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悪役令嬢は召された彼を還せない  作者: 宇和マチカ


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轟さんがもうひとり

お読み頂き有難う御座います。

只今、三和さんと商店街に来ております。

車で時たま通る道ですが、意外としっかりと此方を見ながら歩いたことがなくて……目移り致します。わーあんなお店が有るんですね。可愛らしいお洋服を扱ってらっしゃるようです。


「楽しそうですね、街中歩いた事ねーの?」

「し、失礼致しました」


 ……こほん。ちょっと私、おかしいです。 

……私は一体何をしているのでしょう。

いえ、ついミーハー心に負けてしまった私が悪いのです!!分かっておりますけれど!

ですけれど、2の面々が生で見れるチャンスなんですから!!


「あの白い服、お前に合いそうじゃありません?」


 三和さんが指差したショーウインドウには……パフスリーブの白……生成り色でしょうか、ワンピースが飾ってありました。胸元の装飾は控えめですが、スカート部分の切り替えが踝丈位のプリーツになっている上品なワンピースです。……お値段が書いてないのが少々怖いかな、とは思いますが、素敵なお洋服でした。

ただ……ちょっと細身な造りな気が致しますね。うっ、肩とか胸とか、入るかしら……。

 それに、このお色。白い私の髪では……映えないのではないのでしょうか。ぼやっと佇むオバケのようになりそうな予感が致します。


「あの、僭越ながら私の見目で白い服ですと、オバケのようでは御座いませんでしょうか」

「……オバケは白くねーよ」

「え?そうなんですか?」

「そーですよ」


 ……随分断定的ですね。もしかして三和さんは霊感をお持ちなんでしょうか。

ゲームをやっていれば……きっと予備知識が有れば、納得が出来たかもしれません。

きっと、1のプレイヤーならあるあるだったかもしれませんが、サッパリ分かりませんね……。いえ、それが普通の人同士のお付き合いなんですけれど。

 そもそも、三和さんもそうですが私自体がイレギュラーです。設定や予備知識に頼らず交流が出来ている方が良いような、悪いような。

お話合いで得ることの方が宜しいのは分かりますが、少しチートもしてみたかったのです。


 そして、私はワンピースをまじまじと見ました。

このお洋服でしたら、寧ろ……。


「ですが、三和さんの方がお似合い」

「この、俺が何ですか?俺が、何ですって?」


 ……そうでした、男子生徒でした。

うう、つい失言が!!滅茶苦茶空色の瞳で睨んでおられますし!!

だってぱっと見とても繊細な美少女なんですよ、三和さんは!!怖いですけれど!!


「あれえ?ハズレキャラじゃない?何で?何で悪役令嬢と居るの?アンタ本当にバグね、アハハ」


 ……!?

ど、何方ですか?

何だか、可愛らしい声なのに……とても悪意に満ちた声です。

ハズレって、どういうことなんでしょうか。

振り向こうとすると、ぐいっ、と手を引かれました。

 

 え、えええ!?

どうして三和さんが私の手を引いているんですか?


「振り向くな、目が合うと闇堕ちしますよ」

「や、闇お、え!?」

「えー未だ闇堕ちしてないの悪役令嬢、使えなーい」


 三和さんは真顔で何を仰っているんですか?

いえ、後ろの方も相当気になりますけど!!

闇堕ちって……。轟さんに少し伺いましたけれど、そんな予定は有りませんししたくも御座いません!!

 ですが、ご事情をご存じの三和さんは兎も角、この後ろの方は……一体何者なのでしょうか。

振り向くのも許されないのですが、気になります。ですが、振り向いてはいけない気も致します。

ザワザワと周りの通行してらっしゃる方々も、私達を遠巻きにしているようですし。



「もー無視しないで生意気ー。あ、コレってイジメだよね。キャハハ!やっぱりエミリってば選ばれたヒロインだよねー」


 三和さんは無言で私の手をぐいぐいと引いて……足が縺れそうになりました。

ですが後ろからも付いてくる気配が!!

な、何なんでしょう。この状況でも追跡してくる方は!!

おかしい方なのはよく分かりましたけれど!!


