立派な木は根っこも立派
イスのようになった切り株に腰掛け、私はアイテムボックスから包みを取り出した。
今日のランチは、たまたま屋台で見つけたお好み焼きもどきだ。キャベツのような淡黄色野菜と挽肉が粉の中に入っていて焼き固めてあり、その上に目玉焼きが乗っていて、さらにオレンジ色の甘辛いとろみのついたソースが塗ってある。彩りよく香りも良いが、お値段もそこそこ高かった。それでも食べたかったのだ。
まだほんのり暖かい。時間経過のないアイテムボックス様々である。
「いただきます」
ーーモグモグ
「っ辛っ! 普通のソースじゃない」
元の世界のお好み焼きのソースとは違う味だった。しかし2口も食べれば、これはこれでありと思えてくる。
「うーん、これからどうしよう。まず全部の木の地上部をアイテムボックスに収納して、根も収納するでしょ。草とか茂みも無くして、石をどかしてからの整地だよね。……まだ錬金スキル使いこなせないから除草剤を作るとなると時間がかかりそうだし。あ、火魔法で焼き払ってもらえばいいか」
もともと木を乾燥させるためにレイモスの紹介で火魔法が使えるアリストに会うつもりでいた。紹介してくれる手はずとなっているから、少しくらい作業が増えても大丈夫であろうと思う。
「とにかくこの立派な木を無くさなくちゃね」
食べ終わった私は木を収納する作業を再開した。
◇◇◇
私の土地がそこそこ広い空き地となるまで5日かかった。森の中にそこだけ日当たりが良くて、とても目立つ。
そうなるまでの間に、私は丈夫な生地で出来た生成りのシャツとズボンを古着屋で買って、つなぎ合わせた。出来上がった服は、以前の世界でいう「つなぎ」っていう服である。ダボってしているところにギュッと共布のベルトを締めている。背中が出ることも無く、小枝や葉が入り込むことも無い。
それなりの子育てのなかで、洋服やカバンなど簡単なものなら作った経験はある。裁縫は好きだった。チクチクと縫うくらいならまったく問題ない。
「我ながらいい感じに出来たよね」
袖と裾は長い分をクルクルと巻いて、頭には海賊巻きの布。背負いカバンを持てば、お仕事装備の完成である。
「水袋、用意しておいたよ」
おとめさんから受け取った水袋を背負いカバンにしまう。
何だか分からない動物の胃袋が水袋だ。この世界に私が知るような水筒はない。元の世界でだって、昔はラクダの胃袋が水袋だったのだ。清浄スキルを使っておけば何の心配も無い。と思う。胃袋だと想像しなければ良いのだ。
「ほー、面白い服を着ているじゃないか。それと家具屋には言っておいたから。寄ってごらん」
「ありがとうございます」
顔は怖いがおとめさんは慣れるととても面倒見が良いし、顔が広い。
木の根を売れないかと木工家具の職人を紹介してもらったのだ。
アイテムボックスの中身の表示に、木の根が100個以上なんてしゃれにならない。アリストに燃やしてもらうとしても、絶対多いって言われると思う。少しでも減らしたい。
『宿屋 乙女の吐息』はどちらかというと商業地に属する。家具屋は職人街にあるそうだ。
デコボコの増した石畳を通って、前掛けやねじりはちまきをした人が増えたなと思った場所が職人街だった。
微妙に東京の下町のような雰囲気を持っている。しかし、歩いている人は見た目西洋人ばかりで、髪色に至ってはカラフルなこの世界、建物も似ているようで似ていない。元の世界を懐かしめるものではなかった。
道なりに行くと、大きな木の板に大きく『家具』と書いてある平屋の建物があった。広く開けられた引き戸から挨拶とともに入る。直ぐさま声がかかった。
「よう姉ちゃん、何の用じゃ」
薄暗い店の奥からやたら太い灰色眉の男性が声をかけてきた。片手には大きな木槌を持っている。
小柄だが太い腕と筋肉質な体は、いかにも力があるとアピールしている。
「おとめさんの紹介で来ました。ミーチェと言います」
「あぁ、聞いておるわ。わしはオレンデだ。なんじゃ、相談があるんじゃとか」
私達の周りには宿屋にあるようなシンプルなイスやテーブルの他に、元の木の木目を生かした大きな執務机や衝立が無造作に置かれていた。納品待ちといった感じだった。
「ここに切り株というか木の根を出してもいいですか?」
「素材を見ろってことか? ああ、かまわんぞ」
私はオレンデに背を向ける。そしていつものように小声でゴニョゴニョ唱えた。
カバンの中の黒い穴に手を突っ込み、目の前の床に出すイメージをする。
ーーゴロリ
私の土地で伐採した木の下の部分が、きれいな切り口と見事な根っこを持って現れた。土はきれいに取り除かれている。
「これ家具となりますか? 買い取ってくれますか?」
馬鹿にされるかと恐る恐る聞く私に、切り口をなでながらオレンデは歯の欠けた口でニカッと笑った。
「良いもん、持ってんじゃねえか。デカいし、目も詰まっている。欲を言えば、上のところも欲しいが、これはこれで創作意欲が刺激されるってもんじゃ」
ガハハと笑いながらオレンデは私の背中をバシバシ叩きはじめた。少々痛いが彼は買ってくれるお客様である。痛いと目で訴えるが、彼には通じない。
全部とはいかないだろうが、木の下部分の買い手ができた。さすが王族直轄地に生えていた木である。そこら辺の木とは出来が違った。
うれしくなった私はガハハと笑いながらオレンデの背中を叩き返すのだった。




