空飛ぶ魔法は後が大変
王宮魔導士ライは文字通り王宮の執務室から飛んできたらしい。以前、私の土地に駆けつけたときは近くの転移陣まで転移してきて、その後森の中を走ってきていたそうだ。
飛ぶには複数の魔法を同時に使うので、今回ライはめちゃめちゃ魔力を使ってしまったのだ。そのため疲れているし、気分も悪そうに見える。とても飛んで帰れそうにない。
さっき、ライはカメチャンのことを「聖獣様」と呼んでいた。以前には「お前」呼ばわりしていたのに。魔力をたどって様子を見に来ている。そうかなとは思っていたけど、やはり国にとってカメチャンは重要な生物のようだ。
黒いローブが土埃で汚れるのも構わずダラリと座り込んでいるライの頭を撫でる。銀髪がサラサラだわ。
「ライは面倒見がいいね」
「撫でんなよ。魔力の異常がないか国全体を見張るのが俺の仕事だからな。……ケガ無くてよかったな」
「そして優しい」
「だから、撫でるのやめろ」
(照れてる。照れてる。普段、こんな姿は周りに見せないんだろうな)
口を尖らしながらも、ライの顔がほんのり赤い。
撫でるのはこのくらいで勘弁しておいてあげようか。
私は地面からいつの間にか落としていた斧を拾いあげた。
「休憩がてらお弁当を食べようか」
露天掘り跡近くの茂みへ移動する。ライを木に寄り掛からせた。
私はお弁当を広げる。少し甘い素朴なパンとゆで卵、プルーンのような果物が包まれていた。
そのお弁当の半分をライに勧めるが、彼はパンを食べるのが精一杯だった。カメチャンは茂みの草をもしゃもしゃと食べ、プルーンもどきを強請るので分けてあげた。
「さあて、今回の目的のものはそこそこ採れたし、ライもお疲れだし、採取しながらタンタールの街に戻ろうか」
「げぎょ」
「カメチャン、ライのこと背中に乗せて歩ける?」
「げぎょっ」
現在カメチャンは中型犬くらいの大きさがある。私が椅子として腰掛けるのに丁度いい大きさだ。座らないけどね。そして重さはかなりある。だからライを乗せても何とかなると信じたい。
「さっすが、カメチャン。お願いを聞いてくれるのね。ありがとう。重くて悪いけど、落ちないようにライを甲羅に結びつけるからね」
「な、何をするつもりだ」
「大丈夫。大丈夫。痛くないようにするから」
(【開拓スキル】に【縄結び】も絶対入るよね。うん、信じる。信じれば使えるはず!)
私は動きの悪いライをカメチャンの方に押しやった。よろめいたライはカメチャンの甲羅に腰かけた。私はさっとアイテムボックスから荒縄を出し、【縄結び】と唱え、ライの手足を固定するように結びつける。
相変わらず【開拓スキル】は応用が効く。高い金を出した甲斐があったってものだ。
「足が長いからやりにくいわね。よいしょっと、これで完成〜。出発!」
「うぅう。誰にも会いたくねぇ。歩けないから、しょうがなくだからな。街に入る前に絶対外せよ」
カメチャンの甲羅にライがちょこんと乗っかっている。結び目は可愛らしい花の形になっている。引っ張ってもゆるみは無い。いい仕事出来たわ。
これぞまさに亀甲縛り。前世知識の同じ名の縛りは現物を見たこと無いのでよく分からないから考えない。
ライが青白い顔でわめいている。でも気にしない。本当に具合が悪そうなのだからここに置いていくことなんか出来ない。私には飛ぶことはおろか転移さえ出来ないし、肩を貸して山を降りることも体力的にも体格的にも無理だ。
だからライはカメチャンに乗せてもらって山を降りるのが最善なのである。
タンタル山の下山途中も少ないながら採取するのはお約束である。
行きに見逃した実も【鑑定】で探し取る。ネバネバの実とベタベタの実は見当たらないので、また取りに来ることにする。露天掘り跡近くの茂みならありそうだ。
私がウロウロと寄り道する間、諦めたのかライは大人しく座っていた。
タンタールの街の入り口の検問は王都と違ってとても緩い。乗合い馬車ならそのまま入れる。良くも悪くも来るもの拒まずってヤツである。そのかわり、鉱山の施設に入るのは大変らしかった。
結局、結んであった紐は外したけれど、嫌がるライをカメチャンに乗せたまま「熟女のため息」へと戻った。
だいぶ顔色は戻ったものの、あんな色の顔を見てしまったのだ。それに飛んで来ることが出来たのに、飛んで帰らないし。カメチャンに乗ったままだ。まだ本調子ではないのだろう。
「あ、らぁ。お帰りなさい。ステキなお兄さんも山で採ってきたのかし、ら?」
「ヒメさん、この人を休ませる部屋空いてませんか? ちょっと体調悪くなってしまったみたいで」
「部屋はいらない。代わりに食べるものをくれ」
ヒメは食堂の硬い椅子にお手製クッションを置いて、ライを座らせてくれた。私も隣に座る。
まだ皆鉱山で働いているのか、食堂内に他の客はいなかった。
「はぁ、い。少し早いけど、二人とも夕食をお食べなさい、ね」
スパイスの効いた骨付き肉とラタトゥイユのような煮込みが目の前に置かれた。
骨付き肉をナイフとフォークで食べるのは少々手がかかる。と思っていたら、隣のライは手づかみで食べていた。良いとこの坊ちゃんと思っていたが、意外と庶民的だったようだ。
「魔力の回復には食べるのが手っ取り早いんだ」
「ふぅん、そうなのね」
私はカメチャンの分の生肉をヒメに頼んだ。たぶんカメチャンだってかなりの魔力使ったものね。
黙々とライは食べ続けていた。私も思っていたよりお腹が空いていたのか食が進んだ。
しばらくしてヒメは私達に質問をしたのだった。




