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4章 1話 三国一のおバカ

 理緒が、クラス全体に聞こえる声で言う。


「期末テストが終わったらさ、打ち上げをしようしない? 一学期ももう終わるし、それも兼ねてね」


 数分前に、担任からテストの日程を発表され、盛り下がっていたクラスのテンションが、一気に急上昇した。

 さすが理緒だ。


 前の席の翔が、椅子を後ろに倒し、


「恋、行くだろ」

「そうだな。打ち上げくらい参加するか」


 視界の端で、理緒が愛砂のところへ歩いていく。


「雨宮さんも来るでしょ?」

「私はいいわ」


 プールの授業で、一度は歩み寄ったように見えたが、元の木阿弥だ。

 俺は立ち上がり、二人のところへ向かった。


「テストが終わったら、夏休みに入るし、一学期の最後くらい付き合ったらどうだ?」


 愛砂は少し驚いたように俺を見たが、一瞬で無表情になり、


「じゃあ、期末テストで、あなたが勝ったら参加してもいいわよ」

「え……」


 愛砂は、四月に行われた新入生の実力テストで、学年主席だった。


「どうしたの? 諦める?」


 愛砂の言葉は挑発ではなく、初めから期待すらしていないという響きがある。


「分かった。やってやるよ」


 俺が吠えると、愛砂は涼しい顔で、


「国語、数学、科学、生物、公民、地理歴史、英語の七教科の合計でいいわね?」

「いいぜ。俺が勝ったら、ちゃんと打ち上げに来いよ」

「約束するわ。どうせ私が勝つんだから」


 愛砂は余裕を振りまき、教室を後にした。

 事の一部始終を見ていたクラスメートたちが、勝手に盛り上がり始めた。

 音羽が小首を傾げる。


「蓮城くんって、勉強できるの?」

「中間テストは、ギリギリ上くらいだったな」

「平均点の?」

「赤点の」


 理緒が肩をすくめた。


「蓮城くんって、結構バカよね」

「赤点のことは放っとけ」

「そうじゃなくて。何であんな勝負受けたのよ」

「雨宮に打ち上げ来てほしいからだよ。理緒だって、そうだろ」

「他にやり方があったでしょ、って話よ。プールの授業のことで分かったわ。雨宮さんは、恋の言うことには反応する。もっと良い条件で、戦えたんじゃないの?」

「勢いで受けちまったんだから、しょうがねぇだろ」


 嘆息する理緒。


「それじゃ、私が勉強教えてあげるわ」


 音羽もそれに同調し、


「私で良かったら、手伝わせて」


 春子が能天気な笑顔で入ってきた。


「なになに? 理緒と音羽、蓮城くんに勉強教えるの? 私も混ぜて!」

「春子って勉強得意なのか?」


 授業中よく寝てるけど、意外と天才肌?


「テストはギリギリ下かな」

「平均点の?」

「赤点の!」


 俺と一緒に、勉強を教えてもらいたいってことね。

 春子は緊張感のない声で、


「勉強会って楽しそうだしさ。皆で集まってお菓子食べたりお話したり」


 根本的に勉強会の意義を勘違いしているようだ。

 翔が肩を組んできた。


「恋、良かったな。頑張れよ。勝てば、雨宮と打ち上げで良い感じになれるかも知れないんだからな」


 鞄を持って、帰ろうとする翔を理緒が呼び止めた。


「ちょっと待って。白鷺くんの面倒も見てあげるわ」

「俺はいいって。勉強向いてないんだよ」

「中間テストどうだったの?」

「まぁまぁだよ」

「嘘吐かないで。あなたも春子や恋とどんぐりの背くらべでしょ」


 理緒は、俺と翔と春子を眺め、真面目な表情で、


「落ち着いて聞いてちょうだい。あなたたち三人はね、このクラスの三バカなの。皆が認めるおバカさんたちなの」


 春子が笑い飛ばす。


「またまた~。理緒ってば、大げさだよ。一クラス四十人いて、私たち三人がワースト三なわけないよ」


 理緒が春子の肩に、優しく手を置いた。


「自分たちが三国一のおバカだって、認めたくない気持ちは分かる。だけどね、クラスメートの間ではもう周知の事実なの。皆気を使って、あなたたち本人には言わないだけ。でも、それって本当の優しさかしら?」


 理緒は、春子のぱっちりとした目を覗き込み、


「私は服にタグが付いてたら、指摘するし、ほっぺにご飯粒が付いてたら、取ってあげるわ。三国一のおバカなら、心を鬼にして勉強を教えるのが、優しさじゃないかしら」


 今度は俺たち三人に向けて、


「それに赤点を取ったら、夏休みに補習を受けなくちゃいけないのよ。そのまま成績が上がらなければ、進級だって危ういかも知れない。そうしたら、私たち学年が別になって、一緒に卒業できなくなるのよ。それでもいいの?」


 理緒の言う通りだ。

 愛砂との勝負を差し引いても、進級については現実的な問題だ。


 翔が眉を寄せ、


「確かに夏休みが潰れるのは嫌だな」


 春子が泣きそうな顔で、


「私も、理緒や皆と一緒に進級したいよ!」


 理緒が満足そうに頷く。


「それじゃ決まりね。早速、今日から始めましょう」

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