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暴落相場に買い向かえ

「ウロコ」の章の後半を書き換え、「暴落相場に買い向かえ」に改めました。

「顧問があんなにはりきってるのに、シオリン、最近部活も出なくなっちゃって」


ねぎまは立ち止まったまま、しょんぼりと地面を見つめる。


「部活も休んでるって?」

「そーなの」


株のデイトレとやらは午後3時まで。だから、ももしおは、放課後の部活はちゃんと参加していた。


「元気はあんの?」

「授業中は寝てる。疲れてるみたい。機嫌はいいんだけど」

「分かり易いタイプだもんな。

 じゃ、大丈夫じゃね? 今週は学校も来てんだろ?」

「んー。でも心配」


オレは繋いでいた左手にぎゅっぎゅっと2回力を込めてねぎまの右手を握った。元気出せってこと。

まだハの字になったままの眉で、ねぎまが泣きぼくろと一緒にオレを見つめる。


「オレからも、ももしおに声かけてみる」

「うん」


ねぎまは優しい。周りの人を気遣う。

外見がどストライクってのもあるけど、オレはねぎまのこんなとこに惹かれた。


オレの可愛いカノジョをこんなに心配させるなんて。ももしおのヤツ。

いったい、何してるんだ?



まさか、エロい気持ちに負けて、行きずりの男と関係を持ったとか……いやいやいや。

でも待てよ、恋バナだったら親友のねぎまにできるけど、そんな後ろ暗い話はできねーじゃん?

いかんいかんいかーん。妄想ストップ!

ももしおだぞ。学校のアイドルだぞ。そんなことするわけねーじゃん。


まさか、株で失敗して大損こいたとか。で、母親の口座を使って売買してるから、穴埋めに必死。

先日、世界経済が大荒れって話を聞いたばっか。

こっちの方が可能性あるじゃん。授業をサボるのは、株取引の為。


それとも、親に内緒でとうとう自分の株の口座を作ったとか?

ももしおはギャンブラー体質のところがあるからと、親から自分の口座開設を止められているらしい。

郵送でやりとりする昨今、文書を偽造するくらいやりそーじゃん。


ヤツは、日本株だけで飽き足らず、米国株に手を出したがっていた。それも親からストップがかかっている状態。だからひょっとしてそのために。実は今は米国株に夢中で忙しい? だったらアメリカは地球の反対側だから取引は夜。授業を抜け出す必要はない。米国株じゃないな。


いったい何なんだ。機嫌はいいって。

ときどき思い出し笑いをしたり時間を気にする。それって、恋愛の初期症状じゃね?



学校の授業をさぼることなんて、鼻くそほども気にしないももしおだったら、Z高まで行くくらい朝飯前。

もうゼットンを見つけて、がんがんアプローチしてんじゃね?

実はもう、つき合ってるんじゃね?


株主総会で出会ったなんて、いや、出会ったんじゃなくて、見かけたの間違いなんだけどさ。

ってことは、ゼットンは**ホールディングスの株主ってことじゃん。



ももしおの好きなタイプはちょっと変わってる。

第1に「イケメン」。が、これは主観的なもので、好きになると一般的に今一つの顔でもイケメンに見えるようだ。第2に「株の話ができる」。第3は確か「世界情勢に詳しい」だったような。

遂に理想の変人高校生を見つけたから、2人して投資話が止まらなくて、疲れてるんじゃね?


んー。だったらねぎまに話すのか。




翌日の休み時間、ももしお×ねぎまのクラスへ行ってみた。


せめて一言、ねぎまが心配していると伝えたかった。

2人のクラスは4つ向こう。


ねぎまが目に入ったから手招き。

オレに気づくとふわっと白薔薇のように顔をほころばせるねぎま。やっぱ綺麗だよなー。オレって果報者。


「宗哲クンから来てくれるなんて嬉し。うふっ」

「ももしおは元気? ちょい顔見に来た」

「なーんだ。私じゃないんだ」


ねぎまが下唇をちょっと突き出して上目遣い。かわいー。


「マイに言われたから、ももしおの様子見に来たのに」


最近やっと、ねぎまを名前で呼ぶのに慣れてきたとこ。


「シオリンね、1時間目にはいたの。でも2時間目はいなくなってた」

「は? 帰った?」

「鞄はあるの」

「あらら」


ももしおのヤツ、またパソコンルームでデイトレしてるのかも。


「どこにいるか教えてくれなくって」

「ほとぼりさめたら話してくれるって」


ねぎまの鼻の頭を、ぴっと人差指の背ではじいた。一瞬2つの瞳がオレを向く。でもそれはすぐに色を失う。


「なんか、寂し」


俯くねぎまの天然まつ毛が、泣きぼくろを隠す。


「元気出せって。じゃな」


休み時間は10分。オレは走った。隣の校舎の1階まで。

階段の最後は4段上から飛び降りた。渡り廊下を走って、1階端のパソコンルーム。

いねーし。

パソコンルームは閑散としていた。


即行で教室に戻る。渡り廊下を通って3階まで。エレベーターつけてくれよ。

やっべ、3時間目のチャイム鳴ってるじゃん。

走って3時間目の現国の教師を追い越すと、


「よねくらー、走るな」


怒られた。


「さーせん」


いったいももしおはどこ?