「あのね、エミリがメアリなんだけど神様がちょっと間違っちゃってね。エミリがメアリなの。そこ、間違えないでね?精々邪魔してよー?ちゃんと仕事しなよねー。エミリが、メアリなんだから。最早ヒロインで女神に代わっちゃったのが、エミリなの」


 エミリ、と言うのが彼女のお名前なようです。ですが、エミリがメアリ、とは?

……どういう意味でしょう。

仰っている事が荒唐無稽過ぎて、不気味に聞こえます。


「ウゼエ、走るぞミズハ!!」

「は、はいい!!」


 ……とうとう私の手を握ったまま、三和さんは走り出しました。

……ふっ、と振り向くと……。


 華奢な手を白い頬に当て、華奢な足をクロスにして……ポーズを取った、ピンク色の服の女性、でした。

ただ、その茶色とピンクのグラデーションの色の髪に……ピンク色の目をした可愛らしい顔は……。


「ええ!?と、轟さん!?」


 まさしく、この前から寄って来られた、いえお声を掛けて頂いている、轟メアリさんにそっくりです。

轟さんなんですか!?いえ、でも、制服じゃ無いですし……。どうしてあんな、何処かで見たようなお洋服を……。

えっと、あのお洋服、もしかして3のヒロイン、ロージアのお洋服、ですよね?

……現代の商店街でお召しになるには、とても浮いています。


「の、怪人電波お姉ですよ。いいから走れ!!足遅い!!」

「!?」


 か、怪人!?怪人電波お姉って、何ですか!!

いえ、確かに常人とは違う思考の方だと言う事は分かりましたけれど!!

手の力も強いですし、三和さん、足がお速い!!

文句を言う暇もなく、私は三和さんに引っ張られ……全速力で走る羽目に陥りました。




 ……ゼエハア言うのも通り過ぎ、目の前が真っ白になって、ブラックアウトしてしまいそうになったその時、漸く三和さんは止まって下さいました。


「はあ、はあ……」

「ミスった。あの怪人電波に出会うとは。あの電波女、商店街は近寄らない筈だったのに……。ああでも『ゲーム』が始まったから男漁りに来やがったんですね。人の人生無茶苦茶にしておいて……」


独り言のように、三和さんが吐き棄てました。


「ミズハ」

「は、はい」

「俺は……に……て此処に……ですけど、もしかしたら……が何か………じゃないかと思ってます」


 ……あ、またノイズです。

ザラザラと三和さんの言葉を遮っていくノイズが聞こえます。

聞こえないのは、どうしてなのでしょう。彼があんなに必死に言おうとしている言葉だけが消されて行きます。

 どうやら、私が戸惑っているのが分かったのでしょう、三和さんは眉根を寄せておられました。


「チッ、そのツラは聞こえて無いんですね」

「申し訳ありません」

「……まあ、良いです。どの道このふざけたエキセントリック仕様も3月までのお付き合いですし、障害が有った方が燃えるかもしれません」

「も、燃える……?」


 何が一体三和さんを燃やすんでしょう。そんな楽しそうに仰る事でもありましたでしょうか。


「……を……って話です。つかお前、ホントは聞こえてんじゃねーの?難聴ヒロインぶって俺を振り回そうって言うなら其処の川に浸けますよ。あ、……が……て良いかもしれないですね。3月過ぎたらやろう」

「川!?は困ります!!」

「単なる慣用句ですよ、大袈裟な」

「そんな慣用句は存じ上げません!!」


 三和さんが空色の大きな瞳を見開いて、私を見つめています。

はっ!!つ、つい怒鳴ってしまいました!!

ど、どうしましょう!!つい!!


「ふふっ、やっとかミズハ。ちょっとは俺に慣れました?」


 !?

何故笑われるんですか?

もう夕方になるのに、とても眩しいのはどうしてでしょう。か、顔が少し熱くなって来た気が致します。


「そ、そんな恥ずかしい事申し上げました?」

「いーえ。結構ですよ、言いたい事を言えばいーです。幸い、お前の言動は俺にはバッチリ聞こえますしお前の顔も鮮明ですし」

「おおおおおおお顔が近いです!?」


 何故迫って……近寄って来られるんですか!?

