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異世界へ

 とりあえず私はカバンから通帳を出して開いた。


(おっ、本当に残高が増えている。いち、じゅう、ひゃく……うわっ、3億超えだわ)


 私の目は丸くなっていることだろう。

 通帳は一度全額引き出されて、エビス証券というところから再び振り込まれている形で残高が10倍に増えていた。

 どうやって増やしたのか、こんな簡単にお金の操作をして日本の金融界は大丈夫なのかとか思うところはあったけれど、スキルに交換できるお金が多くあることに越したことは無い。何たって神様が増やしてくれたお金だ。ありがたぁい御利益があるに違いない。

 5バツ様からまだスキル代金は引き落とされていない今、見たことの無い数字が並んでいる。


「………ありがたやぁ………」


 私は恵比寿様への感謝の気持ちを込めて、両手を合わせて頭を下げた。

 この金額があればかなりのスキル持ちになれそうだ。


「ふむ。そろそろ私の世界へと行く頃合いかな。君は縁深き者であるからきっと直ぐに馴染めるだろう。分からないことはスマホとやらで質問するがよい。スキルは使わないとレベルが上がらないからな。上がれば出来ることが多くなると覚えておくように。体と一緒に持っていた物は似たものに再構築しておくから」


 5バツ様は白い椅子から立ち上がり、首を大きく振った。バサッと紫の髪が広がる。続けて私に近づき、人差し指を額に押し当てる。


「あいつに言われなくたって、君を不幸にはしないさ。でも幸せと思えるようになるかどうかは君次第。あっちの言葉で、こういう時は、うーん、幸せを祈るって言うのであっているかな」


 そう言うと5バツ様は私を指で押した。私の体は簡単に後ろに倒れていく。


 白い空間は霧散した。

 再び落下していく感覚に私は襲われる。

 目を開けているはずなのに何も見えない。


「………よろしくお願いします」


 大人のサガなのか、言ってしまっていた。ここでこう言っておけば安心できる。



 空間に私の体と意識も霧散していく。

 広く広く広がって小さく小さく収縮していく。その繰り返し。何度も何度も。回って回って止まって止まって。永遠の時間を感じながら、ほんのわずかの時間を感じる。恐ろしさと愛しさに包まれて、眠らされた私はどこかへと下ろされた。



 私の意識はすぐに戻ってきていた。

 うー、体が冷える。触れている地面から冷気が伝わってくる。


(冷えは体に良くないな)


 気だるい体を無理やり起こし、私は目を開けた。

 起きて見れば、リュックサックような背負いカバンを枕にして寝ていたようだった。

 ボーッとしていた頭がだんだん冴えてくる。


「肩掛けカバンを持っていたよね。再構築したんだっけ」


 カバンの中には、羽ペンとごわついた紙の束と封蝋されたコルクの付いた小さな瓶が入っていた。手帳とボールペンの代わりか。タオルハンカチはスカーフのような布となり、細々した化粧品は無くなり小さな陶器に入った蜜蝋(みつろう)入りのクリームがあった。


「鏡で自分の顔を見たかったんだけどな」


 目の前に見える両手は、プニプニとして柔らかそうだ。節くれだった指もかさついた肌も無い。

 紺色のスーツは8分袖のシンプルな膝下丈のワンピースとなっていた。かかとの低い靴はスポッと履ける短ブーツに変わっていた。革は柔らかく上質なものと分かる。

 地面に手をつき立ち上がる。体は軽く、「よいしょ」という言葉は出てこなかった。

 両手をパンパンと払って、全身を撫でてみる。


「黒髪サラサラ、ほっぺプニプニ、おっぱい小さめ下がってない。ウエストくびれ少なし……あれ?」


 体の下側を触るにつれ、頭が下がり、髪も下がるのだが、いつもと違う。

 いつも視界を邪魔する前髪がない!

 あわてて体を起こし、前髪を確認する。


「うわっ、前髪、ワンレンで作っていなかったのに。こ、これ、前髪パッツン、こ、こけしじゃないの。あの神様、やってくれたなぁ」


(この十代半ばくらいの体でワンレンは似合わないけどさぁ)


 地球にいる22歳の娘が見たら、私を指差して笑われそうだ。

 手ぐしで前髪をぐしゃぐしゃにする。が、サラサラな髪なので直ぐに真っ直ぐに戻ってしまう。張りがあってサラサラなことに喜ぶべきか……。

 通帳と元スマホはそのままカバンに入っていた。

 他に何か入っていないかとカバンの中を探る。


「これって、元マッサージ棒?」


 手の平くらいの長さの木の棒だったマッサージ棒はなぞ金属で出来た棒となっていた。私はマッサージ棒で体のあちこちのツボを押すのが好きだったのだ。


「この体ならツボ押しは必要ないかもね。でも、なんで金属に?」


 金属棒をカバンに戻し、私はカバンを背負った。

 体は軽い。その場でピョンピョンと跳ねても、重い衝撃は体にこない。アラフィフの体とは違う。

 辺りを見渡す。


「ここどこ? 変な場所には連れてこられていないと思うんだけど」


 明るい日差しが降り注ぐ、森の中である。危険な動物は似合わない場所に見えるが、油断は出来ない。

 疑問はいっぱいあるけれど、とりあえず私は道を探して歩き始めた。





気まぐれ投稿の作品を読んでいただき、ありがとうございます。年内にもう一話投稿出来るか……良いお年をお迎えください。

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