第6夜 団地
3人の立つ中庭にはかすかに霧が立ち込めている。
夏だというのに、漂う空気は肌寒い。
振り返ると、今通ってきたはずのトンネルはいつの間にか失くなっていた。
団地の中庭、端貯水槽の横には電灯があり、エントランスの電灯と共に薄暗く光っている。
部屋の窓に灯りは無いが、全体的に生活感がある為、人が住んでいる様子が窺える。
「…ここは一体どこなんだ!?」
彩香が不安そうに2人に向き合う。
「団地…だよね?多分。
天海ヶ丘の近くに集合住宅は無いはずだけど…。」
明里が自問自答しながら呟く。
「とにかく一旦状況を整理しよう…
ついさっきまでうちらは天海ヶ丘で流星群を見てたよね?」
笑実が珍しく真剣な表情で確認し、明里が続く。
「そしてしばらく眺めていたら、月が赤いことに気付いた。
皆で時間を確認して…
遅くなっちゃったから帰ろうってことになって、トンネルをくぐった。」
「そしたらこの団地に出た…。」
彩香は複雑な表情を浮かべている。
『……………』
3人の間に沈黙が流れる。
突然明里が何かを決意したかのように2人の手を取った。
「とにかくここを出よう!
何でこんな状況になってるのかはわからないけど、立ち止まってても仕方ないよ!」
彩香と笑実が頷く。
「そうだな、とりあえず出てから考えるか!」
彩香は相変わらず不安そうにしているが、僅かに表情が明るくなる。
「そうだね〜、とりあえず出口を探そっか!てか、そもそもどこの街なんだろ?」
笑実がスマホを取り出し、位置情報を確認した。
「えっ、圏外なんだけど…
位置情報も確認できないし…何ここ異世界!?」
明里と彩香もスマホを取り出すが、結果は変わらない。
「異世界物はもういいっつーの!!」
先程よりは多少余裕が出てきた彩香がふざけるように毒吐く。
明里は現状を無理矢理飲み込み、出口を探している。
「普通こうゆう建物ってエントランス付近に出入り口があるはずだよね?
とりあえずあの先へ行ってみよう!」
明里が建物の向こう側を指差し、3人は歩き出した。
この中庭は背高いフェンスに囲まれていて、端の方には貯水槽がある。
建物のエントランスには各部屋のポストがずらりと並び、その横にはガラス張りのドア。
そこを横目に通り過ぎてエントランスの外に出ると、右手に滑り台やブランコ、それとパンダのキャラクターの顔が中央に付いているシーソーがあり、小さな公園となっている。
左手には手入れされた草木が所々に置かれていて、これら公園と草木の丁度間に、クネクネとした歩道が伸びている。
そしてその先には大きな門があり、ここが敷地内外の出入り口となっているようだ。
3人がエントランスを通り過ぎ、電灯に照らされた出入り口に気付いて十数分。
いくら進めど、なぜか出入り口に着かない。
「どうなってんだこれ…」
彩香の言葉に不安の色が滲む。
「門はあそこに見えてるのに…
うちらもう10分以上歩いてるよね…?
あの門どれだけゆっくり歩いてもせいぜい4〜5分の距離じゃない?」
笑実の額には冷たい汗が流れる。
「ねえ見て。
暗くて気付かなかったけど、あの時計時間がおかしいよ。」
エントランスと門の中間辺りに位置する大きな時計を指す明里。
「2時…?だってまだ22時過ぎでしょ?」
そう言って彩香がスマホを出すが、やはり画面は22:29を表示している。
ーッ!!
突然笑実が明里と彩香の腕を引き、草木の陰に隠れた。
「痛っ!なんだよえっ、ーッ!」
状況を察した明里が空いている右手で苛立つ彩香の口を塞ぐ。
「しっ!誰か居る。」
3人が草木の陰から、今来た道の方を見やると…
住人だろうか?
エントランスに誰かが立っていた。