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スマホが無事でヨカッタ

どーすんの。

あとは逃げるだけなのに。


「ももしおちゃんって、スマホは持ってんの?」


ミナトがねぎまに聞いた。


「ちょっと連絡してみる」


ねぎまがももしおのスマホに連絡すると、なんと、雑技団の1番後ろを歩いていた女の子が胸の間からスマホを出した。やっぱ、ももしおじゃん。どこにスマホ隠してんだよ。


ももしおはスマホの画面をちらっと見て、再びスマホを胸に格納した。


「ももしおに、なんて送ったの?」


ねぎまが見せてきたスマホの画面を見ると『Pは50(絵文字)にいるよ』のメッセージ。


は? それで伝わる? 絵文字の部分にはバレリーナが穿くトウシューズ。

「50(トウシューズ)」で「ごじゅうのとお」って? なんの遊びだよ。こんな緊急事態でまで女子っぽいことすることねーじゃん。

オレらのことを伝えてもいねーし、ももしおがどうするつもりなのかも聞いてもねーし。言葉足りてねーじゃん。


用意が始まったからか、人が舞台をちらちら気にし始めた。

まだ犬を入れていなさそうなのに、どういうわけか五重の塔が舞台に出てきた。パンダ犬は?

オレが首を傾げている間にも舞台の上にイスが5脚並べられた。


あんなに人がいっぱいなのに。ももしお、逃げるに逃げられねーじゃん。トイレ行くふりでもなんでもしろよ。


警備員が舞台前にスペースを作っている。

そして、10脚ほどが舞台前に並べられた。特等席。


そこへ、数名が案内されて入って来た。ダークスーツの男達と金髪の女性2名。誰?

なんだか関係者が超丁寧に頭を下げてるから、タクシーの運転手が言ってた「偉い人」なんだろーな。


そして、会場内は薄暗くなった。といっても、展示物が見えないほどじゃない。舞台に注目が集まる程度の照明。


チャイナドレス姿の二胡奏者が舞台に上がる。観客が舞台に集まっていく。


二胡の演奏が始まった。

中国独特の音階の曲とクラッシックっぽい、題名は知らないけど有名な曲。ミナトとねぎまは曲名を知っていそう。それから、アメリカの古めのヒットソング。

ってことは、ひょっとして貴賓はアメリカ人?


オレ達は、舞台がぎりぎり見える会場のドアの前にいた。


『**ブースの横のドア』


ねぎまにメッセージを送ってもらった。


ももしおがまだ逃げてこない。舞台裏から出て来たら分かる。人だかりは舞台の前面だから。しかも、衣装が派手。


こんなに心配しているのに、ももしおからの連絡はなし。


とうとう、雑技団の演舞が始まった。

上手から3人が出て来て舞う。下手から別の3人が加わる。

そして、中央から数人が出てきた。


え!


目を疑った。

ももしお。

お前、なに考えてんの?


なんと、ももしおが混じっている。


ももしおは、2人の組手の上に足を乗せ、ひょいっと数人の人の中に投げられた。

かと思うと今度は誰かがももしおの足を片方ずつ掌に乗せて持ち上げる。

すごっ。

人の掌の上に立ってるし。

そのままくる~りと方向を変えて回っていく。

降りてきたかと思うと宙返り。


どこで修業した?


すっげー心臓に悪いんだけど。


しばらく、別のメンバーがアクロバット的なことをし、その間、ももしおは後ろで数名とポーズを作って待機。


次は、しゃがんでいる人のところに倒立前転をしてもう一人が肩車。更にそこへももしおもくるりんと回って肩車された。

そこに人が集まって来て、ひょいっと3段の1番下の人を持ち上げる。


ももしおの下の下の段の人が立ちあがった。


まさか。まさかな。


ももしおを肩に乗せた人も立ち上がった。


やめろぉぉぉぉぉ。


立った。ももしおも立った。

心臓もたねーよ。


人間の4段タワー。

なんか、オレ、貧血で倒れそ。


そして、1番下が段を崩し、3段タワーになる。それは腕を前に出して向かい合い、横に並ぶ。他の演者もそれ加にわる。


ふわっと3人のタワーがワイパーのように倒れていく。


そのとき、ももしおは五重の塔の前を横切った。


パチパチパチパチ

パチパチパチパチ


拍手が起こり、五重の塔の一部が剥がれた。


ダン!


ももしおは着地を失敗?

人の腕のクッションでなく、ももしおが着地したのは五重の塔前の床。


あ!


替わった。

次の瞬間、舞台にいたのは、ポニーテールじゃなくお団子頭の女の子。


ももしお、どこ?


