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5勝 3話 俺が許される、最大限のこと

 放課後、俺は女子に人気のアパレルショップの前で、立ち尽くしていた。

 現代の服を異世界へ持ち込めば、真新しくて目立つと思い、やって来たものの、女の園に男一人では入りづらい。

 敵の大軍に木の棒一本で攻め入るような、あるいはライオンの檻の中に丸腰で放り込まれるようなものだ。


「蓮城くん、何してるの?」


 女子向けのアパレルショップの前でうろうろしてるときに、急に声を掛けられ、俺は飛び上がった。

 見ると、春子と音羽がいた。

 見られたくないところを、知り合いに見られてしまった。


「ちょっとな。二人は?」


 春子が楽しそうに、


「ぶらぶらしてるだけだよ」


 二人が店を一瞥してから、俺に視線を向けた。

 明らかに怪しんでいる。

 いや、これはピンチではなく、チャンスだ。


「ちょっと頼みがあるんだけど」

「どうしたの? 急に」


 音羽が小首を傾げると、春子が得意げな顔で、


「美少女二人を捕まえて、何をさせるつもりなの?」


 額にチョップを見舞う。


「痛っ!」


 大げさに痛がる春子。

 俺は意を決し、二人に言う。


「この店に一緒に入ってくれないか? 男一人じゃ入りづらくてさ」


 音羽は、何故か複雑な表情を浮かべた。


「いいけど。蓮城くんって、そういう趣味があったんだね。大丈夫だよ。私は偏見とかないし、口も堅い

から。これからは、多様性の時代だよね」

「……とんでもない勘違いしてないか?」

「でも、蓮城くんに合うサイズあるかな?」

「おいおい」


 春子が額を擦りながら、


「誰かにプレゼントするの?」


 プレゼントみたいなものだが、説明しづらいな。


「知り合いの女の子がミスコンに出るんだけど、その衣装を探してるんだ」


 二人は納得してくれたようで、一緒に店に入ってくれた。

 外から見て分かってはいたが、店内は本当に若い女子ばかりだ。

 居心地の悪さを感じていると、音羽が尋ねる。


「どんなのを買おうと思ってるの?」

「その子らしくて、目立つやつかな」

「どんな子なの?」

「外見は……そうだな、身長は平均くらいで細身。黒髪で、肩口より少し長いな」

「それってもしかして、雨宮さん?」

「違うけど」


 アイサの特徴を言えば、愛砂を連想するのは当然か。

 俺は、外見以外のアイサの情報を思い浮かべる。


「性格は、明るくて控えめ。誰にでも優しいし、何より気遣いができる子かな」


 音羽が微笑んだまま、無言で見てくる。

 何だか、ちょっと怖い。


「人助けをする仕事をしてるんだけど、それをアピールしたいんだ」


 春子が能天気な声で、


「ちょっと待ってて」


 戻ってくると、白と黒を基調としたエプロンドレスを持ってきた。


「いや、それメイド服だろ」


 確かに人助けが仕事かも知れないけど。

 そもそもこの店は、何でメイド服を置いてるんだよ。


「じゃあ、婦警さん?」

「コスプレ大会じゃないんだから」

「私はアメリカンポリスの方がいいな」

「春子の好みは聞いてない」


 拳銃を撃つポーズをする春子の横で、音羽は指を顎に付け、真剣な顔で選び始めた。


「そうだな~、今の流行りだと……」


 音羽が一着手に取ると、春子が別のものを掲げ、


「それ地味だって。こっちの方が良くない?」

「えー、じゃあこっちは?」

「それよりこっち!」


 春子が持ってくるのは、変なタッチの動物の絵が書かれているシャツや、それどこに着ていくんだよとツッコみたくなるデザインのものばかり。

 春子はともかく、音羽に任せれば大丈夫だろう。

 少なくとも、俺よりはセンスがあるだろうし。


 女子は買い物が長い、とは聞いていたが、どうやらそれは本当のようだった。

 俺は女性客からの視線を感じながら、春子と音羽が選んだ服に感想を言い続けた。


 音羽が問いかけてくる。


「いくつか見繕ってみたけど、どうだったかな?」

「そうだな。どれも良かったと思うけど」


 音羽は俺の顔をじっと見た後、


「微妙みたいだね」

「いや、本当に良いとは思うんだけど」


 音羽が選んでくれた衣装は、俺の希望に沿っているし、悪いところがない。

 だが、どうしてもそれを着て、ステージに立っているアイサを想像できなかった。


「せっかく選んでくれたのに、悪いな」


 春子が横から顔を出し、


「気にしなくていいよ。楽しかったし」


 音羽も頷き、それからこう言った。


「蓮城くんが選んであげた方がいいんじゃないかな」

「でも、俺センスないし」

「他の人が見てセンスがいいかどうかじゃなくて、蓮城くんがその子らしいと思うものを買ってあげる方が、うまくいく気がする。その子もそれが嬉しいと思うよ」


 ショップを出て、帰途に着こうとすると、俺の視線が一点に固定された。

 愛砂と、このあいだ一緒にいた男、確か池内だったか、その二人が並んで歩いている。


 胸がずきんと痛む。


 そういう可能性があることは分かっていただろ。

 だが、実際に目の当たりにすると、かなりきつい。

 保健室で下した、俺の判断は間違いじゃなかったはずなのに、体がだるく、不快感がじわじわと全身を蝕む。


 愛砂たちの姿が遠ざかっていく。

 春子は鼻歌を歌って、先に歩いていくが、音羽は俺の視線の先にあるものに気づいたようだった。

 俺は、小さくなっていく愛砂たちの背中を眺めながら、音羽に聞く。


「前にペチュニアの話したよな。音羽は、花壇で咲いているペチュニアが、他の誰かのものになるとしても、見ているだけでいいのか?」


 音羽は即答する。


「うん」


 俺は、自分が愛砂の隣を歩く姿を思い浮かべるが、すぐにやめた。

 どうしても、今更という思いが頭をもたげる。

 だって、都合が良すぎるだろ。そんなことは、許されない。

 この痛みも、俺自身が引き受けるべきなんだ。


 遠くから幸せになる愛砂を見届ける。

 それだけで充分じゃないか。

 それが、俺が許される最大限のこと。

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