アリストへの依頼
私が手に入れた土地で一番場所をふさいでいた木は無くなった。
いや、見えていないだけでアイテムボックスに入っていて、用途は決まっている。木の上部はこれから建てる家の建築材料に、下部は家具職人オレンデによってテーブルやイスにしてもらう。枝葉と根など不要部分は焼き切って灰とするつもりだ。
××ペディアで『灰』を検索すれば、薪を燃やしやすくするのに使うとか、肥料になるとか、アルカリ性を利用して石けんを作れるとか、ガラスの原料や焼き物の釉薬となるとか表示された。灰は地味な見た目なのにとても役立つのだ。
私は土地を歩き回り、残った下草や灌木を鑑定して、使えそうなものをひたすらアイテムボックスに収納する。さらに目についた大小様々な大きさの石も収納する。
開拓スキルのおかげなのか、何となく次にするべき作業が分かるのだ。
ひたすら収納した結果、アイテムボックスに収納されたものリストの項目がものすごい量になってしまった。
(5バツ様、巨大な収納スペースを与えてくださり、ありがとうございます)
私は両手の指を組んで感謝の祈りを捧げた。
それから顔を上げ、あらためて要らない草木がはびこる土地を見る。まだまだ単なる荒れ地にしか見えない。
「うーむ」
「うん」とうなずいた私は王都の街中へと戻ったのだった。
宿屋に戻ると、つなぎからいつものワンピースに着替えて、騎士団詰め所へ向かった。今回はアリストを呼び出す。
ちょうどいいタイミングだったようで、直ぐさま待合室に彼はやって来た。
「おう、嬢ちゃん。久しぶりだな。俺に用があるってのはレイモスから聞いている。以前言ったように火魔法が必要なら手助けするぜ。ほれ、おやつだ」
机の上に茶色い紙包みが転がった。アメのようだ。それからアリストは私の頭をガシガシと撫でてから目の前に座った。
(食べ物を投げるなっていうべきかしら。それとも頭を撫でるなっていうべきかしら……)
アリストはパーソナルスペースが近いってタイプの人物だった。
この世界で会った人達は、心配こそするが15歳の小娘を一人前の大人として扱ってくれる。大金を扱うことになってもきちんと契約して売買してくれた。
久しぶりのお子様扱いだった。
私からアリストへの依頼は2つある。一つ目は根の付いた木の下部も含めて土地をきれいに焼き払うこと。二つ目は木材と使えるレベルまで木を乾燥させることだ。
「おう、引き受けた。仕事するのは次の休みの日でいいか?」
「はい、それでお願いします。報酬ですが、私は相場を知らないので希望の金額を述べてください」
「お前、それなぁ。そんなこと言うとつけ込まれるぞ。俺が良い奴でよかったなぁ。うーん、俺はレイモスのように甘いものが好きなわけでないし、何にするかな。考えておくわ」
この人もあっさりと依頼を引き受けてくれた。
騎士ってのは奉仕の心にあふれているのか。それとも暇なのか。どちらにせよ私が助かることに変わりない。ありがたい。私の気配察知スキルが彼に悪意はないと伝えている。
それから指定された休日まで私はオメダレ林で採取をしたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ミーチェ、お迎えだよ」
朝食も済んで部屋でくつろいでいると、おとめに呼ばれた。
身支度を整えるや否や、私はあわてて宿屋の外へと出た。
「へ?」
まさかのお迎えだった。私が騎士団詰め所に行くはずだったのに。
宿屋の前には立派な馬が2頭いた。アリストとレイモスが跨がっている。
休日のせいか彼らはシンプルなシャツとズボンを身につけている。しかし、さすが騎士、背筋がピンと伸びていてとてもカッコイイ。しつけがしっかりされた馬達も同様にとても凜々しかった。周りを行く全ての人の目を引いている。
(うん、つい見てしまうその気持ち分かるよ)
「おーい、お嬢ちゃん。馬借りてきたぞ。火消し役としてレイモスも連れて来た」
馬上からアリストがブンブンと手を振っている。レイモスは軽く会釈してきた。
周りを行く人が今度は私を見る。
(注目集めちゃっているじゃないの)
この場から早く立ち去るべく、私はアリストの差しだした手を遠慮なくとって、馬上の人となった。
パカパカと軽い早足で2頭の馬は王都の西はずれに向かって行く。何事かという人目はだんだん減っていった。
以前レイモスと一緒に馬に乗った時は横座りだったが、今回は跨がっている。つなぎを来ているから良いけど、女扱いされていない気がするのは気のせいだろうか。だけど安定感は抜群なのが何かくやしい。
「おーい、お嬢ちゃん、機嫌悪いか? いきなり馬で訪ねたのは悪かった。でもな、俺とレイモスがお前の保護者ってのをみんなに見せつけようと考えてだな」
「保護者?」
「お嬢ちゃん、若いのに有望だって一部で有名になっているんだ。簡単にいえば金持ってるってな。テニレール商会やギルドでも気をつけているようだが、悪い奴の金づるにされないように俺達も一役買おうとこうして来たってもんだ」
いつの間にか併走しているレイモスの方を見れば、彼もうなずいている。
「えーと、ありがとうございます」
運の良い私はこの世界でたくさんの人に守られているらしい。
確かに私はチートとも言える行動をとっている。いくら5バツ様に目をかけられ、気配察知のスキルを持っているとしても、この世界の知識は圧倒的に少ない。元の世界ほど平和ではないのだから十分な対策は必要だった。
馬から落ちないようにしながら、私は二人に素直に感謝の言葉と共に頭を下げた。
息子のような年齢の若者を本来なら私は守る立場だろうが、今の私は成人なりかけの小娘だ。堂々と守られる者となろうと思う。
芸能人張りにイケメンの若い兄ちゃんに大事にされていると思えば、おばちゃんには役得でしかない。頬の緊張もゆるむってものだ。
そうこうするうちに、私の土地に到着したのだった。




