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お好み異世界優良物件(家)  作者: 妃 大和


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ヒメとカメは優秀なのだ

『宿屋 熟女のため息』は人気の食堂でもあった。

 夜には鉱山で働くごつい男が大勢食堂に集まり飲み騒ぐ。しかし変なからみを私にする(やから)はいない。只々陽気に騒ぐ客ばかりだった。無害でなによりである。


「ここのご飯おいしいですね」

「で、しょう。あたしの愛情たっぷりだか、ら」


 ヒメのごつい見た目に反して、案内された部屋は掃除が隅々にまで行き届いていた。そして食事は味が濃いめだが旨いのだ。客に肉体労働系の者が多いせいか。少々塩気が強めだが脂が乗っている。それでいてハーブ使いが上手(うま)いせいでくどくない。

 私はその優秀さをありがたく受けるのみ。自分以外の人が作るご飯を食べられるってだけでうれしいし、ありがたい。

 ヒメは繊細で優秀なおかまなのだ。そして皆に慕われる宿屋の一流のおかま女将(おかみ)だった。


 翌朝、つなぎの上に装備一式身につけて、私はカメチャンと共に宿屋をタンタル山に向けて出発した。気配り上手なヒメはお弁当を持たせてくれた。

 お弁当の中身を楽しみに、足取り軽くタンタル山を登っていく。

 採掘場に入るなら入場料がかかるが、それ以外の場所で露天掘りするならお金はかからない。ただし、目的の鉱物とかが見つかればってことだが。まあ、私には鑑定があるので、無い人よりはずっと見つけやすいはずだ。


「この辺りでしか採れないものもあるんだって。カメチャンもおいしい食べ物が見つかるといいね!」

「げぎょ」


 タンタールの街を抜けて、大きな葉を持つササのような茂みと石だらけの道をゆっくりと登っていく。途中まで採掘場に向かう人は大勢いたが、山に登る人はいない。

 セメントもどきを含むせいか空気は乾燥してほこりっぽい。ここら辺の白っぽい土からセメントもどきだけ選んで採取できそうなくらいだ。


「思っていたより植物が生えてないなぁ」

「げぎょ」


 ササっぽい葉は固いようでカメチャンのお口には合わないようだった。

 私達はどんどん登っていく。

【鑑定・セメントもどき】と唱えたが反応が薄い。

【気配察知】で動物の気配を探ったが、カメチャンがいるせいか近寄って来なかった。


「すでに放棄された露天掘り跡でセメントもどきを掘り出すわよ。私が使う分くらいなら残っているでしょ。でもそんなに昔でもないと思うのに、すでに道が消えかけてるね」


 ササっぽい葉が茂る道なき道を2時間ほど登って、肩で私が息をしだした頃に開けた場所に出た。

【鑑定・セメントもどき】と再度唱えれば、すり鉢状に大きく空いた穴の奥に灰色が見えた。露天掘り跡は土などで埋まってしまったのか思ったより浅い。それでも深さ5メートルほどあるだろうか。その穴の位置を境に山頂に向かって茂みが広がっている。


「セメントもどきはあそこだね。うーん、殺気は無いけど穴の底近くに生物がいるなぁ。奥に坑道が続いていているのかな。でも、はっきりセメントもどきを認識しないと採取できないから行かなくちゃならないんだよね。ええと、斧を出してと。カメチャンも危なくなったらビームお願いね」


 私はカメチャンの甲羅をポンポンと叩いた。

 斧を右手に持ち、左手の先にアイテムボックスの黒い穴を出現させておく。周りに誰もいないからモヤモヤした穴が空中にあっても問題なしとする。


「えいっ」


 サラサラとした砂土をかかとで削るようにして穴底に向かって滑り落ちていく。バランスを崩さない自分をすごいと思う。しかし、ほこりっぽくて涙が出てくる。

 底に着くなり、私はその場から飛び退いた。むせて出そうな咳は飲み込む。

 目の前には黒緑色したスライムがいたのだ。スライムを初めて見た感動よりも戸惑いの方が大きい。


「かわいくない!」


 見るからにブニョブニョしていてアイテムボックスに絶対入れたくない。触りたくない。せめてプヨプヨしていればいいのに……左右に揺れていると思った途端、猫くらいの大きさの塊が私に向かって飛びかかってきた。


「いやぁ、むりぃぃ」


 とっさに私はカメチャンに向かって飛びついた。アイテムボックス最強なんて思った私が馬鹿でした。


 ――ドッカーン


 あたり一面に砂ほこりが一気に舞い上がって、何も見えなくなる。煙幕が消えると、私とカメチャンを取り囲む透明な四角い箱が出来ていた。

 黒緑色のスライムははるか遠くに吹き飛ばされていた。動かない。


「これって結界? カメチャンが魔力で吹き飛ばしたの?」

「げぎょ」

「カメチャン、えらいねぇ」


 なでなでしながら、結界を解いてもらう。

 今のうちに、採取しなければ。

 地面を触り、鑑定を唱える。サラサラとした細かい灰色の部分がセメントもどきである。白っぽくてやや湿っぽい部分が石膏だ。目と手で認識してどんどん収納していく。


「げぎょ」


 頭の上から地面に向かって風圧を感じた。と思ったら目の前にライがいた。肩で息をしている。やけに疲れているようだ。


「だ、大丈夫か!? 何が起きた? 聖獣様の強力な魔力を感じて飛んできた。なんでこんなところにいるんだ? なんでこんな強力な魔力放出したんだ?」

「げぎょ。げぎょ」

「あれのせいです」


 私が指さした黒緑色に向かいライは手を伸ばした。ビンッと電撃のようなものが飛んで、スライムをさらに遠くへ弾き飛ばす。


「……どんな魔物とやりあったのかと思えば。人騒がせな」


 疲れたとばかりに肩を落とすライに対し、私はお疲れ様ですという言葉を飲み込んだ。下手に何か言ったらすごく怒られそうな気がしたのだ。だから、しおらしく側に立っていた。


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