錬成陣を買ってみた
一番近い茂みは2日間で依頼品やめぼしいものを取り尽くした。もちろんまた採取出来るように葉や根は残してある。
それから二番目に近い森。三番目と、一人で安全に行ける森は制覇した。
乗合馬車で行ける採掘場にも行った。入場料を払って、廃鉱の浅い場所にも行った。
依頼品を納めに行った冒険者ギルドもだいぶ顔なじみとなった。
「まだ行っていない恵みの多い森は棲んでる動物も多いから、護衛を雇わなくちゃダメかなあ。あー、お金を稼ぐって大変」
私は『乙女の吐息』の食堂で朝食を食べた後、空の皿をフォークでつつきながら愚痴っていた。
それなりに安全な森とかでも、たくさん採取したのでお金はそこそこ稼げた。ここの宿代を払っても少しは残るくらいは稼げたので、我ながら優秀な採取師と言えるだろう。でも継続的という点ではダメだった。次に薬草などの葉が採取出来るのは約一月後だ。
テニレール商会と出会った森で私が一人で採取していたのは、単に動物が出るとか盗賊が出るとか考えていなかったせいである。だからその後レイモスが採取時に近くに居たわけだった。
(気配察知のスキルがあっても、動物や盗賊の方が動きが速そうなのよね。つかまって食べられちゃうわ)
「ほら、小娘、いつまでもそこに座ってないで動きな。稼いでちゃんと宿賃払ってくれなきゃ困るよ。動物を避けるなら錬金ギルドで避け玉を買えばいいじゃないか」
私に向かって箒をシャカシャカと動かしながら、乙女ばあさんは言い捨てた。
「乙女さん、そろそろミーチェって呼んでくださいよ。避け玉? あ、錬金ギルドに行くの忘れてたわ。助言ありがとうございます」
さっきまでの気だるそうな態度はお終いだ。
錬金ギルドで錬金スキルの活用方法を手に入れるのだ。ポーション作成とか覚えれば、材料を納品するよりいい金になるはずである。
サッと立ち上がり、ワクワクしながら私は錬金ギルドへと向かった。
◇◇◇
5バツ様が祭られる白いドームよりもっと北側の王宮寄りに錬金ギルドは建っていた。
四角い石がこれまた四角く積み上げられている。余分な装飾はない。窓も少なく、見た目より頑丈さを優先したような建物だった。
開けっ放しの金属製のドアから中へ入ると広い待合となっていた。何の案内もないので、事務所らしき部屋に続く小窓から、声をかける。
「すみません。色々お聞きしたいことがあるんですけど」
小窓の横のドアから、無造作に髪を一つにまとめた男が出てきた。小柄で痩せている。見るからに力仕事は向かなそうである。
「あー、冒険者ギルドの新人ですか? 納品は各部屋ごとですよ。納品書にサインをもらうことを忘れないでくださいね。依頼書は帰りによってくだされば、その時に渡しま「私、錬金スキルを持っているんです」……」
男が私をチラリと見た。
「あー、違いましたか。それでは、貴方は誰かに師事しましたか?」
「いいえ。全く。最近、手に入れたスキルなので」
「あー、では、こちらに」
事務所の中へと私は案内された。
小柄な男の名はハリポテだった。もうちょっとでハリポタだったのに、と思った私がここにいる。
ハリポテによれば、錬金スキルを持つ者は珍しいらしい。そりゃ5バツ様から買うとき、けっこうなお値段していたからね。そうだと思っていたわ。
そして錬金スキルは持っているだけでは役に立たない。錬成陣と魔力があって、はじめて機能する。
簡単な錬成陣は買って使うこともできるが、スキルのレベルによって使える錬成陣も変わる。錬成方法によって使われる魔力量も変わるそうだ。
オリジナルの錬成陣を作って錬成したいなら、それなりに勉強しないと作成は無理とのことだった。
「あー、基本ならギルドで教えることも出来ますよ。もちろん受講料はかかりますがね」
「はいっ、受講します」
即答である。私は錬金術師の卵となった。
基本的な錬金知識はハリポテに実践形式で2日間でたたき込まれた。その結果、初級ポーションと避け玉は作れるようになった。
最初に道具や材料の扱い方を学びながら、避け玉の調合を学んだ。動物でなくとも避けたくなるような臭いや刺激のある材料の純度を上げて、油や粉と丁寧に混ぜ合わせていく。料理の延長のようだったので、それほど難しくは感じなかった。
買わされた初級ポーションの錬成陣はボウルのような金属製の器の底に書かれている。器の中に材料となるきれいな水と薬草50枚と毒草1枚と刺激草1枚を入れて、錬金スキルを発動させる。するとなぜかきれいなソーダ色の液体が器に入っているのだ。
発動時に少しだけ魔力を使う。魔力の少ない私は1本分作ると気だるくなってしまった。
「あー、初級ポーションと避け玉は持ってくれば買い取りますよ。錬成陣のいくつかは売ってますが、より多く手に入れたいのなら誰かに師事することをお勧めしますね。あー、錬成は失敗しても絶対周りに迷惑をかけない場所でしてくださいよ」
私は作った避け玉と初級ポーションを宿屋に持ち帰った。使ってみたいからだ。
ベッドに寝転んで錬成陣が書かれた器をジッと見る。
「錬成陣の外枠は効果を発揮させるを意味して、内枠の一つ一つにも意味を持たせていると。……あれ、ジッと見ていたら枠内に書いてある変な記号読める気がしてきた。……うん、読めるわ。化学的合成のようなことを強制的にさせているようね。どんな文字でも読み書きできるって本当だわ。もう少しちゃんと勉強すれば自分で錬成陣が書けそう!」
ベッドの上で思わず飛び跳ねた。途端に落ちた。
それでも私は笑っていた。




