表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

3章 2話 罪悪感の正体

 放課後、教室で帰り支度をしていると、翔が鞄を持って、


「どっか寄って行こうぜ」


 今日も愛砂は、プールの授業を休んだ。

 いつものように、プールサイドの木陰で体育座りをして、どこか遠くを見ていた。


 異世界でバニラと魔水晶を取りに行くのは、次の休み。

 それまでバニラは、アイサの家に居候することになった。

 翔と一緒に教室に出ようとすると、理緒が声をかけてきた。


「蓮城くん、ちょっといい? 話があるんだけど」


 俺と翔は、理緒に連れられ、ひとけの少ない場所に移動した。


「それで、話ってなんだよ?」

「雨宮さんのことだけど」


 理緒の真面目な表情で、何となく分かっていた。


「雨宮がどうしたって?」

「雨宮さんをプールの授業に参加させたいの」

「どうして?」

「どうしてって、まだ一回も出てないのよ。日に日に悪い噂が広まってるわ。中には、仮病だって言ってる子もいるし」


 確かに、以前にも増して、そういう声が大きくなっている気がする。

 水着姿を見せたくないからとか、調子に乗ってるとか。


「蓮城くんは何とも思わないの? もう一学期も終わるし、このままじゃ雨宮さん、ずっとクラスメートと打ち解けられなくなるわ。せっかく同じクラスになったのに」

「なんで俺に言うんだよ」

「あなたたちが幼馴染だからよ」


 頭の中で、雨の音がする。


「雨宮が友達を作ることはない」


 理緒はきつく俺を睨み、


「なんでよ」

「雨宮が言ってたんだ。もう大切なものを失くしたくない、って」

「そんなのダメよ」

「ダメって言ったって、本人にその気がないんだから、どうしようもないだろ」


 愛砂がそれを望んでるんだ。

 愛砂が大切な人を失いたくないから、一人でいるというなら、俺にそれを否定する権利なんてないと思う。


「ねぇ、蓮城くん。雨宮さんって、小学生のときにお母さんを亡くしてるんでしょ?」


 誰かから聞いたのか。


「そうだよ」

「それがショックで、今みたいな性格になったのかな?」

「どうだろうな」

「もしも、それが原因で心を閉ざしたのなら、私は雨宮さんのことを放っておけない。仲良くなれれば、やっぱり友達は必要なものだって、考えが変わるかも知れないわ」


 愛砂の本当の望みは、本人にしか分からない。


「雨宮からすれば、余計なお世話かも知れないぞ」

「蓮城くん、ちょっと冷たくない? 小学校のときは仲良かったんでしょ?」

「そんな昔の話されても困る」


 沈黙が去来した後、理緒が顔をしかめ、感情を押し殺した声で、


「分かったわ。もう蓮城くんには頼まない」


 去っていく理緒を見て、翔が俺の肩に手を置き、


「ちょっと理緒と話してくるわ。あいつお節介なところあるじゃん? それで感情的に引けなくなったんじゃねぇかな。落ち着いたら、恋の言い分も理解してくれると思うぜ」


 翔は理緒を追いかけていき、俺は一人立ち尽くした。

 そりゃ、俺だって何とかしたいよ。

 でも、できない、正確に言えば、する資格がない。

 理緒が愛砂を昼食やプールに誘えるのは、後ろめたさがないからだ。


 杏さんが他界し、愛砂が失意に沈んでいたとき、俺は何もできなかった。

 どうしたらいいのか分からなくて、どんな言葉をかければいいのか分からなくて、ただ離れたところから愛砂を見ていた。

 そして、時間が過ぎていき、いつの間にか疎遠になっていた。

 俺は絶望に打ちひしがれる愛砂を助けられなかった。


 それが、俺が抱えてきた、後ろめたさの正体だ。

 だから、俺は理緒みたいに、愛砂に声をかけられない。

 愛砂が最も辛かったときに何もできなかったくせに、今更どの面を下げて話せばいいというのだろうか。


「愛砂は、何を望んでるんだ……?」

何かのご縁で、この小説を読んでくださったあなた、ありがとうございます。

また、お会いできることを祈っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