ハイピをゲット
ここの森は明るい。低木が多く、倒木も少ない。それなりに人の手入れが入っているようだ。そのため人を襲うような獣はほとんどいなさそうである。
辺りの四方から、ガサゴソと人が枝をかき分ける音が聞こえる。
そばに人がいないことを確認して、私は元スマホで検索した。
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『ハイピの実』は絞り汁が感染症の治療に用いられる。10倍に薄めたもの10mlを3回飲むだけで効果が出ると言われている。2センチ前後の赤黒く熟した実が良いとされる。味は酸味と苦味が強く、食用には向かない。
関連事項:『ハイピ』はトゲのある木の近くに生えていることが多い。実が感染症に良く効くが、全草も抗菌作用を持つ有用性の高い植物である。
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××ペディア、これ書いてるの5バツさまじゃないかな。なんか、私が今知りたいことについて詳しい気がする。単位も私が知る単位だし。
トゲのある木で思い浮かぶのは、バラだけど、この森に私が想像するような品種改良されたきれいなバラは無いだろう。バラ科の木って、ノイバラとかキイチゴよね。キイチゴの木なら私でもきっと分かる。
キイチゴの木は直ぐに見つかった。ツブツブが集まった独特な実がなっている。食べられる種類か分からないから取らないけど。
木の根元をよく見れば、もしゃもしゃした草が生えている。赤黒い実も見えたので、きっとこれがハイピだろう。
「【鑑定】」
(正解~)
問題はハイピがキイチゴの枝の奥に生えているということ。地面に膝をつき、枝を避けて頭を背ける。
「痛っ」
見当を付け、気を付けて手を伸ばしたが、手の甲に引っかき傷ができてしまった。しかし、手の中にはハイピの実が3つある。
実を足元に転がし、もう一度手を伸ばす。下方にある葉を3枚残して、上部の葉を茎ごと折り取った。全草に抗菌作用があるなら、茎や葉も抗菌剤として利用できるはずだ。乾燥させて粉末として吐瀉物や便に振りかければ、2次感染の被害も減ることだろう。根を残しておけば、またすぐに大きくなって実をつけるはず。
ハイピの実と茎葉を持って、私は茶色マントのおじさんの元へと戻った。
「ふむ。これがハイピの実ですぞ、マイカレッティお嬢様」
「ええとミーチェだったかしら。……貴方は採取が得意だったわね。ふうん、葉や茎にも実のような効果があると。理解したわ。今、ここに残っている者は実と葉を確認していって! ハイピはキイチゴの木の根元に生えているそうよ! 葉を3枚残して、実も葉も全部採取してきなさい!」
マイカレッティの決断は早かった。私の言葉を直ぐ信じてくれたことを喜ぶべきか、直ぐに信じた彼女の商人としての今後を心配するべきか。いや、今は喜ぶところだろう。
今度は目力強いマイカレッティを先頭に、カゴ周りにいた者皆が、森の奥へと駆けていった。その場には茶色マントのおじさんただ一人が残された。
私も続いて追いかける。
皆がキイチゴの木に駆け寄り、根元をのぞき見る姿を確認しながら、さらに奥へと進む。途中、ハイピを見つけては採取し、マジックボックスへと収納する。
私が何カ所もまわるのに比べると、他の人達の動きが遅い。
(あー、そうか)
ハイピを守るように生えているキイチゴに触れないようにすることが難しいのだ。誰だって痛いトゲには触れたくない。大きな体や、太い腕を隙間から伸ばしてハイピを採取するため、時間がかかるのだ。ナイフでキイチゴの木の枝や蔓を切っている者もいる。小柄で腕も細い私の方が有利だった。
ノイバラの茂みの前にも人だかりがあった。
近づけばノイバラの白い花に集まる蜂までたくさんいる。そして、ノイバラの茂みの奥にはハイピが群生しているようだ。しかし今、蜂を駆除できるような魔法の使い手も剣の使い手もいない。
(ここは行くしかないでしょ)
地面近くには蜂はいない。ノイバラと地面の隙間を抜ければ、ハイピまで行ける。
私は腕で顔を守るようにしてノイバラに駆け寄り、地面に這いつくばった。そのままズリズリとほふく前進する。
(わぁ、この体よく動くわ)
体の動きに連動するように、気分も上々である。ワンピースの裾が少々めくれ上がっているような気がするが、まだ未成年ってことで、多少足とか見えても許されるだろう。
髪や手足に枝が引っかかっているのを感じるが、今は進むことで頭が一杯だった。
手がノイバラの茂みを抜け、私はハイピへと手を伸ばす。前回同様、葉を3枚残して、全草採取する。片手で持てるだけ持ち、茂みの下を通して足元へと引きずりだした。誰かが受け取ってくれることを望む。
(これで8回と)
足元の方からワーという声と呪文が聞こえた。
「【氷結】」
(あー、働いた後には酎ハイ飲みたいねぇ。あ、この体じゃダメか。って、この世界にあの飲み物無いでしょ)
懐かしい地球言語を聞いて、思わず頭に浮かべてしまった自分に突っ込んだ。
(誰かが蜂を凍らせて駆除したのかな。それならここから出た時安心、安心)
ハイピを一通り採取し終わり、ノイバラの茂みの底でフゥッと一息ついた。再び先ほどとは逆方向へとほふく前進する。
ほぼ全身がノイバラの茂みから出ると、誰かが私の体を引き上げてくれた。
「ありがとうございます」
お礼と共にその人を見れば、眉間に皺を寄せた堅物水色髪騎士レイモスが立っていた。




