大豆発見
「あの城に近づけなかった仕組みってなんだろう?」
前庭からよく見ようと城の近くに寄ったが、すぐ目の前に城が見えるのに何かに弾かれて近づけなかった。
あれが異世界あるあるの結界というものだろうか?
弾くのは人だけだろうか?
上空からは入れるのだろうか?
自分の家を建てたら、同じ仕組みを取り入れたいと思う。少しでも泥棒や押し売りが近づくリスクが下がるのはありがたい。セコ◯並の有能さがある。
今度ライに会ったら仕組みを聞いてみよう。
城を見て満足した私は宿への帰り道に市場をのぞいていくことにした。
ギュッと人や物が集まっているにぎやかな雑踏を端から端まで気の向くまま歩くのは楽しい。
店先に並ぶ見たことない形の道具や変な色の食べ物につい目がいってしまう。
興味を持ったものを手に取り、持ち主に使い方を聞く。あるいは食べ方を聞いて、異世界コミュニケーションをとっていく。こんなことにもだいぶ慣れてきた。
王都の市場には外国の品も多い。だから私が変な質問をしても異質に思われる感じがしない点で安心だった。
「あ」
つい声が出た。
豆を売る店で大豆を見つけたのだ。乾燥しているのに大きくてツヤツヤしていてとても良い状態に見える。
食事の時のスープに豆は入っていたので、「大豆も売ってないかな〜」と思ってはいたのだ。
市場で味噌と醤油っぽいものは売っていた。しかし、輸入品のせいなのか値段は高いし発酵し過ぎているように感じた。同じく大豆から作られる豆腐も売られていたが硬すぎて私の好みと違かった。私はおぼろ豆腐のようなフワ柔が食べたい。
うれしいことにこの店には塩と麹に加えにがりの取り扱いもあるようだ。
となれば、作るしかないでしょ。私は味噌も豆腐も手作りしたことある元主婦である。
「醤油は作ったことないけど、味噌を作る時にでる黒っぽい汁で代用できそうよね」
私のアイテムボックスは優秀なので、麹は半生タイプを買うことにした。乾燥麹も売っていたが、半生の方が断然風味が良く美味しい味噌になる。私の知っている麹だったらという話だけど。
「カメチャン、塩麹に肉を漬けておくと味が良くなるし、肉が柔らかくなるんだよ」
「おう、姉ちゃん、物知りだな。俺的に塩麹は簡単に作れてオススメだぜ」
目の前でちょんまげのように髪を結ったおじさんがサムズアップしてきた。思わず私もやり返す。
ボディランゲージは私の知るものと同じ使い方のようだ。気分が良い。
元の世界で高級品だった緑大豆と半生麹と塩とにがりを買い込んだ。
和の食材を外国から持ってきて売っているが、あまり売れていなかったらしい。ちょんまげのおじさんはたいそう喜んでくれた。Win-Winってやつである。
(和食の材料を手に入れる。これも異世界あるあるよね)
新たに何かを作ろうとするともちろん自分が知っている材料がまず無い。ないので代用品を探すことも多い。店で扱っていればまだ良いが、自分で採取する必要も出てくる。
ここまでは異世界あるあるで想像していた。
しかし、材料を揃えても、いざ自分の知っているやり方で作るとなると道具も無いし容器も無い。
ハチミツはただ瓶に詰めるだけで済んだ。そのうえハチミツが高級品だから高い瓶を容器として使っても採算がとれた。
味噌は完全に私の個人的調味料になるだろう。ちょんまげのおじさんの店でさえあまり売れていなかったのだ。売れるとは思わない。それでも全く問題はない。自己満足、大いに結構!
ただし、完成までそれなりに時間がかかる味噌造り。早く仕込まなければ。
それに仲良くなった人が出来たなら、自宅に招いて手料理を振る舞うなんてことも悪くないと思う。
慣れた調味料に近いもので、長年作り慣れた料理を振る舞う……彼らは異世界料理に顔をしかめるだろうか。変な顔をしながらも上手いと言ってくれるだろうか。
(ん?! 彼ら? あれ、私、誰を思い浮かべた?)
何はともあれ、そんなことがあるとしてもずっと先のことだ。味噌が美味しく出来上がる頃には夕食を共にする親しい友人がいると良い。
私はブンブンと頭を振って、違うことに思いを馳せたのだった。




