Do My Best
マリーナに着いたときは緊張が解けてへとへと。
吐きそ。
昼飯、食ってねーし。
「お腹空いたー」
ももしおは赤ちゃんパンダ状態。あれ? 脂っぽい弁当食ってなかったっけ。
場所を変えることにした。昨夜は船内泊だった。体が参ってる。
ピポピポピポーン
コンビニのチャイムって妙に明るい。
オレ達はやたら食べ物を買いまくった。最後の晩餐かもしんねーじゃん。
人工的な街並みをバックにアスファルトの上を歩くねぎま。横浜が良く似合う。
オシャレに着崩した制服。色付きリップだけなのに、はっとするほど綺麗で。
風がふわふわとウエーブした髪を揺らす。白い薔薇の花びらを寄せ集めたような佇まい。
その姿を脳裏にインスタ。
明日、ひょっとしたらオレ達は捕まるのかもしれない。
今夜、捕まるのかもしれない。
3メートル先に警察がいるのかもしれない。
そこら中に設置された監視カメラ。
量販店で星条旗のバスタオルを買ったのなら、それだって映っているだろう。
パンダの糞を調べてミルクを特定されたら? ミルクを買った記録も店に残っている。
オレが船を使ったことはマリーナに記録がある。
また今夜もオレ達は、過去のことを話して笑い合うのか?
ミナトの家のマンションに着いた。
ミナトの両親が所有している賃貸用の高級マンション。6月から空室なのをいいことに、しょっちゅう集っている。前住んでいた人が家具を置いていってくれたから、快適。
27階は絶景。
マンションの部屋に入った途端、オレは伸びをし、ミナトはソファにダイブした。
ねぎまは手を洗いに行き、ももしおは自分の弁当の前に座って合掌。
おい、ももしお。お前だけは昼飯食っただろ。
3時半か。
ぜんぜん時間経ってねーじゃん。
午後のショーは1時からだった。
レディファーストでももしお×ねぎまがシャワーを浴びているとき、ミナトと話した。
「明日捕まるかもしんねーじゃん。でも、最善を尽くしたいんだけど」
隠し通せるところまで隠したい。隠蔽したい。
目の前のジェントルマンはなんて言う? 「自主しよう」って?
「オレも。スマホに何も残ってないのはよかった」
ミナトは静かに微笑んだ。
その不敵な笑みに息が詰まりそうになる。
「オレ、星条旗のバスタオル、回収してくるべきだったよな」
後悔にさいなまれていると、ミナトは首を横に振った。
「よかった。最高の演出で。
これからできることを考えよう。バスタオル、どこで買ったんだろーな」
「もう1つ、あの2人、レンタサイクル、どーしたんだろ」
「あー、それもあった」
ミナトはでかい左手で頭を抱えた。
「ももしおのやつ、雑技団の人らにどーやって技習ったんだ? それからパンダ犬は?」
「忘れそうになってた。パンダ犬」
チャラチャラチャチャ♪ チャラチャラチャチャ♪
チャラチャラチャチャ♪ チャラチャラチャチャ♪
オレの頭の中でミッションインポッシブルのメロディが流れ始める。
余裕が出てきたのかも。さっきまでの悲壮感じみたものが払拭された。
湯上りのももしお×ねぎまは、やや深刻な面持ちでリビングに現れた。
そして、いつもだらんと無防備に自然に脚を開くももしおが、姿勢を正し、脚を揃えて座った。
ももしおの隣にねぎま。背筋をを伸ばして手を膝の上に置いている。
ねぎまが口を開いた。
「宗哲クン、ミナト君、今、話し合ったんだけどね、私とシオリンは自首しないつもりなの」
「「オレらも」」
ミナトとオレは同時に答えた。
残る恐れがあるから、紙には書かないで話し合うことにした。
まず、レンタサイクルは既に駐輪所に返却済みだった。1つクリア。
「パンダ、すっげー重かったじゃん。パピコ横浜までちゃりで行ったんじゃねーの?」
「宗哲ク―ン。一晩借りっぱなしだったんだよ。まだ借りてたら料金がかかっちゃうじゃん。それに、教科書マックスで入れたときのラケットバッグの方が重いから」
そーなのか。へー。
ももしおは雑技団のメンバーには、本物と交代するまでバレていなかったという。中国語は分からなかったけれど、誰もももしおを責めなかったとのこと。
「じゃ、どーやって技覚えたんだよ」
「なんとなく。ほら、服交換した後、私、連れていかれたじゃん?
