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星だけが知っていた

「ん? なに、宗哲」

「Z高って自由だったじゃん?」

「うぃぃぃ」


相変わらず軽い話し方。さすがチャラ男揃いのZ高卒。


「髭生やすとかはムリだよな?」


オレは、ももしおが描いたゼットンのヘタクソな似顔絵を思い出しながら聞いた。


「別に」

「え」

「Z高、校則ねーもん。法律を守ればOK」


なにそれ。どんだけ自由な校風だよ。


「そーなの?」

「制服着なくてもOK。男子校だったけど、オレん時、スカート穿いて化粧して、まるっきり女の子で来てたヤツいたし。その辺の女よりきれーで色っぽかったし」

「マジか」

「髭くらい、いるんじゃね?」


「髭くらい」か。すげー。

オレらのガッコで髭生やしてたら、即行、担任とかに剃られそう。シェービングクリームなしで。


兄が通っていたZ高は、生徒の自主性を重んじるというモットーのため、登校すら自由。進級の判別はテストのみ。


出欠を取らないため、兄は好き勝手し放題だった。他の生徒もそう。バイト三昧だったり、海外へボランティア活動に行ったり。

その代り、進級判定のテストはかなり厳しく、クラスの2~4人は留年するらしい。


「株やってたりする人っていた?」

「いたいた。図書館で売買してるのいた。FXとか仮想通貨やってるヤツも」

「へー。さっすが私立」


なんか文化がちげー。

オレが通っているのはごく普通の公立高校。ももしお以外で株をやってるヤツを聞いたことがない。投資してるヤツはいるかもしれなくても、人知れずやってるんだと思う。

私立と公立って違いもあるかもしんねーけど、男子校ってのも大きいかも。あんま、隠し事しなさそーじゃん。男の()まで堂々としていられるんだもんなー。


「投資サークルあったし」

「すっげー」


株主総会にいたんだったら、ゼットンは投資サークルのヤツだったのかも。

それにしても、竹野内豊似のモテ校生なんて無敵だろ。ま、さ、本当に竹野内豊似とは思ってねーけど。



Z高にはちょっと遊んでる風なイケメンが多いと評判。Z高のスクバを持つだけでモテるから、兄は入学して1ヶ月でスクバを盗まれてしまった。モテアイテムとしてネットで流通しているらしい。

制服すら自由というくらいの学校。スクバを取られた兄はリュックで通ってたっけ。


学祭に遊びに行ったら、男子校なのにどこから?ってくらいたくさんの女子高生が来ていた。それはあたかもハンターのごとき女豹の群れ。


Z高は「遊びも知ってる育ちのいいぼんぼんの学校」ってイメージ。

女が求めるイケメンなんて、自分が気後れするような眉目秀麗のガチイケメンじゃなくて、お洒落を知ってる雰囲気イケメン。(イコール)ちょっと遊んでるヤツってこと。ダサいガチイケメンよりも実は大したことないお洒落な雰囲気イケメンの方が需要がある。

更にぼんぼんがいいなんて。女って、結局は金かよ。世知辛い。


オレが行ったとき、学祭というのに、校舎横に何面もあるテニスコートで、リーガルシューズに制服のまま、生徒が優雅にテニスをして遊んでいた。自由すぎ。


オレの高校受験の際、兄は「Z高いいぞー、モテるし。宗哲も受けろよ」って言ったけど、その華やかさとナンパさ加減が自分の肌にはとても合わないって感じたんだよなー。

長身イケメンの兄は、小さなころからモテ男街道を歩いてきた半ちゃら男。めちゃZ高の校風にぴったり。


ひょっとすると、ももしおの片想いの相手は、少女漫画のゼットンを地で行くヤツかも。


「じゃなー、宗哲。オレ、レポートあっし」

「じゃー」


今度兄と会うのはいつのことやら。



取りあえず、Z高に投資サークルがあるってことはグループLINEに流しておいた。ももしお×ねぎま、ミナト、オレの4人のLINE。

投資サークルがあるなんて、いかにも、ももしおが喜びそうな情報だから。


あ、骨。

ごめん諭吉、忘れてた。床、ヨダレまみれじゃん。


「諭吉、待たせた」


ぽいっ


諭吉にスペアリブの骨を投げると、嬉しそうにバリバリと頬張り始めた。




ベッドに寝転んで、星降る夜を思い出す。


『最初じゃん。いい加減にしたくなくて』


あの夜、確かにオレはそう言った。言ってしまった。


オレの気分が凹んでた時、ねぎまが「ホテル行こ」って誘ってくれたんだよ。すっげー頑張って言ってくれたってのが分かって。オレのこと、そんな風にでも励まそうとしてくれたことが嬉しくて、ついつい。


だから、ねぎまとオレは二人っきりでの旅行を約束した。天の川が見えるところって。

2人で最高の場所で最高の気持ちで夜を過ごしたいって。


実は激しく後悔。なんであんなこと言ったんだろ。オレ。


なんかテンション違ってたんだろーな。象の鼻パークの夜景が綺麗で。ねぎま、いつもにも増して色っぽかったし。

天の川じゃなくてもいいじゃん。横浜の夜景で充分。

いっそのこと、天の川はプラネタリウムで見て、その後どっかに泊まればいーじゃん。


横浜だったら、学校帰りに宿泊できる。

資金よりも部活と学校のない連休って、そんなにない。つーか、全然ない!


