荒事
男のひとりが馬車に乗り込み、中に居る者の姿を確認する。
「確かに商人とメイドっぽいのしか居ないな。お嬢様が変装してるって訳でもなさそうだ」
ひとりひとりを見て回ると、男は馬車を降りた。
「確かにお嬢様は乗ってない。途中で降りたか、別の馬車に乗ったかじゃないですかね?」
報告を受けると、男は一言「ふむ」と言っただけで黙り込んだ。
目的を達成できず、男達に同様が広がる。
「いいかい、お目当ての娘とやらは居なかったんだ。きっちり迷惑料払ってもらおうか!」
シャリッサはお構い無しに男達を怒鳴りつける。
「いくらだ?」
男は不満そうに答える。
「ちっと安くしておいてやる。アタシらと、商人さんと御者さんの分、合わせて銀貨30枚で許してやるよ」
「ふざけるな!」
「ふざけてるのはどっちだい? 先にいくらかと聞かなかったそっちが悪いんだろ? 女だと思って見くびるんじゃないよ!」
威嚇するシャリッサに苛立った男たちは、剣に手をかける。
「なんだい、やる気かい? それを抜いたらあんた達の命の保障は無いよ」
「にぃゃあぁぁぁぁぁぁ」
コルネッテが毛を逆立て、シャリッサの言葉に合わせるように鳴いた。
その声で、男たちは一瞬で恐慌状態に陥る。
手が震え、体が言う事を利かず、何人かは落馬した。
「なんだ! 何が起こった」
リーダーらしき男は、正常な精神を保ったが、周囲の出来事に動揺する。
「さあ、金を置いて帰るか、戦うかはっきりしな! ……って、あたしゃ追いはぎみたいな事言ってるね」
シャリッサは苦笑した。
馬車の中から商人たちの笑い声が聞こえてくる。
男は馬に縛り付けてあった袋の紐を解き、手に取ると、シャリッサに向けて投げた。
「それで持ち合わせは全部だ。すまなかった……行ってくれ」
ガックリと肩を落として男は馬首を返す。
そして、落馬した仲間の様子を伺う。
袋の中身を覗き込んだシャリッサは、中から銀貨を30枚数えて取り出すと、残りが入った袋を男に投げ返した。
「きっちり頂いたよ。仲間の面倒、ちゃんと見るんだよ」
そう言うと、シャリッサは馬車の中に引っ込む。
御者はそれを見届けると、馬車を動かした。