「宗哲!」


ももしお探しに気を取られていたオレの肩を叩いたのはミナト。


「え? ももしおいた?」

「じゃなくて、あれっ」


ミナトの視線を追うと、舞台の中央に金髪の老女が1名上って、五重の塔の中のパンダと記念撮影している。演者は手をひらひらさせて花道を作っている。

パンダは「Welcome」の柄をカミカミ。マントのように纏っているのは、星条旗のバスタオル。


一斉に会場内にスマホの連写音が響いた。


人が少なくなっていた展示ブースから、人はますます中央の舞台に流れていく。


「「「パンダだ!」」」

「「「かわいー」」」

「「「パンダの赤ちゃん」」」


騒然とする場内。


その人の波に逆らって、全身赤の衣装に身を包んだ派手派手ももしおが走ってくる。


「シオリン!」

「マイマイっ」


ぴょん

がばっ


ももしおがねぎまに跳びついた。

ももしおは制服や靴が入ったコンビニの袋を持っていた。


オレの視界に、キョロキョロと辺りを見回すダークスーツの男達の姿が入った。


「逃げるぞ」


オレはねぎまの手首を握って展示会場からエントランスに出た。

ミナトは咄嗟にももしおに自分のグレーのカーディガンを羽織らせる。そうだって、その衣装、目立ちすぎ。

ダークスーツの男が1人、辺りを見回しながらこちら方向に走ってくる。

全力で走りだせば、怪しいと認めたようなもの。だからといって、捕まるわけにはいかない。

苦肉の策が速足。くそっ。焦る。


「逃げて!」


突然、ねぎまが大きな声を出した。周りにいた人が釣られて逃げ始める。オレ達と同じ方向へ。

会場で何かがあったと勘違いしたんだろう。

「逃げろ」「危ない」周りの人達が伝言ゲームを増殖させる。

人の群れが大きくなっていく。

あっという間に、オレ達の目の前にいる人達までもと来た方向へ走り出す。

振り返ると、ダークスーツの男は人の波に溺れながらキョロキョロと視線を彷徨わせている。


大丈夫! オレ達とは特定していないらしい。


大きな人の波は駅方面へ流れていった。

オレ達4人は、海。

ぽかり桟橋へ走るとき、追手はゼロ。



急いで船を係留しているロープを解く。

ももしお×ねぎま、ミナトの乗船を確認し、オレも船に飛び乗った。


出港!




ミナトとオレがキャビンにいたからか、ももしおは、デッキで着替えていた。周りは海。オープン過ぎ。恥じらいを持てって。



日本の警察は世界一。

全ての監視カメラをチェックされたら、簡単にオレ達に辿り着く気がする。


もう覚悟はできてる。



目的はねぎまの望みを叶えること。パンダを生かすこと。

あんな風にみんなの前にお披露目されたから、殺されることはないだろう。



「あ、パンダのことみんな、いっぱい呟いてる」


ねぎまが嬉しそうにスマホを指でスクロールする。


SNSで全世界同時発信の昨今。

ネットではパピコ横浜のパンダの話題が急上昇。

写真もいっぱい。

あ、全世界じゃねーのか。中国とかは違うんだっけ。


ネットによれば、来賓はアメリカの元大統領夫人。

へー。

非公式に日本を訪れていたらしい。現在はボランティアで活動をしているとあった。

現大統領は、パンダが中国からアメリカにプレゼントされたことに感激しているとのこと。


「アメリカって、今は夜中なんじゃねーの?」


オレは時差を気にした。


「アメリカの大統領は寝る暇なんてないんじゃない?」


ねぎまの言う通りかも。地球は丸くてどっかは昼なんだもんな。

んー。たとえば全世界に一斉に朝昼夜が来たとしても、寝る暇なんてねーよな。

こんな世界の片隅の高校生のイタズラもどきにも反応しなきゃならねーんだもんな。

トップってタフ。


ん?


「あのさ、オレらのスマホのSIMは?」


尋ねると、ももしお×ねぎまはぎくっと肩を震わせた。


「えーっとね、ほら、もし警察に捕まっちゃったりなんかしたとき、調べられると迷惑かけちゃうじゃん?」


言い訳がましい、ももしお。


「釣り道具の中。ほら、宗哲クン、ハサミ使ってたじゃん。あれが入ってるとこ。うふっ」


ねぎま、「うふっ」じゃねーし。


「あのね、もしね、もし捕まったらだよ、うちらのスマホからミナト君と宗哲君が連絡くれたって分かっちゃうじゃん? でもって、スマホ自体を船に隠すには大きすぎるから見つかるし。だって、捕まること考えるとスマホをうちらが持ってくってできないでしょ?」


お前のしわざか、ももしお。


「ももしおちゃん、だからってSIM抜くのは」

「だって、海に捨てようって言ったら、マイマイがSIM抜こうって言ったんだもん!」


ももしお、海にスマホを水没させようとしてたのか。SIMでよかったー。


釣り道具のところを見てみると、ビニール袋に入れられたピルケースの中にミナトとオレのSIMがあった。無事救出。


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