3時間目が終わったとき、ねぎまからメッセージが届いた。


『シオリンが来たよ』


ダッシュ。

またいなくなられたら困る。


「よねくらー、走るな」


またまた現国の教師。


「さーせん」


言いながらスピードを緩めないオレ。


ももしお、いた――――!

廊下の先に、ねぎまやその他、いつもつるんでいる華やかな女の子達7、8人と一緒に喋っている。


「ももしお!」

「どーしたの宗哲君。マイマイはこっちだよ」


能天気なももしおは、ねぎまをグイっとオレの前に差し出した。


「ももしお、ちょい、こっち」


お前だよ。オレは人差指でくいっくいっとカモーン。


「え、私?」


オレはももしおをみんなから離れた廊下の隅に連行。


「なあ、大丈夫?」

「え? なにが?」

「最近、変じゃね?」

「変?」

「授業サボりまくってるって聞いた」


オレの指摘に、ももしおはムッとした。


「いーじゃん。宗哲君には関係ないじゃん」


ももしおの顔を見ながらも、視界に入るなだらかな胸部。あ、いつものももしお。


「友達だから困ってるんじゃないかって心配してんだよ。

 株で失敗したとか、親に言えなくて困ってるとかだったら、オレらに言えよ」


でもま、株で失敗したんだったら、何もしてやれねーけどさ。


「……」


あ、黙った。ビンゴか。


「大損こいた? 最近、世界経済荒れてるんだろ?」

「そっちは大丈夫」

「さっすが。ww」

「だって、私は基本デイトレだもん」


デイトレとは、その日に買っが分は全部その日に売り払うスタイル。


「デイトレだから大丈夫ってこと?」

「世界経済が動くのはアメリカ中心だから日本の夜中なわけ。でも、デイトレだと朝起きてびっくりってことがないから。デイトレって実はリスクが少ないの。世間じゃデイトレって儲けも損失もでかいみたいに言われてるけど、ホントはそんなこと全然ないの」

「へー」


世間一般的には、デイトレに対して興味ねーし。


「まあ、世界経済大荒れだから値動き激しくて、気軽にデイトレもできないけど。ってか、こーゆーときってマザーズやJASDAQから資金逃げちゃうんだよね。スイングもちょっと手ぇ出し始めたから気にはなるの。でも、中国分の米国債デフォルトの件で相場荒れてるじゃん? 『暴落相場に買い向かえ』ってのが持論なんだけど、どこが底なんだか。だいたいフィボナッチとか三角持ち合いとか、異常相場って例外だから使えなくって」

「ふーん」


ももしおは、流暢に異国語を話し続ける。


「不確かな情報に振り回されていい迷惑。世界で1番米国債を持ってる中国分がデフォルトになるなんてデマだかなんだか。中国が米国債をバーゲンセールしちゃってるって噂がネットで飛び交ってて。そりゃそうだよね。デフォルトになる可能性があるなら安くてもなんでもタダになる前に売りさばくよね。債券相場に資金が流れて、株はさっぱり。世界同時株安」


はっと、ももしおは両掌を上に上げてオーバージェスチャー。


「米国債がバーゲンセールなら、そっち買えばいいんじゃね? そっちの方が儲かるから資金が流れてるんだろ? よー知らんけどさ」


そろそろ日本語の世界に戻ってほしくて、オレは無責任発言。


「宗哲君、ナイス! そーだよ。盲点だった。

 私って、女性デイトレーダーじゃなくて、女性トレーダーになってたわけ。でも、もう1皮剥けるチャンス。これからは、女性投資家で行く!」


ぽん


ももしおは嬉しそうにオレの肩に手を置いた。

ん? なんかよく分かんねーけど、話終わったっぽい。

元気だよな。株じゃないなら、なんなんだ?


「困ったら相談しろよ」


オレはそう言い残した。

それから少し離れた場所にいたねぎまに手を小さく挙げてアイコンタクトをして、とぼとぼと廊下を自分のクラウの方へ歩いて行った。


株の方は本当に大丈夫なんだろう。ももしおが嘘が下手ってことを除いても、あれだけ語るんだったら、問題はそっち方面じゃない。ってことは、それ以外で親に言えないほど困ってることがあるって?


株主総会の日、胸に何を隠してたのか、ダイレクトに聞いた方がよかったかも。

あれ、動いたような気がしたんだよな。


親友や親にまで隠しごとか。


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