罪状不明
バドミントン部は午後から部活。
ももしお×ねぎまは、午前中、雑技団の女の子に衣装を返しに行った。
オレは、もう行かない方がいいって言ったんだけどさ。危険だと思うから。
犯人は現場に現れるってゆーじゃん。だから警察とかいる恐れがあるのに。
でも、仕事に使う衣装を返さないなんてできないって。律儀過ぎ。
タクシーの運転手から貰ったチケットは4枚。ミナトとオレは使わなかったから、もう2枚ある。ねぎまは、その2枚のチケットが残っているってことが「行け」ってことなんだろうって解釈していた。
「パンダ犬のこと聞いてくるね」
興味津々のねぎま、危険。
「身を亡ぼす好奇心だって」
オレは釘を刺しておいた。
昼、4人で体育館の外階段の踊り場に4人で集合。
天高く馬肥える秋。空は高いが馬はそこらにいない。
「無事でよかった」
取りあえず、オレはももしお×ねぎまが警察に捕まらなかったことに安堵した。
ってか、警察に捕まるってことは、捕まえる警官が「パンダは中国からアメリカへのプレゼントじゃない」って知ってるってこと。一般の警官がそんなことを知らされるとは考えにくい。
オレ達を捕まえる人間がいるとしたら、それはきっと、警官じゃない。警察の人間だとしても、もっと違う種類な気がする。
「なんかね、出入口のとこにスーツ着たおじさんがいた。出入口、いっぱいあるのに、どの出入口にも1人いるんだもん。いかにも見張ってますって感じだった。ね、マイマイ」
「うん。いたいた。会場の中にも」
「でもね、もう、入れ替わっちゃったことは隠しようがないし、堂々と昨日の子に衣装返したよ」
「大丈夫だった?」
ミナトが再確認。ここにいるってことは、大丈夫だったんだろうとは思うけど。
「別に、誰もこっちを気にしてなかったよ。ね、マイマイ」
「ね」
ももしお×ねぎまは、顔を見合わせて、首をこてっと傾けた。
得意だよな、それ。
「でねでねでね。パンダがすっごく可愛いって話になったの」
ももしおのパンダ話に心拍数が上がる。ボロを出してないか不安。
「抱っこしたとか言ってねーよな?」
オレの質問に、ももしおは目をまん丸にした。
「言うわけないじゃん。
でね、みんなパンダがいること知らされてなかったって言ってたよ。
雑技団の人も、二胡演奏する人も、パンダ犬の係りの人も。
だから、みんなびっくりって。
パンダ犬の係りの人は睡眠薬飲まされて眠らされて、
その間に中国当局の人がパンダを五重の塔に入れたって言ってた。
あははははは。
五重の塔を動かした人は、何か白黒の模様が見えたから、
もうパンダ犬が入ってるだろうって思ったんだって。
あははははは」
なんと。睡眠薬を飲まされたことになってるなんて。てか、それって居眠り。
それよりも、中国当局って。響きが怖い。
ももしおは大口開けて笑ってるけど、オレ、笑えねー。
だってさ、下々の者には何も知らされないってことじゃん?
中国って怖っ。
あ、日本も。
どう考えたって、赤ちゃんパンダが日本に持ち込まれた記録はないはず。なのに、そのことは全くニュースになっていない。
アメリカと中国との問題だから、日本が口を出せないってことか。
どーなってるんだろ。トップシークレットだから調べることも困難だろう。調べると事実を知っている人がねずみ算式に増えることになる。
ってことは、オレら、もし捕まるとしたら何の罪?
それとも、もう捕まる可能性はないってこと? 捕まったとしても裁判できねーじゃん。
いろいろ考えたことがムダかも。
でもそれってラッキーなんじゃね?
