地面から吐き出された卵
アリストとレイモスに手伝ってもらった翌日から私は一人、整地作業にとりかかった。家を建てるにはまだまだやることがあるのだ。
『宿屋 乙女の吐息』からてくてくと歩いて我が土地へと向かう。今日のサンドイッチの具は、揚げた魚と酢漬けの野菜だ。ミカンのような果物も買ってある。先は長いが、多少は気分を上げたいってものだ。
「今日は整地をがんばるぞー」
誰もいないので自分に向かって言い聞かせるように声を張り上げた。
そしてひたすら「【整地】」と唱え地面でたたくを繰り返す。膝をつき唱えて立って移動をひたすらひたすら……
「うぅぅ、腰が痛いぃ。これだけやってもまだまだ終わらないわね」
腰を叩いて伸ばし、平らになった地面にシーツをひいて昼食をとる。酢漬けの酸味が疲れた体に染み渡る。疲労回復に効いている感が半端ない。
「このミカンぽいのもおいしい〜」
一息入れて再び整地作業にとりかかる。
ただ単に地面を叩いているのだが、叩くと地面の中で大きな石が地の底に沈み細かい土が地表に浮かんでくるイメージが浮かんでくる。実際そうなっているのだろう。
腰へのダメージが大きくて、そろそろ限界という頃にそれは現れた。
――ポンポン
「んっ?」
――ゴロン
黒っぽい地面に転がる白い卵型の何か。私の顔くらいの大きさがある。よく見ればうっすらとピンクがかった模様がある。
「急に出てきたよね。卵? 石?」
あたりを見ても変わりはない。整地をしたときに地面の中から異物として吐き出されたようだった。ペシペシと叩けばほんのり温かい気がしなくもない。
「生きてる? ってことは、卵?」
両手で持って、目の高さに持ち上げてみる。思わず振ってみた。
「黄身が中で揺れている感じはしないけど」
んんっ?!
何かが体から吸い取られている。それに光った。
吸い取られる不快感に私は卵を放り投げていた。
「ちょっと、ヤバイ気がする……」
私はガクリと両膝をつくと、ゴロンと地面に転がり、そのまま意識を失った。
◇◇◇
ユサユサと体を揺すられる。
まだ寝ていたい気持ちを抑え込んで、目を開けた。
「うわぁ」
目の前には誰かの顔があった。
避けるべく寝たままズリズリと横へと逃げる。
「その態度、すごく傷つくんだけど」
私の側にはやたらとキレイな少年がいた。
銀髪にアメシストのような紫色の瞳を持ち、黒いローブを纏っている。
年は今の私と同じくらいに見える。
偏見ではあるが、私の知るこの年頃の汗臭いような垢抜けない感じはない。
美形の多いこの世界の街中でさえ見かけなかった類いの無垢な印象を持つキレイな人物だ。
「【回復】」
彼は唱えながら私の額に手をかざし、左右に大きく動かした。
優しい口調とは裏腹に、額にはシワが寄り目には呆れが浮かんでいる。キレイな顔がもったいない。
「あ」
体から疲労感がなくなった。まさに回復した感じがする。
私は動けるようになった体を起こし、彼にお礼を言った。
「君ね。魔力枯渇起こしたんだよ。なんだかこの辺りで変な魔力を感じて来てみれば倒れているし。何したの?」
「魔力枯渇? あれに触っただけよ」
遠くに転がるたまごを指差す。
「卵?」
「うん、卵だと思う」
「へー、魔力を吸う卵か。助けたお礼にくれよ」
「どうぞ、どうぞ。また触って倒れても困るし。私、魔力少ないから。むしろこれがお礼で良いならあげるわ」
「俺は王宮魔導士のライ。お前は? 何でこんな場所にいるんだ?」
「私はミーチェ。ここ、私の土地なの。平らにしていたらあれが出てきて、触ったら倒れたって訳」
ライは少々口が悪いようだが、悪い人ではなさそうだ。
しかし、上から下まで見定めるような視線を私に向けてくる。こんな町外れの森の一画に一人でいるのだから、怪しくみえても仕方がない。
ライは卵の前に行き手を伸ばした。
――バチッ
火花が散り、飛び退く。
「痛ってぇ」
「大丈夫?」
私は駆け寄った。
ライは手をさすっている。
「【治癒】」
すぐさま治療を自分に施す。ライはたぶん優秀な王宮魔導士だ。しかし、卵に拒絶された。
「直接触らなくても持ち帰る方法はある」
ライの手の周りで風が舞いはじめた。
――ゴロンゴロン
いきなり卵が私に向かって転がってきた。
思わずよける。
――ゴロンゴロン
「これに意志があるのか? お前の側が良いみたいだぞ」
見ればわかる。
私の知る異世界知識だと、魔力枯渇は一歩間違えたら命にかかわる。さっきの自分の状態だって危なかった。
危険とわかっているものに関わりたくない。
「王宮魔導士として命ずる。この卵に魔力を与え孵化させよ。これでお前へのお礼はチャラにしてやる」
「えぇっー」
「魔力の与え方は教えてやる」
「私、死んじゃうわよ」
「うまくやれば死なん。大丈夫だ」
言い合う私達の側で卵はユラユラと揺れていた。




