お笑い担当にはなりたくない
足元だけ見て進むのは危ないことだ。
その結果が今の状態である。
よく分からないところで初めて出会った人物にすがりたいところだけれど、自分にとって安全な人物かどうか確認しなければならない。パッと見、見目麗しい人物である。見惚れてしまいそうだ。
しかし、見てくれで判断してはいけないということくらいは知っている。元アラフィフのおばちゃんですから。
まずは疑う。これが異世界で自分を守るために必要なこと。
「【鑑定】」
馬上の水色の髪の人を見ながら、こっそりと唱える。
(人のプライバシーを暴くようで嫌なんだけど、ごめんなさい。ちょっとだけね)
目の前に馴染んできたウインドウが現れた。あまり知りたくないと思ったせいか、行数は少ない。
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男性
護衛騎士 Lv.20
犯罪歴無し
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こんなに綺麗な人だけれど、男性……異世界の美の基準は高そうである。
ウインドウを見たことで、とりあえず信用しても大丈夫と判断する。騎士だし。そう簡単に悪いことはしないでしょ。
腰にある剣に手をそえて怪訝そうにこっちを見ている彼にとって、私は信用できないと思うけど。
「あのー、私、怪しい者でも盗賊でも犯罪者でもないです。ここが薬草の採取に向いている場所って聞いて、夢中で採っていたら迷子になってしまいまして」
私は両手を挙げ、立ち上がった。無害な小娘ですよアピールである。たぶん、このポーズはどこの国でも共通と思う。
彼の視線が私の頭のてっぺんから足の先まで移動するのを感じる。普通に考えたら私は怪しいものね。
再び両手を挙げたまま一歩近づこうとして、私は小石につまずき、転んだ。
――ビタン
絵に描けそうな情けない姿で私は地面に倒れた。かろうじて手の方が速く地面に付いたので、顔面の強打は避けられたが、鼻はしっかりと土の匂いをかいでいる。恥ずかしくて動けない。
馬から素早く青い髪の彼が飛び降りたのが音で分かった。
彼は私の側に膝をついたようだった。
「………くっくっ………」
倒れ伏し固まって動けない私の頭上から抑えた声が漏れ落ちてくる。
(あー、私はこの世界でお笑い担当キャラとして生きていくのかしら)
「………お嬢さん、お手を」
笑いをこらえているのが丸わかりなセリフである。
仕方ないとばかりに私はのそりと起き上がって、差し出された手を取り、立ち上がった。彼は私から顔を背け、見ないようにしている。しかし、その肩はまだ小刻みに揺れていた。
「私へのダメージが大きいので、そろそろ笑うことを止めてください」
「失礼いたしました。こんなところに一人でいるので、魔物か盗賊のおとりかとも思いましたが……違いますね」
彼は私を見ないようにしながら、胸元からハンカチのような白い布を取りだした。そして布を手に取り、私の鼻に近づける。
思わず後ろに下がろうとする私の肩を反対の手で押さえ、そのまま布で鼻を拭いた。
「高い鼻が汚れてしまいましたね……」
「あうぅ」
彼は肩をふるわせながら、白い布に土汚れが付いているのを私に見せた。
(なに、このひとー。私の鼻なんて、たいして高くないわよ。異世界人って初めて会った人のことをからかうものなのぉ!?)
私の初異世界人への好感度はすでにマイナスだった。
地球での私の年齢の半分にもならないような男にとられた態度は、私のプライドを大きくキズ付けた。
でも、ここでこの男を無視するわけにはいかない。
不機嫌を隠すこともなく、腕を組んだ私は背の高い彼を下から上へ見上げた。
「汚れを拭き取ってくださり、ありがとうございました。で、私を魔物か盗賊のおとりかもと思ったということは、あなたは斥候ということですよね。お仲間の一番偉い人に会わせてください」
彼の表情が真面目なものになった。
「どんなご用で?」
「迷子になったから、一番近い町まで一緒連れて行って欲しいってお願いするだけよ」
「了解した」
そうい言うなり、今度は私を小脇に抱え、ひらりと馬に乗る。
驚く間もなく彼の前に横座りさせられた。
「名は?」
「ミーチェ・モーリー」
「私はケイシュレクセル・レイモス。行くぞ」
かしこい馬は彼が軽く脇腹を足で合図しただけで、向きを変え、走り出した。
私は他の異世界人と会えるらしい。




