初めての街サッカエ
街だ。街である。どうみても村では無い。
ここサッカエには、ビルは無いけど文明文化を感じる建物はある。白や灰色の石壁にオレンジに近い茶色の瓦のような屋根がのっている建物が多い。一番高い建物は3階くらいはあるだろうか。もっと高い尖塔を持つ建物もある。
私が知るヨーロッパの観光地のような景観だ。
(この世界で一軒家に住むのが無理なら、高層マンションでも良いんだけど。この世界でタワーマンションに住むのは無理みたいね)
石畳をテニレール商隊の馬車は揺られていった。
立派な宿屋の中庭に入り、商隊一行は止まった。本日はここに宿泊のようだった。食事の支度をしなくて良いので、下働きの者達はニコニコ顔をしている。
(うん、その気持ちわかるよ)
これで私も皆とお別れである。
マイカレッティと料理長に挨拶をしようと動き出したところに、レイモスが近づいてきた。
「身分証は持っているのか? 無いなら冒険者ギルドで発行してもらえばいい。案内する」
へぇと頷く私に背を向けてレイモスは歩き出した。「すみません。ちょっと冒険者ギルドまで出掛けてきます」と荷物を運んでいる下働きの一人に声をかけ、私も続く。お別れはもう少し先になった。
宿屋は閑静な高級地と商業地の境目にあった。しばらく行くと、道の両脇に並ぶ店が減って屋台が多くなる。あわせて道行く人も多くなり、目を奪われて歩みの遅くなる私は何度も小走りでレイモスを追いかけた。屋台が減って、代わりに騒がしい店が多くなった頃、冒険者ギルドに到着した。
木造の建物の入口は大きく、中の天井も高かった。柱はどれも太く頑丈そうである。
もっとこう無法地帯のようなガラの悪いイメージを冒険者ギルドに持っていた私は、そのお堅い役所のような雰囲気に驚いた。買い取りカウンターをはじめ、各種受付カウンターがいくつも並んでいる。壁にはお決まりのように依頼らしき紙が貼ってあった。すでに依頼を受けて出掛けてしまったのか、冒険者らしき人の姿はほとんど無かった。
レイモスに手招きされて、慌ててカウンターの一つへと向かう。
「この者の身分証を作りたいのだが。私が保証人だ」
そう言ってレイモスは首元の鎖を引いて、銀色のプレートを引き出した。
カウンターの職員に負けじと後ろから覗き見れば、書いてある字が読めた。
ケイシュレクセル・レイモス
ワークレイド王国 王都騎馬隊
(わ、知らない文字なのにホントに読める。5バツ様ありがとう)
私はうんうんと頭を振り、心の中で感謝した。
プレートには名前と所属が書いてある。私には所属する場所が無い。そのことを指摘すれば、身分を保障した場所が書かれるらしい。
「ここに血を一滴垂らして、ご自分の名前を唱えてくださいね」
言われるがまま、針で指先を突き、血の滲む指を四角いプレートに押しつけ、名を唱える。続けてギルド職員がプレートをなでれば、四角いプレートは更に小さな楕円となった。
ミーチェ・モーリー
ワークレイド王国 サッカエ冒険者ギルド
(形が変わるなんて魔法金属だわ。魔法? 錬金の一種? 不思議としか言えないわ)
「代金だ」
レイモスはカウンターに銀貨を一枚置いた。
「は?」
私は銀貨を見て、レイモスを見上げた。いやいや、だめでしょ。私が支払うべきところでしょ。お金の貸し借りはいくら信用できる相手としてもしてはいけない。元の世界での常識が私を動かす。
銀貨をレイモスの手に戻し、私は言った。
「少し待っていてください」
買い取りカウンターを見つけ、私は向かった。幸い空いている。
森で採取したものは、食べられるもの又は何かの材料となるもの。お金の価値が分からないので、カバンにあるもので銀貨1枚分になるのか不安がつのる。
「買い取りお願いします」
(採取したもので売ると高いもの、出てこい)
「……【アイテムボックスオープン】……」
ゴニョゴニョと小声で唱え、カバンに手を差し込んだ。黒い穴から採取してあったものを取りだして、カウンターへと並べる。
何かのピカピカした実、フサフサした羽、大きな葉で包んだ地面に落ちていた糞(乾燥していてほぼ土に見えるもの)、薬草一抱えをまず出した。
神経質そうな白髪の職員は、一瞬目を見開き、物と私を交互に見た。そして鑑定を始めたのだった。
結果、私は銀貨1枚以上のお金を得た。身分証の代金は無事に払えた。
白髪の職員は「いい目をお持ちですね」と私に言った。
採取専門の冒険者でやっていけそうな手応えを得た。これで最低限の収入は得ることが出来そうだ。
満足した気分のまま、レイモスと再びテニレール商隊に戻った。レイモスは何か言いたそうだったが、私はあえて無視して触れなかった。
この世界の普通と違う行動を取ったかもしれないが、あえて触れれば自分が異世界から来たことを言うことになるかもしれない。何となくまだ誰かに言うのは早いと思う。
商隊のいる宿屋に着くと私はマイカレッティに面談を申し込んだ。別れの挨拶では無い。
「あえて面談とはどうしたのですか?」
マイカレッティはきれいな眉を寄せて問いただした。
「私も一緒に王都へ連れて行ってください」
「理由を聞いても?」
「あのー、私は自分の家を持ちたいのですが、ここサッカエでは私が望む家がなさそうなのです」
そうなのだ。街は大きいが、集合住宅ばかりなのだ。あっても庭がない。
効率重視なのか店は多いが、一般住宅が少ないようなのだ。自宅でくつろぐより外の店で過ごすようなのだ。偉い人の屋敷とかは違うみたいだが、街の中心部の様子がそうなのだ。
話に聞いたところによると、王都は地区によって雰囲気が違って、あらゆる物が手に入るという。理想の家のためには王都が良さそうだ。
田舎は、この世界の場合、のんびりより不便さと危険が多そうで却下である。
「貴方の採取能力のおかげで食事の質が高まったと聞いています。よろしいですわ。引き続き下働きとしての同行を許可しましょう」
私は王都へ行くことに決定した。




