表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
5/82

第4夜 友 





ー20:45 陽神(ひがみ)神社付近の林道






「しっかし、明里(あかり)ん家の神社はいつ来てもバカでかいよなー。

東京ドームぐらいあんじゃないの?」

天体観測に向かう道中、今夜の目的地である天海ヶ(あまみがおか)の現状をSNSで確認していた彩香(さやか)が、スマホをしまいながらいたずらな顔をして言った。



「本当だよね〜、全国でも5本指ぐらいに入るんじゃない?

しかも神社の巫女さんって、なんか憧れるなぁ〜。」

笑実(えみ)も羨望が含んだ同意をする。



明里(あかり)はクスクスと笑いながら小さく手を振り、謙遜するように否定した。

彩香(さやか)うち来るといっつも言うよね。

調べたことないなー…けど、そんなには大きくはないと思うよ。

私も物心ついた時には家が神社なのは当たり前だったから詳しいことはあまりわからないけれど、何百年も前のご先祖様からずーっと受け継いできてるらしいから建物自体は修繕だらけで古いし、広い分掃除とか結構大変だよ?」



少し考える様子の笑実(えみ)

「そうだよね〜、県外からもたくさん人来てるし…

お正月とかやばそう…。」



明里(あかり)がゆっくり頷く。

「お正月はてんてこまいだから、アルバイトの巫女さんとかにお手伝いしてもらってるけど…ってかもう高校生になったし、笑実(えみ)彩香(さやか)も来年の三が日手伝ってよ!」



「おっ、いいね〜!

巫女さんコスできるし、うちやっちゃおうかな〜!」


「じゃあ、あたしは参拝がてら2人の邪魔しに行ってやるよ!」



「えー!彩香(さやか)も手伝ってよー!」



3人が他愛の無い談笑をしつつ歩いていると、徐々に潮の香りを感じるようになってきた。

先の方ではちらほらとスマホの光が見えている。


どうやら天海ヶ(あまみがおか)に着いたようだ。



「ひゃー、やっぱ人多いねー!

天海ヶ(あまみがおか)がスマホの光で明るくなってるよ。」

彩香(さやか)が嫌味を込めながら笑う。



「天海ヶ(あまみがおか)だから暗いと思ってスッピンで来たのにぃ〜!

これじゃあ顔見えちゃうじゃん!」

眉をハの字にしながら困っている笑実(えみ)を、すかさず明里(あかり)がフォローする。


笑実(えみ)は可愛いから大丈夫よ…あっ、流れ星!」



天海ヶ(あまみがおか)に集まった人々から歓声とスマホのシャッター音が巻き起こる。


「わー、すごい!

ねえねえ2人とも、早く"あの場所"に移動しよう!」

夜空を見上げながら明里(あかり)が急かす。


「ここはカシャカシャうるさいし、明るいし…

早いとこ行くか!」

と、彩香(さやか)


「そ〜だね〜。じゃあ一旦ぐるっと回って…」

笑実(えみ)が転落防止の柵の方を見て"あの場所"への道を確認した後、3人は空を見上げながら足早に歩き出した。




天海ヶ(あまみがおか)は海に面した崖の上にあり、広大な敷地面積を有している。

灯りの類いはほとんど無い為、今夜のようにテクノロジーの恩恵が無ければ天体観測には非常に適した場所だ。


近年はSNSの普及によって天海ヶ丘の天体観測はこの地域の大人気イベントになっている。


明里(あかり)達が言う"あの場所"とは地元民すら知る者が少ない、丘と海の中腹に出っ張る小さな崖のような自然の足場を指す。


転落防止の柵をぐるっと回り、海を目指すように道無き道を下っていく途中、壁面から草木が自生している場所がある。


その何箇所かにすだれのようになっている草木があり、手前から3つ目のすだれを掻き分けると、大人1人がようやく通れるぐらいの自然のトンネルがある。


トンネル内は長く、傾斜になっている為、光はほとんど入らない。

非常に見つけにくいこの入り口を、仮に誰かが見つけたとしてもわざわざ入ることはしないだろう。



明里(あかり)達が幼少の頃、天海ヶ(あまみがおか)で遊んでいる時に、おてんばな彩香(さやか)が蛇を追いかけ回すという危険な遊びをしていた。


子供の好奇心とは底が知れないもので、彩香(さやか)がアオダイショウを無我夢中で追いかけた末トンネルへ入り、先の足場から海へ落下しかけたところを明里(あかり)笑実(えみ)が既の(すんでのところ)で助けだした。


それ以来"あの場所"は、3人の隠れ家的スポットとなっている。



昔の記憶が頭をよぎりながら明里(あかり)がトンネル内を進んでいくと、ようやく開けた場所に出た。

後ろから彩香(さやか)笑実(えみ)が順番に出てくる。



そこには満点の星空と、月明かりに照らされた水平線が広がっている。



まさに絶景だ。



眼前に広がる星空と夜の深みを増した海を眺めながら、明里(あかり)がポツリポツリと語り出した。



「子供の頃ね、このトンネルをくぐると別の世界へ行っちゃうんじゃないかっていつも不安だったの。

今はあの頃より大人になってここに来る機会も減ったけど、今日もやっぱり不安に思った。

でもね、こうして目の前に広がる空と海を見ると、いつも微妙に景色が違ってるんだよね。

星が見える日見えない日、波が高い日や静かな日…

実はいつも微妙に違った景色を見てる私達はその度に違う世界に来てたんだなーって思うの。

今日はたくさんの星が流れてるし…

あっ、また流れ星!

友達や家族がずーっと幸せでありますように、友達や家族がずーっ…あーっ間に合わないよ!!」


彩香(さやか)笑実(えみ)が笑いながら明里(あかり)を抱きしめる。


「ほんっっと、お前は可愛いなー!

あたしのお嫁さんにしてやる!!」

彩香(さやか)明里(あかり)の頬に軽くキスをした。


「そうだね〜。

同じ日が2度と来ないように同じ景色も2度とは見れないもんね。

だから毎日を大切に生きるんだ。

それに気付けただけでもうちらは幸せだよね〜。

でもそんなことより、明里(あかり)が可愛すぎるからそれだけでうちらはいつまでも幸せだよ〜。

今日は流星群にお願い全部言って、皆でもーっと幸せになろ〜!」

笑実(えみ)明里(あかり)の頬を人差し指でつつく。


サンドウィッチ状態の明里(あかり)は苦しそうにもがいてる。


「んーっ、暑いよー!苦しいよー!離してぇっ!

(けど、なんだか温かいなぁ…)」



3人は明里(あかり)が持ってきたレジャーシートに寄り添いながら座っている。


そして初夏の暑さを忘れているかのように寄り添い、いつまでもいつまでも、流れる星空を見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