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お好み異世界優良物件(家)  作者: 妃 大和


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下見

 なんと、あのおばあさんの名前は「おとめ」だった。

 宿の名を『乙女の吐息』としたおじいさんの乙女チックセンスにもう脱帽である。奥さん大好きなんだね。長くずっと連れ添う二人に私は感心しかないよ。

 ……うん、私はダメだったけどね。

 いやいや、第2の人生では良い出会いがあると信じよう。今はまだパートナーは要らないけど。


「お出かけかい。変なやつについて行くんじゃないよ」

「はーい。いってきますね、おとめさん」


 おとめは宿屋の入口の花に水をやっていた。その横を手を振りながら私は通り抜けた。

 朝食時に昨日聞いた売却予定の森への行き方を聞いたので、そこに向かうのだ。

 ハイピの実が必要な感染症が発生している地域は王都の北東なので、全く関係無い場所だ。


「この体がタフなのは分かっているけど、どれだけ歩けば着くのかな」


 見知らぬヨーロッパ風の街を見ながら歩くのは楽しい。

 店の軒先には何屋かを表す丸い看板がつり下げられていたりする。店の名をデカデカと書いたような看板はない。屋台も多く、甘い香りにスパイシーな香りなどがあちこちからする。見慣れない野菜が売られていたりもした。

 街行く人の服装はまちまちで、シンプルにシャツとスカートまたはズボンの人が多いが、よろいのような肩当てを身に付けた人やローブを着込んだ人もいる。近づいてよく見たい気持ちをしまい込む。

 肩やへそが見える服装の人もいるのに、太ももを見せている人はいないことが不思議だ。


 王都の中心地から西へ西へと向かって行くにつれ、商店は減り、城壁が見えてきた。今度は北へと向かう。目的地まで後もう少しだ。


「ここよね。うん、あー、やっぱり安く土地を買うってのはそんなに甘くはないか。木がたくさんあるから森って漢字が出来たって納得の景色だわ。ハウエルさんにだまされたとは言わないけど、普通の一般人にはかなり手強い物件よね」


 私の目の前には道を挟んで大きな木が生える森があった。木の杭とロープで囲ってある。王の直轄地と書いた看板もある。

 ちゃんと間伐していたのだろう木の1本1本は太く大きい。真っ直ぐ均等に並び立ち、奥はよく見えない。薄暗い木の根元に道は全くなく、下草や低木がワサワサと生えている。

 辺りを見回し、誰も居ないことを確かめて、私はロープをまたいだ。

 草を踏み分け、枝を払い、大木の幹をポンポンと叩く。


「土地が平らなのは良いのよ。場所も思ったほど悪くない。この木も自分のものになるなら、家の材料になるわよね。すっごく良い木材になるわ。ただ問題はどうやって更地にするかってことよ!」


 きこりスキルを手に入れたとしても、私の細腕では木を切り倒した後に運ぶことも出来やしない。怪力スキルも手に入れるとかしていたら、いくつもスキルを手に入れなければならない。いくら多くの貯金があってもお金は有限だ。スキルを買い続けていれば家が完成する前に足りなくなるのは目に見えている。


「何のスキルを手に入れれば良いかよーく考えなくちゃね。それと土地を買うためにこの国のお金を稼がなくちゃ。さあて冒険者ギルドに採取依頼を見に行くか」


 あの土地を買うことは私にとって決定事項だった。

(好みの家を手に入れるっていう願いを叶えるのが無理な願いなら、5バツ様は始めから私に「無理だ」と言うだろうし)


 ◇◇◇


 冒険者ギルドの壁には、もちろん採取依頼も貼ってあった。

 朝一番の張り出しから時間も経っているので、ギルド内は空いている。


「ふむ。錬金ギルドからの採取依頼が多いのね。常時受付素材もあると」


 依頼として採取を受けた方が依頼料が追加されるからお得だ。ランクの低いものでまずは慣れれば良いだろう。

 カバンから羽ペンと紙を取り出し、採取するべき素材の名を書き付けていく。瓶に入ったインクにペンをつけて書くというのは、慣れていないので何とも書きにくかった。


「うわぁ、ひどい字。日本語なのに我ながら読みにくいわ」


 書き慣れた日本語で書き付けた紙を持って、今度は1階隅の本棚へと向かう。ここの前には誰も居ない。

 辞書らしきものを手に取り、パラパラとめくる。

 ここで元スマホをいじる訳にはいかない。

 採取依頼された植物や鉱物はこの国のどこでも見つけられるものらしい。それなら城門を出て、近くの森や採掘場に行って【鑑定】を使えば、他の人よりは楽に見つけられるだろう。


(簡単で単価が安い分、量を多く、状態が良いものを採取してくればいい取引になるよね)


 私は壁に戻り、依頼書をいくつか取ると、見知った人がいる受付カウンターへと向かった。


「こんにちは、カーネルさん。採取依頼を受けようと思うんですけど」


 身分証を手渡せば、手際よくカーネルは依頼書にサインやら書き込みやらして、ポンと依頼書に判子を押した。最後に私の目を見て一言。


「危険なことはしないでくださいね」

「ソロなんですから、当たり前です」


 へっへーん、冒険者としての初仕事である。

 屋台で肉まんのような軽食を買うと、私は城門を飛び出し、カーネルに教えてもらった一番近い茂みを目指した。お子様が遊びに行けるくらい安全な場所らしい。土地勘もなく武器を扱えない私が一人で行ける場所は少ない。

 背中越しにから「嬢ちゃん、無理すんなよぉ」という門番のかけ声が聞こえる。


「もう、みんなして私を子供扱いするんだから。中身を知ったら驚くって。大人だから言わないけど」


 15歳という体に精神がだいぶ引きずられていることに私は気が付いていなかった。













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