月曜日のお昼、久しぶりにゼットンが校門にやってきた。
へー。
女の子が窓に鈴なり。ももしおファンも混じる。
タケちゃんは教室にいたけど、めっちゃ面白くなさそうな顔してた。だよな。
外見がいいのは認める。が、どーして中身が男子中学生みたいなももしおがモテるんだろ。
タケちゃんもゼットンも目ぇ覚ませ。
放課後、外階段の踊り場で今日1日の無事を祝った。ももしお×ねぎま、ミナト、オレ。
部活にちょっと遅れるが無問題。
「ゼットンのこと、どーすんだよ。ももしお」
タケちゃんのためとかじゃなく、オレは男の味方。ゼットンの純情を弄ぶんだったら許さん。
「えー、別に。会いたくなっちゃったんだって。
スイカのこと聞かれたから『食べた』ってバレバレの嘘ついちゃった」
「もー。シオリンったら優しい嘘つくんだから」
ねぎまは言うけど、オレにはどこがどう「優しい嘘」なのかさっぱり分かんねーし。趣味の悪い冗談じゃん。
「ま、ももしおちゃん、その気がないなら、どっかですっぱり切らないと」
ミナトが忠告する。
「善財君はどーでもいいけど、善財君のFXやってる子がイケメンでいいんだよねー」
出た。惚れっぽすぎ。
「シオリン、善財君よりも?」
オレというカレシの目の前で他の男の話に興味を持つねぎま。ちょっとは気ぃ遣って。
「ほら、見て。これ」
ももしおがジャーンといった感じで見せてくれたのはLINEのメッセージ。
『月曜は確実に動きます。米中の関係が良好になるならドル高へ。レバレッジは5』
「これのどこがイケメンなの?」
ねぎまが目をぱちくりさせる。
「完結。要点はばっちり。レバレッジの中庸な感じ。
きっと、クールで知的で経験豊富で、耳元でSっぽく言葉攻めするタイプだよー」
「シオリン、お口にチャック」
経験豊富って、FXか女かどっちのこと?
「善財君はね、株始めたんだって。
口座開設の手続きが終わって『買おう』ってなったときが
米国債の対中国デフォルト問題で、世界同時株安真っ只中でね、
安く買えたって喜んでた。ムカツク。
私なんて私なんて、今、株につぎ込む資金なくなって身動き取れないってゆーのに!」
ももしおは両手に拳を作って悔しそうに自分の膝をだんだんだんだんと叩く。
あらら、可哀想なゼットン。FXやってる友達の踏み台にされてる上に、ももしおからムカつかれるなんて。
ミナトはアクエリを飲みながら、羊雲が浮かぶ空を眺めていた。
何かを思い出したかのように、不意にペットボトルを階段に置いた。そして一言。
「なあ、水曜日、モケ山動物園行かね?」
水曜日は全校一斉に部活なし。これは勉学のためという学校の方針。
オレ達は、午後の授業をぶっちして、モケ山動物園に行った。なにせご近所。学校から電車&徒歩で40分くらいで着く。街中にあるモケ山動物園は狭いから、さくさくっと周れる。
平日で人はほとんどいない。ちらほらとお年寄りや未就園児くらいの小さな子がいるくらい。
もちろん目的はスイカの安否。
真っ先にペンギンコーナーへは行かず、キリン方面から観て、ペンギンは最後にしようと電車の中で相談した。もう1つ。写真はまんべんなく撮ること。
「きゃー。マイマイ見て見て。レッサーパンダかわいー」
「立ってぇ。ポーズ。きゃー」
カシャカシャカシャカシャ
カシャカシャカシャカシャ
あかん。
このペースじゃ閉園までにペンギンに辿り着けない。
きゃぴきゃぴと騒ぐももしお×ねぎまを引きずるように、園内を周っていく。
オレが好きなのは、やっぱライオン、トラ。見応えあるじゃん。
キリンの赤ちゃんはずいぶん大きくなっていた。動物って育つの早いよな。
やっとペンギンに辿り着いた。
ちょうどエサの時間で、飼育員の人がエサをやっていた。
ご飯中のペンギンを近くで見ようと、オレ達はペンギンコーナーの陸に近い部分に歩み寄る。それは奇しくも、ももしおがスイカをサッカーネットでほおり投げた場所。
「お、ちっさいのがいる」
ミナトが別れたときのスイカとそっくりなペンギンを指差した。巣らしきところの小さな穴から顔をのぞかせている。
ももしおは大きな声で呼んだ。
「スイカ!」
BAKA! 何のためにわざわざ反対方向から周ったんだよ。疑われるようなことすんなよ。
けれど、その小さなペンギンはももしおに見向きもしない。
代わりに別のペンギンがよちよちと近づいてきた。大きさはほぼ大人のペンギンと同じ。でもなんか違う。模様が他のフンボルトペンギンと違う。黒い部分がグレー。背中には残念な感じで茶色い産毛がゴミみたいに残っている。
ひょっとして、これ、会わないうちにでかくなったスイカじゃね?
もふもふじゃなくなったスイカは、愛くるしさ減。
飼育員はオレ達に気さくに話しかけてくれた。
「あっちの小さい子はね、あのブルーの印のペンギンの子だよ。お母さんは巣穴にいる」
ペンギンたちは片腕に色付きのリングをつけている。個体識別用だろう。
父親まで分かるのかとオレは内心びくびくした。
「お父さんとお母さんが分かってるんですね」
とねぎま。
「普通はね。でもポッターは分からないんだよ」
「「「「ポッター?」」」」
「ほら、その子」
飼育員はオレ達の方に近づいてきた1羽のペンギンを指差した。