先程の壁ドンといい、三和さんのパーソナルスペースは遠すぎやしませんでしょうか!?


「しかし、モブバには行けず仕舞いですね」

「あの方はどう言う方なんでしょうか」

「その説明要ります?出来るだけ人生から締め出したい存在なんですけど」

「避けるにしても、情報が有ると有難いのですが」


 恐る恐る申し出ると、三和さんは小首を傾げ……口の端だけでにやあ、と笑われました。

……い、嫌な予感が致しますね。


「俺から情報を引き出そうってんですか?高いですよ?」

「……き、金品ですか?私、単なる学生の身分ですし、自分で自由に出来る財産が御座いませんので」

「金品は此処に来る前なら与えられ捲ってましたし、此処に来て金銭感覚は狂いましたが、有難い事に困ってねーですよ」


 此処に来る前から?どういうことでしょう。

三和さんには、何か特殊なご事情が?


「顔に出てますね。確かに特殊なご事情持ちですが、多分今喋ってもノイズが掛かりそーなので」

「そう、ですか」

「……に……されて親元から…………されましたけど、ホラ聞こえてねーでしょ」


 折角伝えてくださったのに、確かにノイズだらけでした。


「……聞こえません、申し訳御座いません。

寧ろ余計に気になってしまいましたし、お手間をお掛けしました」

「いーですよ。俺に興味を持ってくれれば何であれ」


 三和さんは、不思議な方です。

怖い初対面で、今だって少し……いえ、結構怖いですのに。

どうしてこの方は私に寄って来られるのでしょう。それも、かなりお近くに……。


「まあ、あの怪人電波の情報は後払いでいいです」

「えっ」

「何?タダで俺にタカろうってんですか?申し訳ねーんですけど、父親の意向で安売りはしない等価交換派なんです」

「お父様の御意向で……ですか」

「はい、お父様の御意向です」


 にっこりと、ですが有無を言わさず三和さんは仰いました。

そして、私は『後払い』の件に頷かざるを得ないので御座いました……。

金品ではなく、過大請求もしない、と仰ってはくださいましたが……ふ、不安で御座います。

 ああ、浅はかでしょうか、早まったでしょうか。

ですが、今更いいですとも言えない空気で御座います。三和さんの機嫌が物凄く上向きになっておられますし。


「では、3月をお楽しみにした所で……あの怪人電波女のフルネームは轟エミリ。性格は見ての通り話が通じない電波女です」

「……それは、何となく分かります」


 あの一時だけでも、全く他を顧みず、一方的にお喋りしておられました。

通行人の方々が奇異な目で見ても、私が戸惑っていても、三和さんが無視しても……。


「歳はアレで二十歳。見えないでしょーけど」

「そ、そうですか……。轟さんとそっくりですね」


 姉妹ですから当たり前なのかもしれませんが、少し見ただけでも良く似ておいででした。

ですが、アレで成人済み……ですか。


「アレと比べたら路傍の野良ブスですらマシですけどね」


 と、轟さんにまで散々ですね……。いえ、元からでいらっしゃいましたね。


「因みに、その電波加減で当時1年生だった『ムッツリ瓦版屋』の浅茅和を登校拒否に追い込みました」

「……!?」


 と、登校拒否!?

あの、轟さんの……お姉さんが!?

お会いした事は有りませんが、浅茅先輩を登校拒否に追い込んだって……ど、どうして。


「そのお陰で奴は人嫌いの引き籠りになった訳です」

「轟さんのメモに有った……浅茅先輩の情報と繋がりました。

顔が広いのに、人前に出るのが苦手、との事でしたが……」

「あのキンキン声であの電波調子の知らねえ先輩に毎日付き纏われて、病まないメンタルは少数派。結構3年では有名なお話だそーですよ。因みにエミリが卒業したら治ったそーですけど、傷は深いみたいです」


……どうやら、もうひとりの轟さん……エミリさんは、かなりの方の様です。




メアリを憔悴させ周りを困らせる電波お姉こと、傍迷惑な轟エミリさんが追加されました。


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