乙女ゲームの本性?
お読み頂き有り難う御座います。
乙女ゲーム、「女神学園轟ッ!!」シリーズ。
名付けのセンスが問われる変な名前は多数のツッコミを呼んだものの、一時は全国の乙女を虜にして社会現象まで巻き起こした伝説の乙女ゲームと言われている。
1作目は少し振るわなかったけれど、2作目からは爆発的なヒットを記録。
3作目、4作目とシリーズを重ねて累計本数多数のヒットメーカーに成長した。
そして勢いに乗った制作会社は、新規ファンを取り込もうと、1作目のリメイクを発表。
内容変更を大胆に行い、新旧ファンの対立を巻き起こし……大きな事件を巻き起こす。
謂わば良くも悪くも注目を最も浴びた作品となってしまった。
そして、次回作を待ち望む声も多い中、会社はひっそりと終焉を迎える。
度重なる以前からのファンによる脅迫行為のせいか、資金繰りの困難のせいか。
色んな憶測がネットで飛び交ったものの、真相は闇の中。
シリーズは幕を閉じてしまったのでした……。
そして、此処はその、女神学園の中で御座います。
問題作、と目の前の美少女が評した……1作目リメイクらしき世界の、中……なんですよね。
今迄特に問題も無く、若君の侍従として暮らして来たものの……この、『ゲーム開始』の4月から違和感が零れて始めて来ました。
現実のような、でも……ノイズが聞こえたり、人に別の姿で認識されたりと……私の常識の及ばない事が様々と現れて……。
「私は新旧両方好きだったんだー……。若干違うお味付なテイストもモグモグ頂けたんで。何にせよお金持ち設定のお邪麿ぼったん追加は美味しい。夢が有るよね兄弟攻略対象って」
「お前の主観なんかどーでもいいです」
違和感の塊のトップで有られるのはこのおふたりですけれど。
濃いオタク用語を操られるヒロイン、轟メアリさんと……何故か男子生徒なのに女子と間違われるサポートキャラ、三和琴子さん……。
……そして、何故か賢くも特技も悪役オーラも皆無で令嬢でも無いこの私。悪役令嬢の不破ミズハで御座いました。
昨日、呆気に取られるような出会いだった轟さんのお姉さんとの遭遇が有りました。あの後、解散した後も……暫く毒気にやられて、父から叱責を受けてしまいました。若君は全く意に介しておられませんでしたが。
そして……モヤモヤしながらも登校した途端、私の手を引っ張る方が居られます。
……何方ですか!?え!?三和さん!?三和さんが私を引っ張ってお出でですか!?何故!?
何故待ち構えておいでで!?
「何や、友達ってこいつなん?」
「おはようございます、山茶花坂兄くん。お友達のミズハとお話したいから、独りでシングルで孤独に教室に向かってね」
「……何なんコイツ。初対面やんな?めっちゃイラッとすんねんけど」
「ヒソヒソキャーキャー言われ慣れて傲慢な男子ってどうかと思うし、侍従を引き連れて登校とかどの面下げてるのって思ってた。じゃあね」
「……女子やからドツけへんけど、むっちゃ腹立つわ!!」
いえ、三和さんは男子生徒……とは暴露出来ませんよね。
昇降口なので、大変人の目が御座いますし!!
ああ、若君が珍しく苛々しておいでです。
「いえあの三和さん、私にも職務が御座いまして」
恐る恐るおふたりの間に入って申し出ますと、三和さんはニコッと輝くような笑顔で微笑んで……低い声を私の耳に落としました。
近いですよ!!ゾクッとするのですが!!
「いーから来い、ミズハ。お邪麿ぼったんの取り巻きが変な顔してんぞ」
「!!」
お、思った以上に人が集まっておられますね!!何時もの事とは言え……野次馬も少し集まっておられます。
「山茶花坂兄くんは侍従のプライベート迄入り込むんです?」
「別に入り込んでへんし!!いっつも別々やし!!」
「あっ、若君!!」
……ああ、肩を怒らせて行ってしまわれました。
お取り巻き……いえ、ファンの方々が慌てたように後を追われています。
「……あの、私若君を追いかけなくては」
「お前のクラス、担任が欠勤で自習ですって。俺と野良ブスは腹痛で中庭に居るんで来てくださいね」
「あの、仮病はいけませんよ」
「野良ブスのヒロイン補正で、『サポートキャラに相談』コマンドとやらなんだそうで気付かれないそうです。死ぬ程ウザいコマンドだと思うけどな」
そう言えば、2にもそんなコマンドが御座いましたね。ゲーム中では全く違和感を感じませんでしたが、確かに授業中に抜け出すようなタイミングの時にも使えたような。
……結構、そう思い出すと非常識ですね。
そして……行かなければならないのでしょうか。
そして、話は冒頭に戻り……中庭の芝生の上で轟さんのお話を聞いております。
確かに……見回りの先生方に不自然な程、全く見つからないのです。
「初代とリメイクにもだけど轟メアリにも姉が居たんだよ。でもね、『お姉』ってだけ。名前も出て来ない役割だったんだよ。エミリって名前は転生して知ったんだ」
「そうだったんですね……」
確かに、前世で読んだ雑誌情報には……轟さんそっくりのお姉さんが出るなんて書いていなかった気が致します。
「そもそも、お前等転生者って言いますけど、自分の死因とか覚えてるんです?」
「うぇ、それ聞いちゃう!?琴子のドS……」
そうは言いつつも、轟さんは考えを纏めるように首を傾げました。
……大変愛らしい仕草が板に付いておいでですが、モテないと嘆いてらっしゃいましたのはやはりあのオタクトーク、いえ早口……のせいなのでしょうか。
「……自分の死因は覚えてないけど、『事件』の事なら覚えてるよ」
「事件、ですか?先程のゲーム制作会社のお話に出て来た件でしょうか?」
「そうそれだよー!」
「勿体ぶらずに早く言え野良ブス」
「ヒイン!!琴子、声が大きいよお!!」
三和さんに凄まれて若干涙目になりながら、轟さんは話し始めました。
「えっとね、二次元に限らないけど……こう、コンテンツ的に盛り上がったりするとさ、イベント開催したりするじゃん」
「アイドルの握手会とかですか?」
「そうそう!そのノリ!