あれって練習のためだったの。そのとき、動画観せられて、ジェスチャーでいろいろまくしたてられて。だから、恐くて覚えたの」
なに、その能力。
「シオリン、すっごーい」
パチパチパチ
ねぎまが手を叩く。
「じゃ、ももしおちゃんはその時間のアリバイがあるってことだよな。交代のときにバレたなら、やっぱ、そこは隠さない方がいい。ももしおちゃんは、楽屋に遊びに行って、雑技団の女の子と服を交換した。そのままで」
「じゃあ、私はシオリンを探してたってことにする」
ねぎまが頷きながら言った。
「カメラの映像で入場者をチェックされたら、袋が大きかったからまずいかも」
オレは部屋の隅に置かれた荷物に混じる黒いバッグに目をやった。
「リュックはマイマイだけにして、私のバッグっぽくしてみたんだけど。ムリかなー」
あらら、リラックスしているせいか、またまたももしおがスカートの中全開で座ってる。
なんかこんなとき、指摘する気力ねーし。
「ももしおちゃん、じゃ、自分のリュックはどこに置いた?」
「レンタサイクル返した近くの公園」
は?
「公園?」
ミナトも首を傾げる。
「だってぇ、コインロッカーに預けたら、あーゆーとこって監視カメラあるんでしょ? 大丈夫だよー。教科書やノートしか入ってないもん」
だってじゃねーし。
「大丈夫だよシオリン。きっと親切な人が学校に届けてくれるよ。ちゃんと学校の住所と電話番号がついた進路説明会の資料とか、高校の名前が入ったバド部のジャージ入れたから。ね」
「ね」
ももしお×ねぎまが顔を見合わせて、こてっと首を傾ける。
おいおいおい。でも、普通取りに行くじゃん?
ももしおのラケットバッグについては、その1時間後、交番に届いていると家から連絡があった。
交番→学校→家→ももしおという経由を辿ったらしい。
じゃ、この問題もクリア?
残るは「星条旗のバスタオル」、女子高生が買った「赤ちゃん用ミルク」の問題。
まず、あらゆる買い物はニコニコ現金払いでこちら側には記録はないし、店側にも名前の記録はない。
星条旗のバスタオルは、かなり売れていたらしい。みんなが買っていたから安いことに気づいたとか。
大判のふかふかバスタオルが380円。これが安いのかどうかなんて、オレ、相場知らねーし。
「山積みになってて買ってた人はいっぱいいたから、目立たないとは思うけど」
ねぎまは顔を曇らせた。
「じゃ、聞かれたら、ラケットバッグと一緒に置いてあったはずなのに、警察に届いたのはラケットバッグだけだったってことにする」
ももしおがもっともらしい嘘を思いついた。
「じゃ、オレらはバスタオルを見てないってことにする?」
ミナトが聞いてくる。
「ダメだ。だってさ、ここで開封してタグ外した」
それらのゴミは、まだ船の中。
処分しないと。祖父が怒る。警察の尋問の方が怖そうだけどさ。
「なら、バスタオルは船で開封したってことで。いきなりクルージングすることになって、バスタオルを買った。ぜんぜん不自然じゃないよな。で、宗哲とオレは、バスタオルは船で見ただけでなくしたことも知らないし気にもしてなかったことに」
ミナトがまとめ、バスタオル問題はクリア。
赤ちゃん用ミルクと哺乳瓶はドラッグストアで購入したとのこと。
哺乳瓶はまだねぎまのリュックの中にあるし、スティック型の粉ミルクの空も同じくねぎまのリュック。
「買ったことが記録に残ってるんだったら、処分したら怪しくない?」
ねぎまの言うことも一理ある。でもさ、どーして買ったのか訊かれたら?
「じゃ、学校にいる野良猫にミルクをあげるためってのは?」
ももしおが得意気に人差指を立てた。
「猫?」
初耳。
「シオリン、天才。あの子ね。ミケちゃん1号2号」
ねぎまも知っているのか。
なんでも、学校の校舎の端、日当たりの悪い場所に子猫がいるそうな。誰かがどこからか持ってきた段ボールに入れられ、これまた誰かがどこからか持ってきたフェンスの切れ端で烏避け対策もばっちりなんだとか。ただ、実は哺乳瓶でミルクを飲むころは過ぎているとのこと。
ん? フェンス?
ふと、プールの壊れたフェンスを思い出してしまった。
いや、あれは確かに劣化によるものだった。それにさ、破れてただけで、穴が開いてたわけじゃねーし。遠目には塞がって見えたから、夏のプールの授業で気づかなかったわけだしさ。
「フェンスって、誰が用意した?」
「はーい!」
ももしおが誇らし気に手をピンと挙げた。
ホント、期待を裏切らないヤツだよな。
「やっぱりシオリンだったの? どっかで見たことあるフェンスだなーって思ってたの」
「壊れてたとこ、切り取っただけだよー」
ねぎまはニコニコとももしおの頭を撫でた。褒めるんじゃねーよ。思いっきり調子に乗ってるから。
これで、全クリ?




