蜂蜜採取
短めです。
見るからに涼しげな色味を持つレイモスの不審げな視線はとても冷たい。それを残念に思う私がいる。
私は、思い切ってゲンコツ親分蜂の巣を見つけたことを伝えた。
「蜂蜜採取のお手伝いをしてくれませんか?」
「あぁ、いいだろう」
説明をすれば、拍子抜けするほど簡単に手伝ってくれることになった。
「あれは危険指定生物となるから、業務の一環とすることができる。それほど大きな巣なら早く始末した方がいいな」
「あの、報酬はどの位お渡しすればいいでしょうか?」
私の一言を受けて、レイモスはふんわりときれいな笑顔を浮かべた。
「報酬は必要ないが、個人的には蜂蜜をもらいたい」
ん?
「好物なんだ」
クールな真面目がデフォのレイモスがとろけるような笑顔を見せた。それほどまでに、げんこつ親分ハチの蜂蜜はたいそう美味しいらしい。
見てはいけないようなものを見てしまった気がする。
(この笑み、反則)
危険指定生物は国や町の管轄として駆除できる。今回は私が採取として最初に見つけたので、私が欲しいものは私の得物となる。レイモスは蜂蜜につられてか、私に代わってあっという間にげんこつ親分ハチ駆除の手配をすませてくれた。
◇◇◇
翌日、オメダレダの村民も引き連れて、私とレイモスはあの昼食を食べた場所へとやって来た。
オメダレダ村民は蜂狩りに慣れているそうだ。
安全が増すなら、お手伝い大歓迎である。
彼らには凍った蜂と蜂の子を報酬として渡すことになっている。蜂は酒に漬け、蜂の子は加工することで村の特産品になるらしい。
蜂はもちろん、私が知る以上の大きさの白い幼虫を食べたりする気など、私には全くない。むしろもらってくれるなら有り難いものだ。
報酬がある方が喜んで働くのは、どこの世界も同じである。
私達は蜂から身を守る薄布を頭から被り、岩の裏側へと入って行った。
ーーブンブン
ーーブンブン
「……こんな場所があったとは……」
私は身振り手振りで巣がある場所を指し示した。
駆除を兼ねているので、巣を含め、辺りを飛んでいる蜂まで大きな薄布でオメダレダ村民が取り囲んでいく。もれた蜂はレイモスが素早く凍らせていく。
取り囲んだ薄布の範囲が少しずつ小さくなって、異常に気が付いた蜂が暴れ出す前にレイモスが凍らせた。
残る問題は巣の中に残る蜂達である。温度が下がると蜂蜜も結晶化してしまうので、凍らせたくはない。優秀なレイモスに蜂のみを狙って凍らせてもらうのが最善だ。
私のアイテムボックスには望むものだけを入れることが出来る。これは試行錯誤しているうちに分かったことだ。だから、巣の中の蜂蜜だけをねらってしまうことも出来るのだ。
でも今回は蜂の巣ごとしまおうと思う。巣蜜といわれる部分だ。サクッとしてジュワッとして絶対美味しいはずだ。だけど巣蜜以外は要らない。
おそらく巣蜜をアイテムボックスにしまった瞬間、残された大きな女王蜂と巣にいた働き蜂や幼虫が地面に落ちる。そしたら奴らは絶対襲って来る。それはマズい。危険度マックスってものだ。
「一匹残らず蜂は凍らせてくださいね」
私は何度もレイモスに念押しした。その度に彼はコクコクと頷いてくれる。
私が何でもしまえるほど大きなアイテムボックスを持っていることは秘密なので、採取スキルの一つを使って巣蜜をしまうようなふりをした。
皆に少し離れてもらい、巣を体で隠して、小声で「アイテムボックス、オープン」と唱えて、巣蜜に触った。
「う、ぎゃ、いやー」
私は巣蜜に触るや否や、巣から飛び離れた。
足元に大きな黒い固まりや白いうごめくものがヒューと落ちたのだ。大量に。
私はアクロバット的なつま先の動きでそれらに触るのを避けた。
「【氷結】」
一瞬だった。
地面にうごめくものは無い。
オメダレダ村民達がどんどん拾っていく。
(彼らの生活の糧として、役だってくださいね)
私はそっと両手をあわせて、拝んだ。
自分で手を出したわけではないけど、一瞬で命を奪ってしまったのだから。




