花火を作ってみた
元の世界では炎色反応は中学生でも知っていることだ。それを利用した花火がこの世界に無かったことにちょっと驚いた。
花火って見るだけで気分が上がるのに、知らないとはなんてもったいない。是非とも、この世界の人に見せてあげなければ。
妙な使命感に目覚めた私は少ない知識を使って花火を打ち上げるための努力を開始したのだった。
「火薬と金属の粉をまとめた玉が星よ。星が集まった大きな玉が花火玉。だから燃えやすい紙を使って玉を作らなくちゃいけないの。それなのに何で紙が高いのよぉ」
確かにこの世界で紙を見たのは土地を買った時の証書と蜂蜜の瓶に貼ったラベルだけだった。高いものにしか使われていない。後は羊皮紙だった。
これは自分で紙を作るしかない。どうせ燃えちゃうんだから、そこまで質の良いものはいらない。そう、手すき和紙レベルのものが出来れば良いのだ。
「鑑定で紙に出来る植物を探して手すき和紙を作れば良いのよ。手すきする枠を手に入れなくちゃ。ざるは存在するから、職人に四角いざるを作ってもらえば良いわよね。本はあるんだから糊もあるはず……」
「あ、らぁ。なんだか思ったより大変そうね。鉱山の管理長とタンタール町長に許可は取れたわよ。ねぇ、花火ができあがるまでどのくらい時間がかかるかしら? 打ち上げはいつにす、る?」
「おい、火薬と金属を混ぜるのは俺に丸投げなのか?」
「だって、金属を含む鉱石を粉末にするのも金属を粉末にするのも、ライなら錬金で出来るでしょ。一番良い配合の割合を見つけるのだって誰よりも早く見つけると思うわ」
「ま、まあな」
王宮魔道士はほめられることに慣れているかと思ったら、そうでもなかった。
ほめて伸ばす。これは子育てにおける魔法の呪文である。実際するのって難しいのだけどね。それにタイミングが大事。
誰だってほめられると頑張れる。
「カメチャンもほめられて、こんなに良い亀に育ったんだよね」
「げぎょ」
「何でこんなに人の言葉を理解してんだ?」
「カメチャンが良い亀だからに決まってるでしょ」
いや、そんなわけないとか聞いたことないとか呟かなくていいから。良い意味で新しい事例なら大いに結構でしょ。個性よ、個性。
◇◇◇
私たちは頑張った。
ライは転移陣を『宿屋 熟女のため息』の一角に置くことによって王都とタンタールを行き来することが可能になった。王宮魔導士としての仕事の合間にこっちへ来るのだ。もちろんこっちの仕事もしてもらう。
なんとか花火の打ち上げも仕事の一つとして認めさせたらしい。
忙しそうだから他の魔法使いや錬金術師に手伝ってもらおうとも思ったが、前例のないことをするので知識とかが漏れるのは避けた方が良いとの判断でなしとなった。まあ、火薬を扱っているのに探り探りしている部分が多くて危険だしね。作り方が確立したら公開すればいいでしょ。もっと高度な花火は今後の人達に頑張ってもらう。
私は四角い浅いざるを作ってもらって和紙のようなものをたくさん作った。あまり薄くならないのは仕方がない。
和紙の材料となるこうぞの仲間の植物は鑑定すればあちこちに生えていた。赤く熟した実はもともと食べられていた。紙に使うのは樹皮だ。枯れない程度に剥ぎ取ったので問題ない。
××ペディアのおかげで紙の作り方とかどの金属で何色かもわかったし、ほんと助かっている。大まかにしか書いていないことも多いから、自分たちで手探りな部分もあるけどね。この世界において新しい知識となるならそのくらいは仕方ないと思う。
カメチャンとは結界をはる練習をした。
自分たちを四角く取り囲むものから、前面にはる壁状のもの、自分たち以外を取り囲むことも出来るようになった。重ねてはることも出来る。全部取り囲んでいるけど息は出来る結界なんてのも、どういう理論だかわからないけど、私が言ったことをカメチャンが理解できれば出来るのだ。さすが聖獣様です。
タンタル山の鉱山では鉄鉱石が主に採掘される。そのほかにも少量だがアルミニウムを含む鉱石も採れる。これで白くてキラキラした花火が出来る。炭酸ストロンチウムで赤色、硝酸バリウムで緑色、炭酸カルシウムで黄色。これらの鉱物は集められた金属や鉱石を私が鑑定して選んだ。
ライが割合を確定した火薬と粉末金属鉱石が混ざったものを和紙もどきで包んで星を作る。和紙を重ねていくことでややいびつだが丸くなった。
和紙を重ねて作ったお椀に星を数個詰める。2個を向かい合わせて和紙で包んで玉とした。
何種類か出来たところで、実験である。
「タンタル山で色の確認しましょう」
夕方にタンタールの街から見えない側の斜面へと向かった。
まだ小さい玉だが花火玉が危険なものであることに変わりはない。カメチャンに自分たちの周りに結界をはってもらう。ライは玉を空に向かって高く打ち上げ爆発させた。その瞬間に玉を中心にカメチャンが大きな結界をはる。そうすることで山への影響を無くすのだ。火事も倒木も起きない。安全である。
「おっ」
「良い感じ。きれいね」
「げぎょ」
実験は成功だ。色とりどりの花が夜空に咲いた。いびつなのは仕方ない。単色なのも許して欲しい。
ライはそつなく上空で爆発させていた。カメチャンの結界も安定している。
あとは大きな花火をあげるなら花火玉も大きかったはず。大きい玉を作れば良い。
「本番が楽しみね」
私はカメチャンの頭をなでながら、本番の成功を月に祈った。




