火焔と氷霧
「すごい」
思わずと言った感じでこぼれたレイモスの呟きと共にピュウというアリストの口笛が聞こえた。
「そうなのよ。私、頑張ったでしょ!」
私はアリストの馬から飛び降りるようにして降りて、エヘンとばかりに胸を張った。
辺りはうっそうと木が生えているのに、私の土地のところだけポッカリと空間があいているのだ。いやでも目につく。
アリストとレイモスは近くの木に馬を繋いだ。
「それじゃあ、アリスト様、あの木とあの木は避けて、もしゃもしゃしている草とか低い木を思い切ってきれいに焼き払ってください。黒焦げじゃないですよ。高温で真っ白な灰にしてください。あ、レイモス様は他の場所が燃えないように冷やしてくださいね。よろしくお願いします」
私は道から空き地を指差して指示を出した。
「ほー」とか「はー」とか言いながら二人は私の意を汲んで行動に移してくれた。
やはり魔法を使うという行為は魔素に働きかけているようで、二人とも大きく腕を動かしていく。小刻みに手を動かす魔法しか見たことがなかったので、どんなことが起きるのかワクワクしながら私は見つめていた。
「【火焔】」
「【氷霧】」
二人が使うのは高度の魔法だった。
ただ発火するだけでなく、アリストの腕の動きに合わせて炎がうごめく。炎が余分な場所に燃え広がろうとするとレイモスが作った冷たい壁が遮った。
生きているような青白い高温の炎が容赦なく地面を焼き払っていく。広がっていく白い灰の上を冷たい白い霧のカーテンがなぞっていった。
「見事だわ」
初めて見る光景に目が離せない。見飽きることはないし、ドキドキが止まらない。
燃え尽き地面に残った白い灰を踏みつけても、すでに冷やされているのでブーツの底が溶けることもない。
私は燃え尽きた灰に向けていつものように「アイテムボックスオープン」と唱えて収納した。黒い土の上にうっすらとした雪のように積もっていた灰は一瞬で見えなくなった。
それを見たアリストとレイモスが一瞬ギョッとした後、顔を見合わせて額を押さえていたことを私は知らない。
続けて残った黒い地面に根っこのついた木の下部を出す。20個出すと目の前に山ができた。
「これもきれいに白い灰になるまで燃やしてください」
「あー、これは何だ?」
「ここに生えていた木の根です」
「ミーチェ、お前のアイテムボックスの中にはここに生えていた木も入っているのか」
「はい」
アリストとレイモスは再び顔を見合わせていた。
「なんちゅうデカいアイテムボックス持っているんだ。一言で出し入れしているし。それ人に知られない方がいいぞ。居合わせたのが俺らでホント良かったと思えよ」
私は素直にうなずいた。
うん、私もそう思うよ。
側でまだアリストが「こんだけすげえスキル持っているってのに魔法は使えねえって何なんだ?」とか何とか言っている。私だって魔法を使ってみたい。火をつけるとか水を出すといった魔法は頑張ったが使えなかったのだ。魔力は少しだがあるのに。
再び木の根も下草と同じようにアリストが高温で燃やし、レイモスが低温で冷やしていく。
うん、ふたりそろっていると火事が起きなくて安全だね。
「まだあるのか」とアリストに呆れられながら木の根を何回か出し、30個をアイテムボックスの中に残して灰作りは終わった。
灰を収納して、再びむき出しになった黒い地面に私は両手をついた。なんとなくこうするべきだと思えたのだ。
「【整地】」
唱えながら地面を両手で軽くたたく。両手を中心にA4くらいの大きさのでこぼこの地面が平らになった。
「あ、平らに出来た」
「あー、またか」
何度も唱えて大人3人がゆったり座れるくらいの平らな場所を私は作った。アイテムボックスから入れておいたシーツを取りだして広げる。
シーツに座った私は、ちょいちょいと手招きしてアリストとレイモスを呼んだ。側に座るようにうながして、今度は作っておいたサンドイッチもどきを各自に手渡した。水は各自の水袋で飲んでもらう。
「お腹空いたわよね。これは今日の報酬の一部です。お二人とも遠慮なく召し上がれ。では、いただきます」
今回丸いパンに挟んであるのは揚げた鶏肉と卵多めのタルタルソースとトマトだ。なかなか良い組み合わせと我ながら思う。二人とも不思議そうに見てからパンにかぶりついていた。サンドイッチはこの世界にないのだ。
しかしマヨネーズはあったのだ。単体ではなくタルタルソースとして使うことが多いようだ。ポテトサラダはまだ見ていないので、サンドイッチと共に作って広めるのも良いかもしれない。
「この組み合わせ、うまいな」
レイモスが私に笑いかけた。うっ、美味しいものって人をいい笑顔にするのね。綺麗な良いもの見せてもらいました。アリストもサムズアップしてきた。好評で何よりだ。
今回はこれで終わりだけど、木の上部の枝や葉を切り落とした後にまた灰にしてもらうつもりだ。そのまま捨てては場所ばかりとってしまう。腐って肥料になるまでどれだけかかるか分からないし。
次も気持ち良く依頼をこなしてもらうには食べ物でつるってのもアリだよね。そんなことを考えて楽しい昼食の時間は過ぎていった。




