筋肉痛は損傷ではなく疲労として扱われるそうで
あけおめでございます。遅筆ですが、楽しく読んでいただければ幸いです。
「やられた………」
昨日開拓スキルの派生能力として【怪力】を使ったせいで、一晩経った私の体は筋肉痛となっていた。
パンパンに張った腕は上がらず、さらに首から背中にかけても思うように動かせない。動かすとメキメキと激しい筋肉痛が襲いかかる。
(自分でも驚くくらい力を使えたからなぁ)
やっとの思いで3階の部屋から1階の食堂にやっては来たものの、朝食のトレーをもってテーブルに着くことにこんなにも苦労するとは。
(足は何ともないのよ。足は)
それ以外の上半身ががすべてダメになっている。力が入らない。
そんな私を見てカレンが声をかけてきた。
「あらまぁ、ミーチェちゃん、何かしたの?」
「いやっ、その。昨日ちょっと頑張り過ぎて筋肉痛なんです」
「何しているんだか。普段、運動不足ってことね。体を動かしていればそのうち治るわよ」
笑うしかない。
男並みに大鍋を持ち上げ、これでもかとフライパンを振るカレンには筋肉痛なんて縁遠いであろう。そこまで腕は太くなさそうなのに、現役アスリートと言っても良いくらいの身体能力はありそうだ。
なんとか朝食は美味しくいただいて、今日の予定を考える。
(コンクリートの基礎が乾くのを待たなくちゃならないし、この体では力を使うことは無理だから。うん、観光しよう)
せっかくこの国一番の賑わいをもつ王都にいるのに、私はまだろくに観光をしていなかった。町探検レベルで歩き回っただけである。必要なところで必要なものを手に入れていただけだ。
評判の大きな庭園にも何でも売っているという大きな市場にも、本当に王様が住んでいるという城にも、ものすごい蔵書量を誇るという図書館にも行ったことがない。
唯一行った有名な場所は5バツ様が祭られている白いドームだけである。
「ミーチェちゃん、自作のポーションもっているんでしょ。飲めば筋肉痛が治るわよ」
「ほぇ?!」
なんなのその情報。そんなに簡単に治るのか。いわゆるポーションと通常呼ばれるもので元通りになるのは体力と疲労と言われる。なぜか筋肉痛は疲労の一種と解釈されるそうだ。魔力は魔力回復ポーションで元通りになる。
筋肉痛は筋肉にキズがついているから治癒のポーションでしか治らないと私は思っていた。
残念ながら私はまだ治癒のポーションの作り方を知らない。家作りの工程でケガをするかもしれないことを考えると早めに錬成陣を手に入れた方がいいであろう。
私は食堂の隅でコソッとアイテムボックスからポーションを出して飲み干した。
「わー、本当に効いたわ。動ける動ける」
手と肩が思ったように痛みも無く簡単に動くのがうれしい。カメチャンに向かって呟いた私は、そのまま笑顔となって外出したのだった。
筋肉痛は治ったけれど、今日はこのまま休養日とすることにした。
気の向くまま、大通りに出て城へと向かう。日当たりがよく手入れされた前庭が開放されていて、その奥に遠目ながら城の全景を見ることができるそうだ。シンデレラ城の様なのか美女と野獣の城の様なのか、それともノイバンシュタイン城の様なのか、私の期待は大きく膨らむ。
相変わらず、歩いて行くとカメチャン連れなので目立つ。しかし、今では皆の温かい目がありがたい。カメチャンはすっかりこの辺りのアイドルと化している。拝む老人さえいる。聖獣ということもしっかりと広まっている。私達をいやらしい眼で見るものはとりあえず見当たらない。
さすが王都というだけあって、人は多く、店も色々ある。行き交う人の目は活力があり、力強い。食べ物をはじめ、地方から色々な産物も運ばれてきているのだから活気があるのは当たり前とも言える。うらびれた鉱山街タンタールとは違かった。
王都を見ているかぎり、この国は栄えていると言って良いだろう。隣国との戦争もとりあえず起きていない。魔物の大量発生も無い。人が欲のままに自然破壊したり、動植物を滅ぼす程の力も無い。まだまだ文化や文明の発達する伸びしろは十分ありそうだ。
(だからこそ、5バツ様は私のこの世界に無い知識を広めて欲しいのかな)
家は単に私の趣味の延長で作るものだ。性能が高いコンクリートやこれから作るつもりの透明度の高いガラスは私の自己満足のお楽しみである。それなりに試行錯誤しているが、完成品となるまでは時間がかかる。この手間を再び誰かに手間をかけて伝えるほどの余力は私にはない。5バツ様には謝るしか無い。
けれど料理に関しては美味しい食事が増えて、バリエーション豊かになるのは私的に大歓迎なので、この世界では初となるレシピは公開するつもりである。まあ、私が作れるのは家庭料理なのだが、さんざん家庭料理は作ってきた。手間にもならない。この世界の優秀な料理人がより良いレシピにしてくれることを願うばかりだ。
王都の奥へ向かっていけば、城の前庭が見えてきた。レンガで出来た壁の一部が中が見える細い鉄柵となっている。一見、簡単に入れそうにも見える鉄柵だが、絶対違うであろう。「触れるな危険」と書いた札が所々に付いている。魔法と錬金術がある世界である、きっととんでもない目に合う罠が仕掛けてあるに違いない。
私達は素直に城の開放された前庭の入口を目指して歩いたのだった。




