈だったのでは?
相変わらず怠そうですね……。
「噂の轟と、感じ悪い三和やん。ミズハお前、友達濃ぉない?」
「お前に言われたかねーですよ」
……そして、どうして若君と三和さんが不機嫌でいらっしゃるんでしょう。
合わない、んでしょうか。
いえ、仲良く出来そうなご気性同士では御座いませんけれど。
若君とメアリが出会いました。