ぬけぬけとハードルをめちゃ高くした過去の自分を地底の奥深く埋めてやりたい。


くそっ。





多忙な2、3日が過ぎ、来月から大手予備校に通う手続きをした。

まずは英語と数学。学校の授業と大学入試は別物。塾ってゆー受験のプロ集団の力を借りて、効率よく攻略しよーじゃん。



そんな夜、スマホが電話の着信を告げた。

オレは夕食の栗ご飯を大盛にしてもらったところだった。我が家の栗ご飯は、かなり栗増量。でないと兄妹で栗争奪戦をするから。


ぶぶぶぶー ぶぶぶぶー


表示は「西武(にしたけ)」。通称「タケちゃん」。


同じクラスのタケちゃんはスーパーイケメンを前髪とメガネで隠し、サッカー部なのにそこそこ地味。学校の近くの安アパートで一人暮らしをしている。


オレは箸を置いてスマホを手に取った。


「はい、米蔵です。なに? タケちゃん」

『あ、宗哲? この間気に入っとったバンドのライブ、行かへん?』


タケちゃんは関西出身。親しい友人の前では関西弁で話す。


「おー、行きたい」

『じゃ、オレ、ミナトの分もまとめてチケット取っとくー』

「さんきゅー」


現在、横浜のレコード店に来ていたバンドにハマり中。インスツルメンタル。管楽器やバイオリンが入ってて、踊れるノリノリの曲が中心のかっけーバンド。


ピンポーン


スマホの向こうでチャイムの鳴る音がした。


『あ、誰か来よった』

「サッカー部?」

『かも』


かちゃっと音が聞こえた。タケちゃんはスマホで話しながら玄関のドアを開けたようだった。


『ぅわっ!』


タケちゃんの驚く声。そして誰だか女の子の声が小さく耳に入ってきた。


『西武君しかいないのっ』


ひぇぇぇぇ。すげーの聞いちまった。


「あ、じゃな」


ぴっ


オレは急いで通話を終了。


なになになにタケちゃん。そーゆー女の子いたわけ?

だよな。隠してるけど、ホントはすっげーイケメンで、いいヤツで、サッカー部だもんなー。


タケちゃんはももしおのことが好きだった。2人は膝かっくんをし合うほど仲がいい。それは今も。

だからオレは、タケちゃんはまだ、ももしおのことを好きなんだと思ってた。


カノジョできたのか。


こんな時間に部屋に来るなんて。現在夜9時。


はー。一人暮らしっていいよなー。


オレだってねぎまと、あんなことやこんなことやそんなことしてーよ。

でもさ、場所ねーじゃん。


オレの家はサザエさんとこ並みに大人数。しかも、専業主婦の母が家に常駐。年金暮らしの祖父母までいる。

つまり、家にカノジョを連れて来ても「今日、誰もいないんだ」なんて日はない。あるとすれば、親戚の法事か葬式。それって、オレも不在。意味ねーし。



場所あるじゃん。


失念していた。オレは祖父から船のエンジンのキーを貰った。「いつでも使え」と。ちなみに船舶免許は持っている。

かっこいいクルーザーじゃなく釣り船だが、沖に行けば2人きりになれる。

この際、魚臭いのは無問題(もうまんたん)


よし。太陽だけが見ていた作戦だ。


んーっと、部活がないのは水曜日。その日はデートのために塾の授業を取っていない。

日が傾くのが早くなったから、ねぎまと2人でサンセットクルーズも悪くない。


オレは、茜色に染まる空をバックに2人の陰か重なるところを想像した。そして太陽が水平線に沈んでいくのと同じように、1つになった影が船の中に沈んでいく。

ダメじゃん。

横浜の海は日の出は見えても日没はムリ。太平洋側だもんなー。


もういっそのこと、星を見るってのは? 

いーじゃん。


よし。星だけが知っていた作戦でいこう。



いつでもクルージングデートができるよう、オレはいそいそとラケットバッグにライフジャケットを2人分詰め込んだ。学校に置いておこう。自然に頬が緩む。


いやー、冬になる前に思いついてよかったよ。服脱いだら寒いじゃん。……。別に、そこまでは望んでないけどさ。えーっと。二人っきりになりたいだけ。


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