打ち上げまであと少し
100発の花火玉が出来たので親父達は仕事休みとした。花火大会当日に働いてもらうので前倒しの休日である。
私は一人、朝からずっと町役場前の広場からタンタル山を見てうなっていた。
山はしっかりと見えるから、山で花火を打ち上げれば広場から見える。打ち上げ角度と場所、観客席をどう配置するかを考えて何度も山と空と広場を見ては和紙に書き付けた。
昼食はリンゴっぽい果物をかじってすませた。
レイアウトを何とか完成させて、午後は打ち上げのタイムスケジュールを考える。
もう時間がないが、花火大会を誰も知らない世界なので、私が考えるしかない。だけど、すでに頭を使いすぎて爆発しそうだ。
「ミーチェ・モーリー。久しぶりだな」
フルネームで私を呼ぶのはこの世界に一人しかいない。慌てて頭を上げると、レイモスが側に立っていた。
気配察知スキルが反応しないほど集中していたようだ。害なしと判断したのかカメチャンも静かだった。
「え? あれ? なんでここに? レイモス様って王都の所属ですよね」
「この町に呼ばれて来た。大砲の弾のようなものを空に打ち上げるから、万が一火の粉が降り注ぐときには氷魔法で消し止めるようにと言われている。貴方がこの町に来ているとは聞いていたが、これに関わっているとはな」
私の目の前でレイモスは飴玉入っている小瓶を揺らして置いた。お土産らしい。
疲れた脳みそには甘さがうれしい。ありがたく頂く。
「わー、甘い」
砂糖はこの世界では高級品だ。久しぶりの甘さが体に染み渡る。
私はレイモスの意見を取り入れてスケジュールを練り上げた。警備の下準備として会場の見回り途中だった彼にそれほど時間を割いてもらうわけにはいかない。
「相談に乗ってくれて助かりました。ありがとうございます。完成次第、役場の警備隊に打ち合わせに行きますね」
うんとレイモスはうなずいた。
それから私達は別れ、それぞれの仕事を再開したのだった。
日がとっくに暮れた頃にやっと、役場の花火担当者、王都からの助っ人も含めた警備隊、ヒメ、ライ、私による会場のレイアウトとタイムスケジュールの打ち合わせが終わった。
「み、んな、明日もがんばりましょう、ね」
ヒメの大きなかけ声で解散となった。ウィンクにクラッとしたのは私だけではないと思う。
◇◇◇
翌日、朝から街のあちこちにカメチャンを連れ歩く私はここでもだいぶ目立つようだった。
ヒメによってしっかりと花火大会は周知されていたようで、あちこちから「楽しみにしている」と声をかけられる。
期待されるなんて久しぶりすぎて、震えてくる。お金も人も時間もかかっているから、もちろん失敗はできない。しかしワクワクもするのだった。
町役場前広場を囲むように昼には幾つもの屋台が並び始めた。中央には警備隊達が木で出来たベンチのような長いすを並べていく。椅子だけでは足らないので、敷物も敷かれた。
見ているだけでワクワクが増していくが、見ているだけという訳にもいかない。私にはまだ仕事がある。
屋台で昼食を多めに買い込み、いつもの花火玉を作る作業小屋へと向かった。
「はーい、みんな、集合してください。これを食べながら話を聞いてくださいね」
小屋の中で私とカメチャンを取り囲むように親父達が座った。私と親父達のあいだに買い込んだ食べ物を並べる。肉を焼いたもの各種、エビを甘辛く炒めたもの、煮込みと野菜炒めに焼きそばもどき、スパイシーなよくわからないものなど屋台のメニューもお祭りのようににぎやかだ。
皆して「はー」とか「へー」とか「酒が欲しいな」とか言いながら食べていく。
「お酒を飲むのは打ち上げが終了してからですよ。食べたらタンタル山の打ち上げ場所へ花火玉を持って移動します。みんなで整地をします。夕方になったら火と風と水魔法が使える人だけ残って、それ以外の人は広場に戻ってください。鐘係は打ち上げ時間になったら町の教会の鐘をカンカンカンと10回打ち鳴らしてくださいね。残りの人は広場の灯をできるだけ落としてください。暗い方が花火がよく見えますから。花火係にはあとで詳しく説明します。花火の打ち上げが終わったら再び灯をつけてください。暗いときに騒ぐ人や悪いことをする人に関しては警備隊に任せてあります。広場の方でわからないことが起きたらヒメに指示を仰いでください。あ、花火の方は私に聞いてくださいね」
「終わりってどうしてわかる?」
「たぶん絶対わかります。ふっふっふ、絶対にね。さあ、今のうちにしっかり食べておきましょう」
夕ご飯は遅くなるので今のうちに食べておく。今日もお弁当持ちが多い。みんな愛されているね。
(食べ物が残ったら私のアイテムボックスに入れておこうっと)
食べ終わると皆、気が急くのかタンタル山へと直ぐに向かった。朝から準備されていた花火玉などの荷物は力持ちな親父達が持ってくれるので楽ちんだ。
ライに調べておいてもらった場所に着くや私は動き出す。以前に自分の土地でしたことを再びするのだ。
「斧の扱い上手になあれ」
開拓スキル発動である。こそっとアイテムボックスから斧を取り出し、邪魔な木の根元近くにグルッと印をつける。そして木の上部を【収納】、続けて下部も【収納】。続けて【整地】と唱え地面をポンポンと叩く。
それほど広い場所はいらないので1時間もしないで打ち上げ場所が確保できた。火の粉がかかると危ないので、念のため打ち上げ場所の周りの草を親父達に刈り込んでもらう。
私は少々疲れたので魔力回復ポーションをアイテムボックスから出してゴクリと飲んだ。
気がつけば皆がポカンと口を開け、私を見ている。
「あ、魔力回復ポーション、みんなの分もたっぷりあるからね」
額に手を当て、皆が違うとばかりに首を振る。
「やり過ぎで見せすぎだ」
ライが私の頭をポンポンとした。これらがレアスキルということを思い出す。でも私は魔法は使えないから、まあいいとしよう。
打ち上げまであともう少し。日が暮れ始めた頃のことだった。
思っていたより花火の話が長くなっています。あともう一話お付き合いください。




