開拓に必要なのは、斧
売りに出された王族直轄地の森の一番西端が私の買った土地である。一辺50メートルの正方形と思っていたら、ハウエルが「この方が使い勝手が良いですよ」と20メートル×125メートルの長方形に変更していた。東西が短い辺で、南北に長い辺である。それも一理あると私は受け入れた。
土地の西には王都をグルリと囲む高くて厚い壁があり、北はむき出しでデコボコした道に面している。つまり南に向かって広いというわけだ。
西の壁との間は3メートルほど空いており、壁の補修などで足場を作れるようになっていた。
少々お高い手数料には区割りをハッキリさせる杭とロープの代金も含まれていたようだった。
確認しろとばかりに私の目の前で、ワサワサと生える草木をかき分けて王宮の役人が距離を測る。続いて胸板の厚い腕自慢の男達が杭をガンガン打ち込み、ロープを張っていく。魔法でも使っているのかものすごく仕事が早い。
仕事ができる肉体派労働者、カッコイイ!
最後に「売約済み」と書かれた看板が立てられた。
「見ていて問題なかったですよね。ここに引き渡し完了のサインをしてください」
役人に言われたままにサインする。感心している間にいつのまにか作業は終了していた。
あっという間に役人と男達は荷馬車に乗って帰って行く。
私はその場に一人残された。
「あ、あ、あーー。ここは私の土地だぁ」
ロープに沿って歩いて、自分の土地を確認する。足元の悪い薄暗い単なる森なんだけど、何だかうれしくなって最後には1本の木に抱きついてしまった。
木の幹をナデナデする。もちろん両手で抱えきることは出来ない。スッと伸びた立派な大木である。
「さあ、開拓よ。開拓。買ったスキルの出番よ」
私はこぶしをつくり、空に向かって突き上げた。
◇◇◇
それから数日間、初心者冒険者向けオメダレ林で採取に励んだ。さすがに連続でげんこつ親分ハチに遭遇することはなかったが、そこそこお金を稼いだ私は小ぶりの斧を買うことにした。
買う場所は冒険者ギルドの何でも屋、リイネのいる店である。
「ミーチェちゃん、いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?」
オレンジ色のロールパンのような髪を揺らしながらリイネは現れた。
「私でも振れるような斧ってあります?」
「はあい、もちろん!」
店の奥でごそごそした彼女は鉈が少し大きくなったような斧を持ってきた。
前回同様、愛に溢れた説明がはじまる。
「斧はいくつか取り扱っているけれど、武器仕様でなく私達のような非力な女性でも扱いやすいのはこれです。軽い素材だと振り回すのは楽だけど、打ち込みが浅くなって仕事がいつまでも終わりません。鉄で小ぶりなこれならその点大丈夫です。いかがですか?」
私は手に取り、人がいないところで振り上げてみた。うん、なんとかなりそうだ。
「見た感じ、持ち手が太そうですね。握りやすいように持ち手を少し削るサービスをしますよ」
「それじゃ、これください。あと砥石も」
「はあい、まいどありぃ。見かけによらずミーチェちゃん、砥石も使えるんだね。ちょっと待っていてね」
リイネはバチンとウインクするとタッタッと店の奥へ行ってしまった。
たぶん研げる。開拓スキルで研げるはずだ。と信じている。
お気に入りの黄色い財布から銀貨を出して、斧代を支払った。お金は入ったと思うとすぐに出て行ってしまう。初期投資にお金がかかるのは分かっていたとはいえ、なかなか貯まらないと気分が下がる。
再びリイネに手渡された斧は格段に私の手にフィットするようになった。これなら振り抜けて飛んでいくこともないだろう。
冒険者ギルド出て建物の陰でそっと斧をアイテムボックスにしまう。
可愛い女の子が斧を担いで街を歩くのはどう考えてもダメでしょ。
っていうか、前髪パッツンの私が斧を担いでいたら、「まさかりかついだ金太郎」になっちゃう。いやだいやだと私は頭を振った。
斧も手に入ったし、自分の土地へと向かう。
そこそこ広い王族直轄地はまだまだ売れ残っていた。その西端なんて私の土地しか売れていない。
いくら空き地が少ない王都といっても、木が生えたままの森の状態で買う人は少なそうだ。外の森なら開拓すればずっと安く自分のものになるのだから。
おかげで人の目を気にすることなく作業ができそうだ。
「とにかく木を無くさないことには始まらないっと」
斧といえば、木にむかってパコーンと打ち込むものだが、そうするのは私には無理だ。違う使い方をするしかない。
道に一番近い木の幹の地面近くに斧でグルッと印をつける。いくら斧でも力をいれないと印がつかない。
おそらく木1本、丸ごとアイテムボックスに収納できると思う。でも根は要らない。後から根を切り分けるのは大変そうなので、先に印を付けて別々にしまおうという訳だ。
「じゃーん、開拓スキルで斧の扱い上手になあれ」
魔法の呪文のようで自分で言っていておかしくなって笑ってしまう。
さっきより少ない力で印を付けることが出来るようになった。心なしか斧を持つ力も強くなったような気がする。
「たぶんここに生えている全部の木が入るよね。印から上、先端にかけての部分を収納っと」
ーキュン
空中に黒い穴が現れ木の上部が消え、見事な切り株が残った。スベスベの切り口が良いイスになりそうだ。
同じことを何度も繰り返す。
しだいに青い空がよく見える空間が広がっていった。
魔力は使わないけど、足元が悪い場所を踏み分けるように進んで、疲れと共に汗が出てきた。
背負っていたカバンからスカーフのような布をだし、頭に被る。海賊巻きってやつだ。
「浄化スキル持っているけど、スカートじゃ危ないよね。ズボン買わなくちゃ」
王宮の手入れがしっかりされた太く大きい木は約4メートル四方に1本くらいの割合で立っている。150本以上植わっている計算だ。先は長い。
私は20本アイテムボックスに収納したところで昼食にすることにした。




