テニレール商会との合流
曲がった道の先は木々や茂みで見通しが悪かった。
馬上からレイモスがピュイーと器用に指笛を鳴らす。体を強張らせたまま、私はじっと横座りのまま腰を抱えられていた。
道なりに二度三度曲がって、500メートルほど走っただろうか、不安定な馬上から落ちる前に私は地面の上に立つことが出来た。
いくら腰を支えられていたとはいえ、横座りで馬に乗ったことなんて、メリーゴーランドに乗った時以来だ。つかまる棒と足を置くことができたメリーゴーランドにさえ、最後に乗ったのはいつだったか……
居心地悪く、クラクラした体をごまかし、私はひきつる顔に無理やり笑顔を貼り付ける。
そして目の前に立ち塞がる屈強な男達に明るく声をかけた。彼らの足元に転がる剣とか槍へと目がいってしまうけど、今は見なかったことにする。
「初めまして。お世話になりにきました」
腰低くあいさつをした私を無視して、ごつい男達は水色髪のレイモスと話し始めた。
男達に囲まれた私の頭の上から、「無害」とか「あやしい」とか「非力」とかディスられてるとしか思えない単語が所々聞こえてくる。しかし、この人達から離れたら街にたどり着くのが難しくなることはよく分かっているので、私はじっと心静かに待つしかなかった。
話が終わると、レイモスは私を連れて、頑丈そうな作りをした立派な馬車の前へと来た。
(ここって、どんな世界なのかしら。あー、早く検索して調べたい)
レイモスはまた他の人と話をしている。
私がキョロキョロと辺りをうかがっていると、馬車の扉が開き、従者らしき人と共に赤茶色の髪をした女の子が降りてきた。17、8歳ってところか。
落ち着いたエンジ色でありながら、他の人と違うと一目で分かる高級そうな生地で仕立てた服を身に付けている。つやのある髪は手の込んだ編み込まれた髪型をしている。心持ち上がったあごと心の奥底まで見透かしそうな強い視線。人に指図することに慣れた言葉。
私でも分かる。若いが偉い立場にいる人物に違いない。
護衛騎士なんて人がいる世界なのだから、護衛される側の人もいるはずである。
私は頭を下げた。とりあえず60度でいいか。
この世界の挨拶の仕方が分からないのだから、他にしようが無い。
「顔をあげなさい。私はこのテニレール商隊の代表、テニレール商会代表代理、マイカレッティ・テニレールですわ。お前がレイモス様が連れて来たという迷子ね。名前は?」
「ミーチェ・モーリーと申します。いきなり不躾なお願いとなりますが、どうか一緒に街まで連れて行ってください」
「ふーん、見た感じ私達に害を与えることは無さそうね。良いでしょう。下働きの一人として同行を許可します。同行中はこの商隊の指示に従って働くように」
私は頭をブンブン振ってうなずいた。
(やだぁ、この子、かわいい)
思わず頬がゆるんで、にやけてしまいそうだ。
私には、気の強そうな女の子が虚勢をはって指示しているようにしか見えない。ツンツンしたトゲが背中に見えるようだ。
親の代理として働いているってところであろう。
若いって良いね。うん、あなたの頑張る姿見て、私も頑張る。
そのあと、私は下働きの者達が集まる一画へと連れて行かれた。
商会代表代理が乗る馬車と何か大事なものが乗ってそうな荷馬車を中心に商隊は進んだ。この2台の周りにはレイモスと他の護衛騎士や商隊専属らしき護衛がうろついている。
詳しく荷馬車を鑑定すれば中身も分かりそうだが、余計なことは知らない方がいいと判断した私だった。
商隊全体の雑務や食事担当の下働きは、まとめて幌付きの馬車に乗せられている。
(この世界、魔法はあるけど車は無いと。魔法のせいか乗り心地は悪くない。スピードは遅いけどね)
マイカレッティがレイモスを「様付け」したってことは、この世界に身分制度があると考えられる。
幌付き馬車の中にいる者はいわゆる平民であろう。森で突然加わった私をすんなり受け入れたのは、度量というより上の言うことには逆らいませんってことと思われる。まあ、私みたいな小娘が何かやらかしたってたかが知れているって。この世界の人、何だか大きいし。地球人って小柄だったのね。
今日はこのまま野営地まで進んで野宿らしい。
初めての異世界ご飯に期待も膨らむってものよ。
寝る前くらいにはスマホで検索する時間くらいあるだろうとワクワクした私だった。