魔除けの面顔のおばあさん
王都のメイン通りのせいか、行き交う人が多い。両側には店が並び、人以外に物の流通も盛んなようだ。
この世界も人間中心のせいか、私から見て異質なものは見当たらない。見るもの全てが元の世界である地球で見たことあるように感じる。
5バツ様と恵比寿様に交流があるのだし、文化交流もあるのだろう。ただ、見た感じ、石油製品であるプラスチック類は無いようだ。魔法を物理的な力で使っているのに、石油化学は扱いがないのだ。
5バツ様がこの世界に不必要と判断したのだろうか。
まあ、木や石など自然素材中心の世界も悪くない。
(ナチュラル生活で癒やしの生活……余生にはピッタリだわ。ヨーロッパ風の見た目に飽きたら、自分で和風にすればいいわよね)
となると、錬金ではどんな力を使って何がつくれるのか、これから知るのが楽しみってものである。
「あ、失礼」
またぶつかってしまった。
サッカエよりずっと複雑で洗練されている街並みに目がいって、つい周りの建物や人に魅入ってしまう。結果、ぶつかるのである。完全に都会に圧倒された超田舎者である。
(このままじゃ、誰かにだまされて連れて行かれそうだわ)
「【鑑定】」
悪い人がいないか、辺りにスキルを使ってみた。
(あー、ポツポツいるわ。スリだか人さらいだかぼったくりだか分からないけど、悪人や犯罪者と表示される人達がいるわ)
大きな荷物を背負ったおばあさんに近づくスリがいた。疲れたのか道端に座って、汗を拭いている。いいカモと思われたのかもしれない。
私はスリより早くおばあさんに近づいた。
「すごい大荷物ですね。背丈を越しているじゃないですか。お手伝いしますよ」
すごい怪訝そうに私を見るおばあさんの目があった。木彫りの魔除けの面みたいな人だ。けれど、気にしない。あの荷物の大きさはハンパない。異世界のおばあさんだから力持ちって訳じゃ無いでしょ。楽はしたいはずだ。
私が近づいたせいかスリは離れた。
「……余計なお世話じゃ。手伝っても駄賃なんてやらんぞ」
そう言いながら、そっと腰をさすっているのを私は見て知っている。
布に包まれた大きな木箱に入った荷物の結び目を私は持って、肩に引っかけた。
「後で知りたいことについて教えてくれればいいわ」
私はおばあさんに行き先をねだった。
そして少々ふらつきながらも、地面を踏みしめ歩き出す。思っていたより重いが、歩けないほどではない。
目の前を両手を腰で組み、体をつの字に曲げたおばあさんが歩く。
私は時々【鑑定】を唱え、犯罪者に近づかないように調整した。
メインの通りを10分ほど進み、右に折れ3本隣の通りに入った。この辺りは道が碁盤の目のようにクロスしている。
通りに入り、しばらく行くと、おばあさんは3階建ての建物に入ってしまった。
「……『宿屋 乙女の吐息』……エロホテルみたいな名前ね」
私は看板を読み、建物全体を見た。
白い壁にオレンジ色の瓦屋根。各部屋の小さなベランダには赤と白の花が植わった植木鉢がある。もちろん入口にも。花いっぱいで愛らしい雰囲気だ。少々少女趣味だが、鑑定をかけなくてもわかる。まっとうな宿屋としか見えない。
「何か失礼なこと考えていないだろうね」
観音開きの扉を開けて、おばあさんは私を呼んだ。
慌てて私は扉に向かった。
中は食堂となっていて、今の時間客はいないようだった。隅にそっと荷物を降ろす。
シンプルでしっかりしたテーブルとイスが並び、隅まで掃除は行き届いている。中に余分な装飾は存在しなかった。
「あら、いらっしゃい」
魔除けの面が増えた。似ているので娘と思われる。ミートハンマーを握っているのは威嚇しているのだろうか。
「それで、知りたいことってのはなんだい?」
おばあさんは私の前に水の入った木のコップを置いた。
「王都で、手頃な値段で安全で食事の美味しい宿はどこか聞きたかったんですが……聞くことなさそうですね。宿泊させてください」
「うちは安くないよ。だいたい予約も無く泊まれるところじゃないんだよ」
「金額に見合っているなら、ちゃんと支払いますって。そこを何とか」
コップに入った水からはミントのような香りがした。こんな気遣いができる宿屋なら、ぜったい当たりのはずである。
「もー、お母さんたら、あの部屋なら空いているから、泊まってもらえば良いじゃないの。大きな荷物を運んでくれたんだし、何よりうちを気に入ってくれたんだから」
ギョロッとした大きな目が無くなる笑顔で娘が私を援護してくれた。
そして私は『乙女の吐息』の宿泊客となることができた。
「だいたいね。お母さんだって、気に入らなかったら荷物を持たせていないでしょうに」
三階一番奥の部屋に案内しながら、娘がポソッと呟いた。三階まで階段で昇ることを嫌がる客が多いので空いていたらしい。そして娘の父がセッティングした部屋で人を選ぶんだとか。
入って見れば、部屋の中のカーテンとベッドカバーは赤白のチェック柄だった。枕カバーは白いけど、大きなフリルが付いていた。
(あー、乙女の心を持ったおじいさんがいるんだね)
私の王都での生活が始まったのだった。
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