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私の望むこと

 人生何が起こるか分からない。それなりに半世紀ほど生きてきた私だが、最近こう思うことが多い気がする。

 離婚なんて自分がするとは思わなかった。さらに高い所から落ちて人生終わったと思ったのに、異世界にこれから行って第2の人生を送ることになるなんて。


「異世界に行くっていうのに、意外と冷静だな」


「私達を見て動じないとは、さすが選ばれた我が世界に縁のある人間だ」


 気が付けば話し合いをしていた神様達が私を見つめていた。


「あー、引きこもりぎみだった息子とコミュニケーションをとるために、深夜アニメ見たりネット小説を読んでいたので。こういう状況に対して多少知識はあります。もう、息子は立派な社会人にはなりましたわよ。ついこの間も最近のアニメや小説について語り合ったりはしてましたけどね」


 もう出来ないでしょうけどという言葉は飲み込んだ。

 女は度胸。それなりに積んだ人生経験で少しは神前(ひとまえ)で平静を装うことくらいは出来るってものよ。


「それじゃ、君が望むスキルってある?」


「それなら鑑定をお願いします。女一人見知らぬ土地(せかい)で暮らすんだもの。安全に暮らしたいじゃない。鑑定があれば人の見極めも出来るだろうし、物の価値も分かるし、食べてよいものかも分かるでしょ。あとは丈夫な体が欲しいわね。言葉も分かると助かるわ」


 私の貯金の残高はおよそ3000万円。独身時代に貯めた分に、結婚後パートでコツコツ貯めた分と慰謝料……これでどの位スキルが買えるのか。余生を穏やかに過ごす代わりなんだから、こっちで少しでもラクして暮らせるようにしたい。


「鑑定スキルは高いよ。1000万。悪いけど値引きは出来ない。レアスキルだからね。その代わりどのスキルもレベルアップしやすいようにしてあげる。体は切られても直ぐに治るなんてのは無理だけど、病気に対する抵抗力は高くしてあげよう。言葉は会話できれば良いよね」


「文字も読めないと困るわ。読めなくちゃ、情報が手に入らないじゃない」


 耳たぶの大きな神様が私の横で腕を組んでウンウンと頷きながら、私に続けて語っていく。


「それと物事に対する認識や常識の違いをどうフォローするかねえ。君に辞書を持ち歩かせるわけにもいかないし……あ、スマホで検索できるようにしようか。さらに×××××(紫髪神様)に連絡できるようにして、後からでもお金をスキルに変換できるようにすればいい」


 アラフィフのおばちゃんとしては幼い仕草だが、私も首を縦にブンブンとふる。

 なぜか紫髪の神様の名は×××××となってうまく聞き取れない。とりあえず5バツとでも心の中で呼んでおこう。まるで離婚歴がとても多い人のようだけど。


「君が家を建てるにあたって、地球とは違う素材で一から作ることもあるだろうから、私は錬金スキルをお勧めするな。×××××、手に入れた材料を持ち歩くためにアイテムボックスもサービスしてくれ。何しろ私達は本人の了承を得る前に、異世界に連れて行くことにしてしまったんだから。これくらい無くちゃチートとは言えないな」


 5バツ様はバツが悪いようで、紫の髪をガシガシとかいた。


「はいはい。錬金スキルは800万ね。基本の文字の読み書きは出来るようにするから。そうすれば錬成陣も理解して書けるでしょ。アイテムボックスには経時変化無しをつけてと。スマホってのはこっちには無いから、ちょいといじらせてもらうよ。うーん、辞書機能があって私との通話が出来れば良いんだよね」


 耳たぶの大きな神様が私のカバンからスマホを取り出し、5バツ様に渡した。

 5バツ様は透明な四角い箱を作り出し、スマホを中に入れた。箱がギュウと圧縮されたかと思うと、スマホが取り出される。

 スマホは灰色と水色の少し厚みのある金属の固まりとなっていた。水色はつけていたカバーの名残であろう。


「オーパーツに近いものになっているけど、指紋認証は残っているし、君の側にいつもあるように魔法かけてあるから大丈夫でしょ。他の人は使えない。私との連絡は丸いボタン長押しで。検索は一つだけあるアプリでしてね」


 目の前の5バツ様は使える男だったようだ。手渡されて元スマホを手に持てば、驚くほど軽い。

 液晶は無くなったが、どういう作りなのか文字キーは使え、検索すると説明文と図が表面に浮かぶ。


「これは便利そうね。ありがとうございます」


 素直に私は頭を下げることが出来た。

 カバンに元スマホもしまって、しっかりと持つ。

 耳たぶの大きな神様が改めて私の真正面に立って、語りかけてくる。


「どの世界も生きるための基本は変わらない。今度の世界には、科学の代わりに魔法とスキルが存在する。誰もが一生懸命生きていることは同じだ。私の治める地に生まれし愛し子よ、異世界での君の幸せを祈る。×××××、不幸にしたら恨むからな」


 耳たぶの大きな神様は私をフワリと抱きしめた。見た目と違って重さを感じない。

 彼は耳元で囁く。

『通帳の残高を一桁増やしておいた』

 私が驚いて顔をあげると、耳たぶの大きな神様の姿が薄くなっていくところだった。


「あなた、恵比寿様でしょ。私、年取った両親の世話をするつもりだったんです。出来ない代わりに彼らがお金に困らないようにお願いします」


 私が早口で言い終わる頃には、恵比寿様の姿は消えていた。

 彼はおそらく日本固有の商売繁盛の神様。最後まで私の願いが聞こえていたかは分からないけど、きっと両親がお金で困ることは無いと信じたい。子供達? 自分で何とか暮らせるくらいは稼ぐでしょ。そういう風に私は育てたはず。


 真っ白い空間には5バツ様と私が残されていた。









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