宿屋で私は考える
本日泊まる部屋へ私は宿屋の下女によって案内された。
マイカレッティが太っ腹なのか、テニレール商隊が裕福なのか、下働きの者にも宿泊部屋が用意されていた。立派な宿屋の大部屋は思った以上に良い部屋だった。
大部屋に目一杯8台ものベッド並んでいるだけだが、シーツは清潔だし、掃除も行き届いている。ベッドの頭のところの棚に各自の荷物が詰めてあった。
奥のベッドの棚が空いていたので、そこを自分の場所として選んで寝転んだ。ベッドの隙間をかに歩きしなければ行けない、出入りが大変な奥は人気が無いようだ。
「床に寝るだけかと思っていたんだけど……うーん、ベッド、良いねえ」
夕飯作りがないのに合わせて明日朝まで、下働きは自由らしい。夕飯は屋台でも酒場でも好きなところで各自に食べるように言われた。もちろんお金を払えば、宿屋で食べることもできる。体を拭く湯も言えばもらえるそうだ。
下働き仲間は街へ出かけたようだった。
マイカレッティ達、身分の高い方々はサッカエの領主に招かれて、晩餐会だそうだ。
(みんなが戻ってくる前に、と)
私は元スマホをカバンから取りだした。ベッドにブーツを脱いで上がり、正座する。
通話ボタンを押そうとして、ふと考える。あたりに誰も居ないことを確認して通話ボタンを押した。
コール音が聞こえ、切れた。
「えー、もしもし。5バツ様? 聞こえてます? ………通じているのかな?………… 買いたいスキルがあるんですけど」
「……あ……あ……りょうかい……」
電波悪いな。元スマホの画面を見ても、相手の名もアンテナさえ表示されていない。通話ボタンが緑から赤くなって、元スマホ全体がほのかに光っているだけだ。でも相手は5バツ様だと確信できる。
「気配察知と浄化のスキルください」
「……けは……じょ……、か……ご……さん……」
「聞き取れないんですけど。よろしくお願いします」
私は頭を下げながら、赤い通話ボタンを押した。ボタンが緑に戻る。
自分の体を確認するが何が変わったのか自覚がない。私にできる確認方法はただ一つである。
「【ステータスオープン】」
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ミーチェ・モーリー
人族 15歳 女性
レベル:2
体力:202 精神:300 魔力:30 運:888
鑑定スキル:Lv.2
錬金スキル:Lv.1
気配察知スキル:Lv.1
浄化スキル:Lv.1
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「あ、増えた」
ついでに通帳を確認する。気配察知スキルは500万円、浄化スキルは300万円で引き落とされていた。自動的に記帳されている。まさに神業である。
浄化スキルは水魔法で代わりができるから安いと思われる。
まあ、値段なんて5バツ様の気持ち次第で決まると思うけれど。
鑑定スキルが上がったのは森で色々採取した結果だろう。体力は下働きとして動いて多少は体を使ったせいか。
ともかく気配察知スキルがあることで、人目の無いところで元スマホを使うことができるし、森や街で出歩く時の危険が減るってものである。
浄化スキルは、キャンプ的生活の中で風呂に入る機会がなかったから欲しかった。湯をためて入浴することは、この世界では一般的では無いようだった。湯で体を拭くだけでは、私は物足りない。水魔法が使えない自分なので、代わりのものが欲しかった。
清潔好きな日本人だもの、水を出すだけのスキルより役立ちそうな浄化スキルは必要ってものでしょ。
「使ってみるか」
自分に向けて【浄化】と唱える。うむ。なんかスッキリしたようなしないような。そしてだるい。
【ステータスオープン】してみると、魔力が2減っていた。このスキルは魔力を使うようだ。
「お湯もらって、体拭こうかな」
宿屋のトイレに行ってみる。この世界のトイレは初めて見た。
今までは野外でしか使ったことが無かった……布で囲った場所に浄化だか分解だかの魔石が設置されていて、あっという間に何も無くなるとてもきれいな場所だった。
トイレも野外と同じで魔石が使われていた。野外と違うのは使用後に壁の魔石に触ること。魔石の原理は全く分からない。魔石に触っても自分の魔力に影響が無いってことはわかる。魔力は魔石稼働のきっかけなのであろう。
異世界のトイレが快適で良かった。自分の家を手に入れたら魔石トイレにしよう。掃除もしなくてすみそうだ。
宿屋でお湯をもらうついでに、夕食も頼んだ。そして同じ部屋の下働きの女達が戻るまで元スマホでこの世界について検索をしたのだった。
「やっとちょっとだけ、この世界のことが分かったわ!」
皆が怪訝な目で見ていようが、私は構わず、両手を天井に突き出した。
うん、何とかやっていけそう。




