花火ってキレイ
空が暗くなる前に、魔法を使えない者たちはタンタールの町役場前広場に戻っていった。
私をはじめ、残りの者たちで打ち上げの最終打ち合わせをする。
布で頭と顔の下半分を覆って、円陣に集まった。
「最初にライが一人で花火を打ち上げます。次にライは起爆の火薬に火だけ付けるので発射された花火を空高く風魔法使いさんが打ち上げてください。その次は火魔法使いさんが火を付けてライが空へ打ち上げます。慣れたらライ抜きで打ち上げましょう。カメチャンは花火を囲む結界を張ってね。水魔法使いさんは下に火の粉が降ってくるので、私達が熱くないように消火してください。まあ、ライがいるので何かあってもフォローは万全です」
「で、お前は何するんだ?」
「監督です。うーん、総合プロデューサーって感じです。打ち上げのタイミングの合図をして、全体の指示を出します。タンタールの皆さんはちゃんと花火大会の流れと打ち上げの仕方を覚えてくださいね。今回しか私とライは居ないんですから」
「「「こんなの初めてなのに俺らに出来るのか?」」」
「出来ますって!」
私はそばにいた親父の一人の背中をバシンと叩いた。
「さあ、始めますよ!」
◇◇◇
今日の月はとても細くて地平線近くにある。頭の上に広がる夜空は濃くて深い藍色で、小さくてキラキラした星が瞬いていた。タンタールの町の一角につながる山は真っ暗な壁となってそびえ立っていた。
風は弱く、湿気も少なくて夕涼みにぴったりの気候だ。
屋台の食べ物のいい匂いと威勢のいい呼び声に誘われて多くの人が広場に集まる。皆がいい感じに飲み食いしてリラックスした頃に町の鐘が10回鳴り響いた。
――カランカランカランカランカランカランカランカランカランカラン
広場の灯が最低限を残しておとされる。
ヒュー ポン バン ヒュー ポンポン バンバン
ヒュー ポンポン バンバン ボン バンバン ヒュ- ドカン バンバン
ドカン バン ドカン
花火の打ち上げが始まった。テンポ良く行かないのは初めてなのだから仕方ない。むしろ風情があっていい感じだ。
真っ暗な壁のようなタンタル山の中腹から何かが上がって、夜空に色の付いた光る大きな花が広がる。
「わぁ」
「きれい」
思わず出たといった感嘆の声が広場のあちこちから漏れ聞こえる。
その頃のタンタル山の打ち上げ場所は戦場であった。
大砲はこの世界にあったので、今回はそれを利用して花火玉の打ち上げである。爆弾の代わりに花火玉を使うのだ。そうすることで魔法はそれほど使わなくてすむ。
起爆薬の火薬の香りが辺りに漂う。錬金術を使ったほの暗い灯の中で、私と魔法使い達は動き回った。
「少し打ち上げの間隔をあけまーす。今のうちに魔力回復ポーションいる人、手をあげて。体力回復の方がいい人、あ、今持って行くわ」
20発も花火を打ち上げれば、皆コツを掴んだ。
魔法は魔素を動かすことで発揮されるので、皆して手や腕を動かしている姿は音楽の指揮者のようだった。なので魔力も使うが、体力も使う。
「町の人たち喜んでいるかな? 真下で見ていてもきれいだもんね」
「きっと驚いているって」
「口開けっぱなしで見ているかも知れん」
落ちてくる花火の燃えかすや灰で私達は薄汚れていた。こすった手や額は黒い。
水魔法でやけどするほど熱くなくなっているとはいえ、辺りは蒸し暑い。
隅に置かれている花火玉はどんどん減っていった。私は大砲の筒の側に花火玉を運び続ける。
「さあ、あと残り少しです。10連発しますよ。リズムよく、手早くお願いします」
ヒュー ポンバンポンバン ヒューポンポン ババンバンポンバンポンバン ヒューポンポンババンバン
「ラストー。巨大玉でぇす」
これは大きすぎて大砲の筒に入らないのでライが直接火と風の魔法を使って打ち上げた。
「「行っけぇ」」
「げぎょ」
皆して首が痛くなるのも忘れて真上の空を見上げる。
ポン ドッカーン
煙が漂う濃い藍色の空に金色でキラキラの大きなしだれ柳が現れた。元の世界で見たことがあるように立派なものだった。思い切りアルミニウムの粉を使ったかいがある。
「「「「「おぉお」」」」」
大成功である。絶対にこれから花火はこの街の名物になると確信できる。
「ん? え、やだ。熱っ」
見入りすぎた。水魔法使いが降ってくる火の粉の消火をし忘れた。皆で逃げ回るが熱い。ライは早々花火の真下から離れていた。
「【氷結】」
ジュッと小さな音が辺り一面でしたと思ったらあっという間に涼しくなった。
レイモスの登場である。
「ありがとう。助かったぁ。最後に火事になるところだったわ」
「最後に気を抜いてはいけないな。ライ殿なら直ぐに消せたんじゃないか?」
「レイモスさんが居るのはわかってましたし、多少は火の粉の危険性も知っておかなくちゃいけませんからね。わざと直ぐに消さなかったんですよ」
レイモスはこっちの様子も見に来たらしい。
「花火、見ました?」
「ああ、きれいだった。王都、いや、国中で噂の的になるな」
「それならタンタールの花火職人は仕事に困りませんね。国中に広まれば色んな種類の花火も生まれるだろうし、先が楽しみです」
「ミーチェ・モーリーの名もまた広まるぞ」
「ん。また? いやいや私一人では花火は作れないし、打ち上げも出来ないんで。そんなことないですって」
レイモスはゆっくり首を振るのだった。