そんな女神学園轟ッ!!のイベントが開催されることになったんだけど、ミズハさんは知ってるかな?」
イベント……。
確かに、社会現象を巻き起こしたような乙女ゲームでしたら、イベントを開催してもおかしくはありませんね。
あれ?前世の私は……どうしたんでしょうか。
抽選でハズレたにせよ、イベントに興味を持った筈……。ですが、全く記憶に有りません。
グッズに興味を持ったのは……何となく思い出せますのに。
「記憶に、御座いませんね」
「イベントスルーするタイプだったんじゃねーんです?それとも仕事か学校か」
「そ、その可能性も御座いますね」
前世の……以前の生活が思い出しにくい今日この頃ですが、そういう可能性も御座います。
覚えていないだけで、悔しい思いをしたのかもしれません。
ですが、轟さんは首を振られました。
「イベントは……開催されなかったんだよ。4回も行おうとして、全部失敗」
「え?」
催されなかった?失敗?
「……都市伝説に近いんだけど、イベント開催の為に機材を載せたトラックが……人を巻き込んだ大規模な事故を巻き起こしたって……」
「大きな、事故……ですか」
「そりゃあ開催出来っこないですね。その損害賠償で会社が潰れたんじゃねーんですか?」
三和さんのご指摘は……物言いは相変わらず乱暴では有りましたが、有り得るお話です。
「でも、その日……ニュースにはなったんだけど、人が巻き込まれて無いって報道されたの」
「え?先程、人を巻き込んだ大規模な事故だと仰いましたよね?」
「そうなの!!でも、巻き込んだであろう人は、忽然と姿を消したんだって!!」
「……トラックが突っ込んでんですから、血痕とか有ったんじゃねーんですか?其処迄警察もザル捜査しねーでしょ」
轟さんは興奮されておられるようで、少々鼻息荒く、ブンブンと首を振られました。
「それが、無かったんだって!!だから、交差点の真ん中で、自損事故みたいな流れになっちゃったの!で、更におかしいのが……」
「そもそも、運転手が人を轢いた白昼夢でも見たってオチですか?」
「いやいやいんや!それが、ほとぼりが冷めた頃に2回目開催しよーとしたときにも起こってんだって!」
「………2回目!?2回も事故が!?」
「行方不明もね!!」
「そりゃー……普通に怪奇現象でしかねーな」
そんな事が起こりうるのでしょうか。………うすら寒いお話になって参りました。
「そう、2回目は、スクーターで巡回中の婦警さんもその場に居たらしいんだけど、その婦警さんも忽然と姿を消してるんだよ?!」
「轢いてからトラックに隠したんじゃねーんですか?」
「だから、両方血痕はゼロだったんだってば!!TVでバッチリ映ってたもん!!覚えてるもん!!超ブレーキ跡が横断歩道に付いてたの!!」
先程の三和さんのご指摘通り、……トラックの運転手さんが人を轢いた、と記憶違いをした、としか思えませんね。
ですが、その場に居た被害者は消えてしまった?血痕も残さずに?
本当だとしたら……理解不可能なお話です。
「しかもね、どの事故も積み荷が無くなってたんだって」
「イベントの機材がですか?ドサクサで誰かパクったんじゃねーんですか?」
「確かに、もしグッズを積んでいたりしたら……。心無い方が売り払おうと持って行かれるかもしれません。有り得ますね」
「それが、イベント会社の話によると……そのトラックは、女神像を積んでたらしいんだよ!そんなパクれる大きさじゃない、リアルなのを!!何故かガチの石で造ったらしいんだよ!!」
「……石の女神像を?この、乙女ゲームの主題となっている、あの……顔の恐ろしいまでに怖い、女神像の事ですか!?」
そ、それは……誰も持って行かないでしょうね。
そして、リアルな女神像……って。何故それをイベントに使おうとされたのでしょうか。
ファン人気は……低かったように覚えているのですが。
しかし、椎名幸生君やショーン様やティミー様の等身大フィギュアにすればいいのに……何故、頑なに女神像を使おうと思われたんでしょう……。
あ、人選は私の歴代の推しで御座います。
「ふーん。女神像がパクられたのか、女神像がパクったのか……でも、…………でもなきゃ、………の筈」
また、です。
三和さんの話にノイズが聞こえます。
違和感に目を泳がせてしまうと、轟さんも不思議そうに辺りを見回しておられました。
「えっ、何?シャカシャカ言うよ!?どっかスピーカーの故障?」
「野良ブスもかよ。お前はどーでもいーや」
「酷くね!?我ヒロインぞ!?いや何でもないです踏もうとしないで琴子さま!!」
………終了のチャイムが鳴りましたね。
初めて授業をサボってしまいました。怒られるでしょうか。
………至らぬ侍従なので怒られる事はしょっちゅうで御座いますが、聞かずにいたら良かったのにとは思えません。
私はどうやって此処に……転生して来たのでしょう。
新たな謎が生まれてしまったと言うのに、三和さんと轟さんがおられるこの非常時に……少し、安堵を感じてしまうのは、どうしてでしょう。
女神学園なのに女神像の話が漸く出て参りました。




